第189話 巻き起こるは戦いの風

前書き

ルイ(レイナ従弟)視点スタートです

―――――――――――――――――――――――――――――――


「ここから出しなさい! 出せー!」


 叫ぶルビー姉さんに対し、番兵はいつもと同じ行動をするだろう。この時間の番兵は短気な性格だ。――つまり、怒鳴り声をあげて注意しドンっと鉄の扉を叩く。


「だからうるせえつってんだろ――熱ッう!?」

「かかった!」


 鉄の扉は姉さんの魔法、《火炎》によってあらかじめ熱されている。そんな高温の扉を思い切り叩いた番兵はたまったものじゃない。そんな番兵の次にとる行動は――


「てめえ! このガキどもが、なめ腐りやがって!」


 ――この短気な番兵は、仲間を呼ぶことよりも個人の怒りを晴らすことを優先させる。所詮は野盗に毛が生えた程度の集団だ。


「《氷結》! いまだ姉さん!」

「わかっていましてよ! 《光の加護》よ、《光子拳こうしけん》オラあああああッ!!!」


 得意な属性じゃないけれど、僕は扉の一点に《氷結》の魔法を撃ちこむ。さらにその場所に姉さんが、光属性の魔法で肉体強化し魔力をまとった拳を淑女が出してはいけない雄叫びをあげながら叩き込んだ。


 ――ドゴッ!


 そんな鈍く響く音、しかしこの洞窟のアジト内には響き渡らない程度に計算された音をともなって、鉄の扉が拳大こぶしだいにくり抜かれる。熱され急速的に冷やされた鉄の扉は、ちょうど《氷結》をかけた部分が脆くなっている。


「ぬがっ!?」


 くり抜かれた鉄はこちらに乗り込もうと扉の真正面に立っていた、短気な番兵の男の顔面にものすごい勢いで直撃し意識を奪った。よし、計算通りだ。


「番兵は倒したわね! 次はどうすんの?」

「こうする。《影の手》よ」


 僕は闇属性の魔法で一本の細長い《影の手》を造り出すと、先ほど空いた穴を通って外へ出す。そして気絶した番兵の身体を漁る。


「……あった。鍵だ」


 見つけた鍵で扉を開錠。姉さんが殴った衝撃で少し歪んでいた扉は、少し開けづらかったが無事に開いた。


「最初からその魔法で鍵を奪えばよかったんじゃないの?」


 ルビー姉さんはそう言って、食事の出し入れに使っていた細長い穴を指さす。


「鍵を探している間に気がつかれちゃうよ。さて次は……、巻き起これ《煙霧えんむ》!」


 この《煙霧》は塵や砂ぼこりを巻き上げ、高密度の煙幕を張る風属性の魔法だ。換気能力の弱い洞窟なら、長めの時間稼ぎになってくれるはずだ。


「やるわねルイ。さあ、他のやつらが来る前に脱出するわよ。出口はどちらかしら?」

「遭難した時は、目立つようにして救助を待つのがセオリーなんだけどね……」

「今更何言ってんのよ。それにこれは遭難じゃないわ」

「それもそうだね。なら脱出ついでにでも貰っていこうか」

?」


 ルビー姉さんは僕の言葉に怪訝けげんな顔をする。僕たちは虜囚の身になっていたのだ。その分の慰謝料くらいもらって当然だろう。それに脱出したところでここがどこかわからない以上、保護を求めるのはこれまた難儀だ。


「……ルイ、あんた悪巧みをしている顔になっていますわよ?」


 ククク、おっと。どうも僕は姉さんとは違う方向で顔に出やすいタイプだ。たまにこうやって姉さんに指摘される。でもそういう姉さんもどこか楽しそうだ。さあ、面倒くさいけどもうちょっと頭を働かせてみようか。



 ☆☆☆☆☆



『敵魔導機部隊を確認。数は四……いや五。まだまだ森からでてきます!』

「了解! 空中の主力はこちらで受け持つから、あなた達は地上部隊への牽制を!」

『『『かしこまりましたお嬢様!』』』


 今出てきている部隊だけで軽く十機は超える。これが野盗、残党の類とは聞いてあきれるわ。間違いなくハインリッヒの時のようにバックがいるはずよ。まあでもそれは今関係ない。集中集中!


「ルビーとルイを返してもらいますわよ! 《火球》!」


 魔法の光は高熱のビームとなって、敵の魔導機……確かドルドゲルス製の〈ブリッツシュラーク〉を撃ち抜く。敵の部隊は仲間がやられことに少し動揺を見せたけれど、すぐに反撃の魔法を撃ちこんでくる。


「効きませんわ! 《光の壁》よ!」


 ほんの数か月前までは戦場にいた。けれど懐かしさを感じる、この脳がひりつく感じ。私は命をチップにして敵の命を奪う。前世では経験しようもなかったことだけれど、すぐに慣れた。慣れてしまった。


「《火球》五連!」


 今度はサブアームも展開し、五連の《火球》で敵を襲う。一機を撃破し、一機の左足を吹き飛ばした。また命を奪った。


 奪う、奪われる。私はそんなのでグダグダ悩むよりも、ただ大事な人たちを護りたいから突き進んできた。そこに後悔はない。


「くっ……!」


 飛んでくる魔法を回避する。新手だ。まったくなんて数なの? こんなことなら〈バーズユニット〉も再生しとくべきだったわ……。


 それに今度はグッドウィン王国製の〈バーニングイーグルⅡ〉だ。地上にはアスレス王国製の〈エクレール〉も見える。まったくもって万国魔導機博覧会の様相だ。エイミーが見たらきっと喜ぶわ。


「まとめて吹き飛びなさい! 《獄炎火球》!」


 こちらへの攻撃に集中して三機まとまっていた相手に対して、私は火属性の上級魔法《獄炎火球》を撃ちこんで吹き飛ばす。


 魔力チートな私が撃つと、初級魔法の《火球》でさえとんでもない威力だ。上級魔法の《獄炎火球》だともはや凄まじいまでの威力。そのうえ魔法を強化する魔導機で撃つんだから消し炭も残らない。


「オーホッホッホッ、ごめんあそばせ。けれどあなた達は私たちレンドーン家に喧嘩を売ったのよ。それがどういうことか身をもって教えて差し上げますわ!」


 そしてこの世界にまた火種がくすぶるのなら、より大きな炎で消し飛ばさなければいけない。夢のキャッキャウフフなスクールライフを送る為に!


「さてと、クラリス達は上手くやっているのかしら――ッ!?」


 ぞわりとした感覚があって、私は〈ブレイズホーク〉を急速回避させた。それが正解だった。今の今まで〈ブレイズホーク〉がいた位置を、凄まじい威力の竜巻が吹きすさぶ。


 ――これは風魔法ね。ということは!


「初めまして“紅蓮の公爵令嬢”。俺はイェルド。“旋風”のイェルド。どうもボスはお前をご所望みたいでな。いっちょご同行願えないか?」

「誰があんたなんかと……!」


 聞こえてくるのは男の声。迫ってくるのは見たことのない魔導機だ。モスグリーンのボディーカラーに、特徴的なすごく長い両腕。たぶんがサイス領に現れた未確認機で間違いないわ。


「そうか。なら無理やりでも連れて行かせてもらう。《旋風》!」

「くっ……! 《光の加護》よ……きゃあっ!?」


 ――これが《旋風》!?


 相手が唱えた《旋風》は、風属性の初級魔法だ。私も使える――というか、泡立て器変わりに使ったり、攻撃に流用して《レイナドリルアタック》にしたりとかなりの頻度で使っている。


 いくら魔導機が魔法を強化してくれるとは言え、私ならともかく普通の人が使う《旋風》は小規模の竜巻を起こす程度のものよ。


 ……けれど今のは違った。


 今放たれて私が魔法でなんとか防御した《旋風》。そしてさっき飛んできた《旋風》はそんな威力じゃなかったわ。――荒れ狂う竜巻。それこそ上級魔法の《暴風竜巻ぼうふうたつまき》だと勘違いするくらいに……!


「俺は二つ名の通りが得意なんだ。さあ、“紅蓮の公爵令嬢”。お前の炎を俺の《旋風》でかき消させてもらうぜ!」


 自称神気取りのハインリッヒを倒して今、はっきり言ってこの世界に敵はいないと思っていた。せいぜいドルドゲルスの“絶対最強”さんくらいだと。未確認機も私自慢の魔法で簡単に撃墜できると思っていた。けれど違ったみたいね。どういうカラクリかは知らないけれど、たぶんコイツ……手強てごわい!

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