第188話 動き出す作戦

前書き

今回はディラン視点スタートです

―――――――――――――――――――――――――――


「ディラン、いい加減座って落ち着いたらどうだ」

「落ち着けません。逆にルークはよく落ち着いていられますね!?」

「俺だって気が気でないさ。でもどうすることもできねえ……」


 そう言って従兄弟のルークは、悔しそうに顔を歪ませる。彼と僕――ディラン・グッドウィンは想いを同じくしている。今再び危険な戦いに身を投じる、友であり大切な女性でもある彼女の無事を案じている。今すぐにでも駆け付けたい。けれどそれはできない。僕は昨日の事を思い出す――


『何故です父上!? 敵の勢力は山賊などと称するにはあまりにも多勢です。それに未確認の魔導機なんてものも存在する。王国の治安を守るためにも、討伐軍を編成するのが筋では?』

『ディラン、そなたの言うことも一理あるがそれはできん』

『だから僕は、その理由を問うておるのです父上!』

『レンドーンには広大な所領を与えておる。ならばこの程度の賊を鎮圧するのに、不足があろうものか』


 確かにレンドーン公爵家の領土は広大で、それゆえに保持している戦力も強大だ。魔導機部隊も独自のカスタマイズが施されている。正論だと思う。


 しかし、かの家は先の大戦で常に最前線を戦い、その戦力は摩耗している。敵の戦力は多い以上、厳しい戦いになることは避けられないだろう。つまり彼女に危険が及ぶ。


『例え厳しい戦いであろうとも賊を討ち取り、私の前に首を差し出す事で忠義が示されるというものだ』

『……わかりました。では僕は個人的に戦列に加わろうかと思います』

『ならん! お前は事が済むまでの間、王宮にいろ。トラウト家のルークも呼んでおけ!』


 ――かくいうわけで、僕とルークは軟禁……という言い方は大袈裟か。外出禁止令が言い渡され、王宮にて歯がゆい気持ちを味わっているのである。


「俺も一応レイナに連絡はとったが、『お家の立場を悪くしますわよ』と断られた。パトリックもだそうだ」

「ライナスは?」

「レンドーン傘下の西部貴族も同様だな。助力の禁止が言い渡されている。だがラステラ家は戦力が空っぽになったレンドーン領の警備を頼まれているみたいだな。それくらいは許されたんだろう」


 なるほど。聞くところによると、エイミーも王都にいることを言い渡され魔導機のパーツを送るのが精いっぱいだと言っていたそうだ。


 一度は死んだと思った貴女がせっかく帰って来てくれたのです。今度も絶対無事に帰って来てくださいね、レイナ……!



 ☆☆☆☆☆



「で、姉さん。どうやって脱出するの?」

「それはルイ、あんたが考えなさい」


 ルビー姉さんはそう言って、パシリと僕――ルイ・レンドーンの頭をはたく。


 相変わらず暴力的な姉だ。まったく、なんでこんな暴力の塊が血を分けた兄弟どころか双子の姉なのかわからない。――でも知っている。ルビー姉さんはこんなんだが心は優しく、武芸を磨いているのは僕や家族を守るためだと知っている。だから僕は知恵を働かせる。


「姉さんが馬鹿みたいに出せ出せ叫んでいてわかったことがある」

「馬鹿みたいには余計ですわ! で、なに?」

「外の番兵は一人だ。それが一日に三交代制。昼、夜、夜中だね」

「……なんでそんなことがわかるのよ?」

だよ。僕は本を読みながら、足音を聞いていた」

「そして姉さんが叫んだ時に番兵がとる行動は三種類。ドンと扉を叩いて注意する、無視してぼやく、なだめてくる、三人で三通りさ。声を聴く限り、少なくとも今まではその三人以外の変更はない」

「なるほどね~」


 ああマズい。姉さんの顔が早くも理解していない顔になっている。この「なるほどね」はわかっていないなるほどねだ。


「足音の響き方、声の響き方からもう一つわかったことがある。ここはたぶん……洞窟を利用したアジトだ」


 連中のバックボーンはわからないけれど、山賊のような輩が潜伏している場所なんていくつかに絞られる。古城や廃城、山中、そして洞窟。音の響き方から言って、ここはたぶん天然窟を利用したアジトだ。


「それがなんなの?」

「元は洞窟だから換気能力が弱い。姉さん、火属性の魔法は使えたよね?」

「レイナお姉さまに憧れて練習したから、一応ね」

「それならいける。さあ、耳を貸して――」


 僕は思いついた策をルビー姉さんに伝える。上手くいくか、いかないか……。いいや、必ず上手くいくね。レンドーンの家名を名乗る僕たち二人にできないことではないはずだ。



 ☆☆☆☆☆



「ふう……、なんとか間に合わせることができたわね」


 王都から〈ブレイズホーク〉を届けてもらうついでに、エイミーからの物資が届いて良かったわ。はっきり言って稼働可能な魔導機数に不安があったもの。けれど操縦者ばっかりは数日で促成栽培そくせいさいばいというわけにもいかないから、やっぱり数には不安が残る。


 魔導機の操縦って結構難しいのよ。とても一朝一夕では乗りこなせない。そう考えたら、エイミーの指導があったとはいえ土壇場に一発で乗れた私ってすごくない? すごいわよね? いつもは恨めしい魔導機の操縦センスだけれど、こういう時ばっかりは感謝したいわ。


「というわけで、頼むわよ〈ブレイズホーク〉」


 私はそう言って、〈ブレイズホーク〉の操縦席をなでる。なんだかんだこの子との付き合いも長い。愛着だって結構湧いている。いくつもの戦いをくぐり抜けてきた仲だし、何より大切な友人からのプレゼントでもある。


 敵には見慣れない機体がいると言っていた。私の〈ブレイズホーク〉をエイミーが開発したように、今では各国競って新型魔導機の開発に勤しんでいる。その機体もそんなうちの一機をどこからか入手して運用しているのかしら?


 ま、ハインリッヒ亡き今、そういった裏事情だとか陰謀みたいなお話は、お父様や別の人にお任せしましょう。私は別に勇者でもなんでもありませんからね。


 私としてはこんなドンパチなんてさっさと終わらせて、夢のキャッキャウフフなスクールライフを堪能したいわ。物語はすでにエンディングの向こう側。あるはずのない四年生。一人のマギキンファンとしてアリシアたちのその後が気になるし、私も思う存分この世界に浸りたい。


 なんて言ったって、もう既にを経験しましたからね。あれ以上にバッドなエンドがあろうか、いやない!


『レイナ、聞こえるかい?』

「はいお父様、聞こえますわ」

『突入部隊が敵アジトの入り口を発見したようだ。魔導機による陽動を開始してくれ』

「わかりました。レイナ・レンドーン、〈ブレイズホーク〉発進します。魔導機部隊は私に続きなさい」

「「「はっ! レイナお嬢様! “紅蓮の公爵令嬢”の戦場に勝利を!」」」


 “紅蓮の公爵令嬢”。そんな少年漫画チックな二つ名で呼ばれることにもだいぶ慣れてしまったわね。そのハッタリが有効なら、とことん使い倒すまでよ!


 さあ待っていなさい、ルビー、ルイ。すぐに私があなた達をさらった不逞の輩を焼き尽くして、助け出して差し上げますわ。オーホッホッホッ! ……癖になってるこの悪役令嬢高笑いって、私一生抜けない気がする……。

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