第171話 私が愛するこの世界

「神話神話って既に神様気取りかしら? おごりが過ぎると思いますわよ?」

「もう時を待たずとして私が新たなる神となるのだ。今の神の傲慢さに比べれば、少々の驕りは許されるだろう」

「傲慢……?」


 そう言えばハインリッヒは前々から神様の事を傲慢だと言っているけれど、私が出会ったおとぼけ女神もこの男に比べれば謙虚なものだわ。


「そうさ、傲慢だとも。もし神がいるのならなぜ私にチートを授けなかった? なぜこの世界の未開の住民に襲われる私を助けなかった? 神は天に座して私を嘲笑あざわらっていたのではないのか? それを傲慢と言わずして何と言う!」

「そんなくだらないひがねたみで……!」


 自分を特別視しなかったから神様を殺して、自分が神様になろうというの? 厄介なストーカーがついたものねおとぼけ女神。


「私がこの世界を科学と魔法によって正しく導くのだ! 何も与えぬ神は廃した方がこの世界の民にとっても幸せだろう?」

「それは間違っています!」


 私の後ろから、アリシアの凛とした声が響いた。


「神様は見守ってくれるだけで、頑張るのは私たちです! 何かを得たい、何かしたくて努力する私たちを神様はきっと優しく見守ってくれています。神様が何も与えてくれなかったから文句を言うのは違います。何かを得たいならあなたが努力しなさい!」


 アリシアは魔法の才能に恵まれた。けれどそれ以降は彼女の努力よ。テストの成績が良いのも彼女が頑張ったからだし、みんなに好かれているのも彼女の努力だ。


「未開人の小娘が生意気な! 《インヴィジブルアロー》!」

「――きゃあっ!」


 またしてもが私たちの〈グレートブレイズホーク〉を襲う。もう! ラスボスづらして出てきてやることがせこいのよ!


「《雷霆剣》! レイナ、アリシア!」

「――この声は、ディラン、みんな!」


 飛行する王宮に向かってくるのは、ディラン達四人にレンドーン公爵家の魔導機部隊だ。激戦を繰り広げてきただろうそれらの機体は、みんなボロボロだ。


「助けに来ましたよ!」

「ありがとう。でも気をつけて、敵は見えない未知の魔法を使います」

「未知の魔法?」

「そうよルーク、どの系統にも属さない未知の魔法」

「そんなものが!? いや、もしかしたら……?」


 ルークは何か考えているみたい。魔法の専門家の彼なら、もしかしたら対抗策があるのかもしれない。


「全機、一斉攻撃! 標的は皇帝ハインリッヒ!」

「「「了解!」」」


 ディランの号令の下、集った魔導機が攻撃を仕掛ける。濃密な魔法による攻撃、普通なら防がれるものじゃないけれど――、


「効かぬよ、《インヴィジブルウォール》!」

「――やっぱりあの防御魔法! みんな気をつけて、反撃が来るわ!」

「もう遅い! 《インヴィジブルストーム》!」

「――きゃあっ!?」


 ストームと言うから嵐なんでしょうけれど、まるで何が起こっているかわからない。ただ激しい衝撃で魔導機が揺さぶられ、ダメージを受けているのはわかる。


「――そうか、やっぱりそうか! どこからでもなく魔法がぽっと湧き出るなんてありはしねえ」

「何かわかったのルーク?」

「ああ、あれは単に魔力そのものを叩きつけているだけさ。膨大な魔力を、魔法の形にしないでそのまま叩きつける。だからあいつは壁とか単純なことしかできねえ」


 なるほど。ハインリッヒは魔力を取り出す技術を発明している。それなら魔法の形にしないで、集めた魔力をそのまま操ることも可能ってわけね。無加工の魔力は空気のようなものだから、目に見えないのも当然ってわけか。


「……となると、何か対抗策は?」

「あるぜディラン。ここには都合よく、お前レイナライナスパトリック、そしてアリシアと六属性の優秀な使い手がいる。その魔力をあいつにぶつけて相殺するんだ。そうすればこの手品みたいな芸当はできなくなるはずだぜ。でもその為にはおとりになる役目が……」

「その任、我々にお任せを」


 声を上げたのはマッチョな隊長さんだ。


「我々が必ずや好機を作ってご覧にいれます」

「……わかりました。けれど合体の時と一緒で危ないと思ったら退避すること。あなたたちの命が優先されます」

「お優しいご主人様だ。でなければ我らはここまでついて来なかった」


 もう時間はない。迷っている暇すらない。それしか手段はない。けれどレンドーン家は例え世界の存亡がかかっている時でもホワイト企業です。これが終わったら社員旅行……よりも有給とボーナスの方が嬉しいわね。


「何をこそこそとしている! 《インヴィジブルアロー》!」

「来た! では手はず通りに!」


 各機は散開、そしてレンドーン公爵家部隊の機体は〈レーヴェカイザー〉に向かって行く。


「なんだ!? くそっ、どけ! モブの羽虫共が! 《インヴィジブル――》」

「――今だ!」


 ルークの合図に合わせて魔力を叩き込む。私は〈グレートブレイズホーク〉の右手から火の魔力を、アリシアは左手から闇の魔力を。


「お前たち何をして――」


 ――爆発。さながら滞留したガスに引火するように、纏っていた魔力に各属性の魔力をぶつけられた〈レーヴェカイザー〉は爆炎に包まれた。


「やったか!?」


 ああー! パトリックそれはフラグ……!


「《ロケットパーンチ》ッ!」


 突如巨大な拳が飛んできて、味方の魔導機を襲う。爆炎の中から出てきたのは〈レーヴェカイザー〉だ。やっぱり生きていたのね。というかロケットパンチって……。


「《魔力ビーム》ッ!」


 今度は目からビームだ。ただでさえ消耗していたのに、先ほどの攻撃で力を使い果たしていた味方の魔導機が次々と撃墜されていく。馬鹿みたいな感じだけど、それ以上に馬鹿みたいな威力を持つ攻撃だ。


『お嬢様……、どうかご無事で……』


 通信魔法からはマッチョな隊長さんの私の無事を祈る言葉が、かすれかすれで聞こえてくる。みんなこそどうか無事でいて!


「ハインリッヒ、あんたしつこいのよ!」

「不屈の精神と言ってもらいたいな。いやあ、まさかこちらの魔法のタネを見破るとはね。けれど通常の魔法は使えるようだ。であれば最強のスーパーロボットである〈レーヴェカイザー〉に負けはない!」


 確かに〈レーヴェカイザー〉は強い。動きを見る限りたぶん〈グレートブレイズホーク〉より格上の機体だ。でも負けるわけにはいかないわ。


「ディラン、あなたたちの機体はもう限界よ。退いてちょうだい」

「レイナ……。しかしあなたとアリシアを残して退くわけには!」

「後は私たちにお任せを。その代わり残りの魔力、最後の搾りかすまで私たちにわけてくださいな。アリシアの闇魔法で収束させてエネルギーに転換、そうしないと〈レーヴェカイザー〉の装甲は破れません」


 こうなったらさっきの一斉攻撃のエネルギーを、〈フレイムピアース〉に乗せて叩き込んでやるわ。相手がアニメチックな攻撃なら、こっちも愛と勇気の合体攻撃よ。


「レイナ様、殿下たち四人の魔力を制御するなんて可能性の低い賭けです。暴発するかもしれません! そうなると後部の私はともかくコアに近いレイナ様のお命は……!」

「大丈夫、あなたならできるわアリシア。例え可能性が億分の一でも必要な時は成功する。だってそれがってものなのよ」

「……ごめんなさいレイナ様、あまり意味がわからないです」

「世界はあなたを中心に回っているってことよ。だから泣かないでアリシア。ヒロインの涙は恋愛ジャンル最強の武器なんだからとっておきなさい。アリシアならできる!」

「……はい!」


 この世界がマギキンである限り、アリシアはきっと成功させる。ピンチだったら助けが現れ、追い詰められれば力に目覚める。 


「だからみんな、お願いします!」

「……わかりました、お二人に全てを託します! 行きますよ〈ストームロビン〉!」

「お前たち二人の最高の魔法、見せてくれ! 〈ブリザードファルコン〉、全部持ってけ!」

「オレの――ボクの想いも二人と共に! 〈ロックピーコック〉、ここで全てを!」

「本当は僕がカッコつけたいけれど二人に譲るよ。 さあ〈ブライトスワロー〉、二人に花束を!」

「皆さんのエネルギー、……来ました!」


 力を失った四機の魔導機が落下していく。ありがとう、みんな。そしてみんなの愛機。


「超級魔法《火竜豪炎》! 〈フレイムピアースドラゴンフレイム〉!」

「ほう、合体攻撃かい? ペダルを踏むタイミングでも合わせるのかな? ならばこちらも、〈レーヴェシュベルト〉!」


 ハインリッヒは対抗するように大剣を構えた。自信家なアイツの事だ、きっと剣には剣で勝って自分の勝利を知らしめたいんでしょうね。それこそがあいつの命取り! 火力火力火力。私たちの想い全てを火力にして打ち破る!


「エネルギー上昇……すごい、安定しています。〈ミラージュレイヴン〉、私たちの力もレイナ様に!」


 高まる魔力で〈グレートブレイズホーク〉は金色を超えて、さながら紅蓮の炎を纏う様に輝いている。これがみんなの力が魔法になった形だ。


「愛を知らないあんたに愛の力を教えてあげるわ!」

「愛を知らない? この私が?」

「そうよ。あんたの周りは自分に都合の良いお人形ばかりで、本当の愛なんてまるで知らない。だから本当の愛を教えてあげるわ」

「……それが君か!?」

「違うわ、アリシアよ。『マギカ☆キングダム~恋する魔法使い~』のヒロインであるアリシア・アップトンがね!」

「まさか……その小娘が……!」


 あっらー、やっぱり私が主人公だと勘違いしていたみたいね? もし私が主人公だったら、ピンチピンチの連続を必死こいて自分で解決してきてないっての。警戒する相手を間違っちゃったわねハインリッヒ!


「行くわよアリシア!」

「はいレイナ様!」

「味わいなさい! マギキンを……この世界を愛した私たちの《愛のファイナルヒロイン斬り》ッ!!!」


 一閃。敵が振るった大剣をも吹き飛ばす一撃は〈レーヴェカイザー〉を両断した。巻き起こる爆発。天へと伸びる閃光。


「私の魔法の先生が言っていたわ、世界を愛さない者に魔法はここ一番で力を貸してくれないって。あんたは世界を愛さなかったから誰からも愛されなかったのよ」


 ――そして、愛は勝った。


――――――――――――――――――――

一体どれほどの人がマッドン先生の言葉を覚えているのか……?

一応伏線でした

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