第167話 激戦領域
前書き
今回視点が複数回入れ替わります 最初はレイナ視点です
―――――――――――――――――――――――――――――
「これが王宮……!」
私たちが市街に突入する隙をつくる為に、ライナスは一人で戦う道を選んだ。私たちをエンゼリアへ無事に返す為に、シリウスお義兄様は戦線を支えることを決めた。襲撃をかけてきた忍者軍団を足止めするためにルークは残った。戦いを覆う悲しみを一つでも減らす為に、パトリックはかつての敵を助けることにした。私たちを先へ進ませるために、ディランは最強の騎士に挑んだ。
そして「マギカ☆キングダム」の悪役令嬢である私――レイナ・レンドーンとヒロインのアリシア・アップトンは、この世界を歪めた元凶でありまさに世界崩壊の引き金を引こうとする、ハインリッヒの座す王宮へとたどり着いた。
「レイナ様……」
「ええ、ここまで来たらわかるわね。魔力サーバーは地下よ!」
膨大な魔力をビリビリと感じる。まるで空気が震えているみたいだわ。これだけの魔力量、神を殺す魔法なんて話も眉唾じゃないとはっきり理解できる。
「レイナ・レンドーン、あなた達をご主人様の下に通す訳にはまいりません」
若い女の声が響き、複数の魔導機が現れる。その中心は、紫色の機体カラーで日本刀を両手に構えた〈レオパート〉――ヴェロニカだ。
「あら、ハインリッヒの犬のヴェロニカじゃない。いつ以来かしら? あの変質者をひっぱたきに来たんだけれど、アポが必要みたいねえ?」
「ふざけたことを! ご主人様は現在、新世界創造にむけた神聖なる儀式の途中です。貴様のような女に会うことはない!」
はんっ、変質者がいっちょ前に創造主気取りなんてこの世の地獄ね。それに従うチョロインがいるってことも輪をかけて地獄だわ。
「新世界誕生の記念です。ご主人様の……ハインリッヒ皇帝陛下の御前に、貴様らの首を並べてあげましょう!」
「あら、お下品な挑発ですこと。アリシア、フォーメーションで行くわよ」
「はい、レイナ様。サポートはお任せください!」
☆☆☆☆☆
「食らえっ!」
迫りくる〈リーゼ〉の横っ面を殴りつける。もう何体撃破しただろうか。限界を迎えた右腕も同時に砕け散る。
「まだまだ! 《大地の巨腕・青》を接続!」
砕けようともこちらの元は単なる土くれ。あらかじめ作っておいた右腕部を接続する。
何もない所に絵を描くことによって芸術とする。何でもないものを造形することによって芸術とする。レイナが後押ししてくれて歩み始めた芸術の道は、今ではオレ――ライナス・ラステラ自身の無限の表現手段であり強力な武器だ。
「貫け!」
新しい腕《大地の巨腕・青》の先端は尖って回転する。レイナが言うところのドリルだ。取り回しは難しいがその貫通力は随一。〈リーゼ〉の硬い装甲も易々と粉砕する。
「次だ! 《大地の巨腕・黄》を接続!」
今度は左腕を《大地の巨腕・黄》に換装する。柔軟性のある材質によって構成されたこのパーツは、鞭のようにしなって伸びる。オレは腕を伸ばして遠くにいる一体の頭部を掴む。
「存分に味わえ! これがオレ様の芸術だ!」
強引に引き寄せることによって同時に二体をドリルで貫く。足元に積み上げられる巨人の
(さすがに厳しい戦いだな……)
とうに魔力の限界は超えている。だが敵はまだまだ湧いて出てくる。だけどここで踏ん張る事のできる男こそが、かつて思い描いた強い貴族の男だ。
戦場ではいくつもの命の灯が消えていく。この美しくも儚い世界を、オレはまだ芸術にしきれていない。だが皇帝ハインリッヒは世界を破滅に導いているとレイナは言っていた。
「頼むぞ、レイナ……!」
彼女の事だ、今頃はもう王宮へと到達しているだろう。オレは――ボクは幼き日ころから知るレイナの気高さを信じる。彼女の気高さが世界を救うことを――。
☆☆☆☆☆
「ほらほらどうした!? 先生さんよおっ!」
敵の将“慎重なる”ブルーノ・トゥオマイネンはその異名に違わぬ慎重な男だ。口では軽口をたたくが、その実際は慎重にこちらを追い詰めるべく兵を動かしている。本人の魔導機操縦の力量も高く、まさしく手ごわい相手だ。だが――、
「第三小隊は前進! 第十六小隊は二時の方向に魔導砲撃を開始!」
「くそっ! こっちの動きを読んでやがったか!?」
――だがこちらとて、祖国を離れ遥か遠くまで戦ってきた経験がある。自信がある。そして何より負けるわけにはいかない理由がある。
生徒たちよ。この厳しい戦いに貴族の義務として参戦している我が生徒たちよ。お前たちは必ず無事にエンゼリアへと帰してやる。そしてクラリスさん、俺も必ず無事にあなたの元へと戻ります!
「こいつを食らいな《
「――クッ、だが負けられるかッ! 《
敵の攻め方は巧みだ。もっともこちらが被害を受ける状況を考えて、爆発系の魔法を叩き込んでくる。しかしこちらも好きにはさせない。風魔法によって爆風の拡散を調整することによって被害を抑え込み、同時に攻撃を叩き込む。
「さあ講義の時間だ。火属性魔法を使う上で風向きや風の強さは重要だぞ?」
「言ってくれるねえ……。講義のお礼にあの世へ送ってやるよ!」
☆☆☆☆☆
「ドルドン忍法《影手裏剣》!」
「《氷壁》!」
四方八方から放たれる魔法を俺――ルーク・トラウトはなんとか防御する。神出鬼没の奇妙な奴らだ。レイナが言うには忍者というのは異国の暗殺や偵察を行う戦士のことらしい。まったく、相変わらず博識なこった。
「氷の壁など拙者たちの前には無駄無駄ァ! ドルドン忍法
「――何!? これは火属性の……いや、闇属性で“熱い”という情報を直接流して……!」
これまで闇属性一辺倒だった敵の攻撃に反して、炎を纏った突撃をしてくる。だが得意属性以外の魔法でこれだけの威力を出しているとは考え難い。そんな芸当レイナだけで十分だ。
つまり
「それがわかっても無駄でござる! ドルドン忍法は変幻自在の戦闘術。まだまだ水遁も風遁も――」
「ありがとな」
「……どうしたでござる。気でもふれられたか?」
「いいや、まだまだ俺の知らない魔法のアイデアはいろいろあるんだなって感心したんだ。だからこれはそのお礼だ」
「殊勝な心掛けではござるが、依然貴殿が孤立無援なのは変わらぬ。拙者たちを甘く見てひとり残った慢心、その命を対価にいただくでござるよ! 《影の太刀》!」
忍者魔導機〈フレーダーマウス〉軍団の、無数の《影の太刀》が迫る。だが防御はしない。なぜなら――。
「お礼を言ったってことはどういうことかわかるか?」
「……何!?」
「幕引きだってことだよ! てめえら自分が身動きできるかよーく確認してみな!」
「動けない!? ま、魔導機の足が凍って……いや、拙者の足も!?」
「気づいたか? やがてその氷は全身を覆う。これが俺の魔法《
〈ブリザードファルコン〉を中心に円を描くように凍気が広がっていく。忍者たちは確かに素早い。だが素早いことが仇になった。既に全機を魔法の範囲内に捕らえている。
「ば、馬鹿な! これだけの範囲を魔法で凍らせるでござるか!?」
「俺を誰だと思っていやがる? 魔法の名門トラウト家に生まれた“氷の貴公子”ルーク様だ! そして凍らせるのはこの空間全てではなく、お前たちだけだ!」
「そ、そんなことが……!?」
「できるのが俺なのさ。この空間の水分、全て計算させてもらった。知ってるか? レイナから聞いたが人間もほとんど水分で出来ているんだぜ? 自分の水分で凍りついちまいな、多連魔法発生装置フルパワー!」
この空間を覆うように《氷結》の魔法を展開している。誰もこの《絶対凍域》からは逃れられない。捕らわれたら最後、ただ凍り付くだけだ。
「馬鹿な……、拙者の忠義はこんなところでは終わらぬ。ハインリッヒ様の創る世か――」
――やがて静寂が支配する。元は魔導機だった幾体もの氷像が出来上がり、氷の空間が完成した。
「はあはあはあ……、中々に魔力も体力も持っていきやがるぜ……。今襲われたらヤバイかもな……」
レイナは今頃王宮だろう。あいつならきっとやってくれる。だって幼いころから実力を認めている俺のライバルだからだ。俺はあいつの魔法が世界を救うと信じる――。
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