第165話 開幕!帝都決戦

「ご主人様、それでは私は先に出撃します」

「ヴェロニカ、よろしく頼むよ」

「お任せください。ご主人様に歯向かう愚か者共を全て討ち滅ぼして見せます」


 さて、私も準備をしようか。魔力サーバーの発明により魔力を操れるようになった今、この私――ハインリッヒにも魔導機の操縦は可能となった。念願のロボット乗りになった感動は筆舌にしがたいものであったが、専用機のデザインは悩みに悩んだ。


 赤くして角をつけるべきか?

 合体機構を取り入れるべきか?

 生体的なデザインにするべきか? 

 肩だけ赤く塗ってみるか?

 瞳は単眼かそれとも双眼か?


 だが私の使命を考えた時、この姿形がもっともしっくりときた。私は傲慢な神に代わって民を導く言わば英雄だ。英雄には英雄らしい機体が必要だ。


「〈レーヴェカイザー〉……。もうすぐ、もうすぐだ。すぐに私たちがこの世界の英雄となり神となる」


 〈リーゼ〉に匹敵する大型の機体、重厚なフォルム、そして胸にあしらえた勇ましい獅子の顔。愛しい我が愛機に向かって語りかけた。



 ☆☆☆☆☆



『敵大型魔導機〈リーゼ〉の反応を多数確認!』


 警戒を告げるクラリスの声が響く。こっちでも確認できた。私がこじ開けた城壁をカバーするように十機以上が展開しているわ。さすが敵の本拠地。千客万来ですわね。


「さあて、まずは巨人さんたちがお相手かしら?」


 たぶんハインリッヒを止めるまでの時間はもうあまり残されてはいない。さっさと倒さないと!


「いいやレイナ、ここはオレに任せてお前たちは先に行ってもらおう」

「ライナス!? 一人じゃ無茶よ!」

「無茶でも無謀でもやってみせるさ。時間がないんだろ? だからレイナ、先に行け。これはオレ様の命令だ」

「……わかりました、どうかご無事で」

「お互いにな。戦いが終わったらまた絵のモデルになってくだ――もらうぞ。お前に拒否権はない」

「ウヒヒ、いくらでも描いてちょうだい。ただし私の裸はお高いので裸婦画はNGで!」

「それがOKと言われるくらい活躍してみせるさ! 《大地の巨腕・黒》、《大地の巨脚・黒》、《大地の巨翼・赤》、ドッキング!」


 ライナスの魔法によって形成されたパーツが、〈ロックピーコック〉の手に、足に、ボディに装着されていく。そのサイズはみるみるうちに〈リーゼ〉に匹敵する巨大な物になっていく……って、これってまるっと巨大ロボじゃない? ライナスったらいつの間にこんな大技を!?


「言ったろ? だから大丈夫だ。気にせず突き進め、レイナ!」


 もはや初めて会ったときの弱気が嘘みたい。強気で弱気。芸術を愛する心を持ちながらも一人の男性としてたくましく成長した、私が好きなライナスに任せて、私たちはロザルス市街へと突入した。



 ☆☆☆☆☆



「《火球》十二連打ァ! 撃破を確認! ……まったくキリがありませんわ」


 ロザルスへと突入した私たちを待っていたのは、膨大な数の魔導機による手荒い歓迎だった。私もさっきから必死に敵を撃破しているけれど、全然数が減らない。敵が増殖している気さえするわ。


「歓迎するぜお客さん達。さあ、次の部隊も攻撃開始だ!」


 指示を出しているこの男……たしか十六人衆の“慎重なる”ブルーノ・トゥオマイネンとか言ったはず。元は名うての傭兵だそうだ。数の暴力もあるけれど、戦力の投入の仕方もいやらしいわね。


「ディラン、お前を中心にレイナ、アリシア、ルーク、パトリック、それにドルドゲルスの三人で精鋭チームを組め。目指すべきは魔力サーバーのある王宮だ。ここは俺が指揮するから、お前たちは先に進め!」

「いいのですかシリウス隊長!? 僕らが抜ければ戦線の維持は!?」

「戦略目標を見誤るなディラン。王国の戦士たちが何をかけてここまできたかよく考えろ!」

「……了解しました。各機、〈ストームロビン〉を中心にフォーメーション!」


 シリウス先生と他の魔導機部隊にここを任せて、私たちは少数精鋭で魔力サーバーの破壊を目指す。合理的な判断だけれど、ものすごく胸騒ぎがするわ。


「シリウス先生、どうかご無事で」

「レイナ、クラリスさんがお前の姉なら俺はお前の兄貴になる男だぞ? 心配無用だ」

「ウヒヒ、そうですわね。でもご無事で、シリウスお義兄様にいさま


 どうか必ずクラリスの元へ帰ってくださいね、シリウスお義兄様。


「別動隊? 行かせねえよ!」

「やらせん! お前の相手はこの俺、エンゼリア王立魔法学院教師シリウス・シモンズが仕る!」

「教師ぃ!? 教師がなんだってこんなところに?」

「生徒の、引率だあああっ!」



 ☆☆☆☆☆



「ドルドン忍法影手裏剣!」

「――! この攻撃、忍者!」


 もう会いたくはなかったけれど、生き残っているしやっぱりいるわよね。そして飛んできた手裏剣は一つじゃない。いつの間にか周囲を魔導機に囲まれていた。


「これはいつもの分身……じゃないみたいね」

「ハッハッハッ! これぞ拙者、“忍ばざる”デニス・プレトリウス率いるドルドン忍者軍団よ。これより先へは行かせはせぬ!」


 忍者がいっぱい。うわーん、せかいかーん! 面倒な時に面倒なやつが現れるわねまったく……。


「《氷結》せよ」


 静かな声が響き、忍者魔導機の一体が氷づけになって地に墜ちた。ルークだ。


「な、何奴!?」

「ルーク・トラウトだ。人は俺を“氷の貴公子”と呼ぶ。魔法の名門トラウト家くらいは聞いたことがあるだろう? みんな、ここは俺が相手をするから先に行け」

「ルーク……、たしかに〈ブリザードファルコン〉は多数との戦闘を得意とするけれど、簡単じゃない相手よ?」

「忍者だっけか? なあに、サクッと料理してやるさ。さっさと片づけてドルドゲルス料理で祝勝会といこうぜ」


 ……また死亡フラグの塊みたいなことを。


「いいこと? 絶対に無理をしないで。あなたは大切なお料理研究会の副会長なんですからね!」

「わかっているよ終身名誉会長様。お前こそ俺の挑戦を受ける前に死ぬなよ?」

「挑戦ってなんの?」

「魔法にしても料理にしてもだ。俺は挑戦する限り負けてねえ」

「ウヒヒ、ほんと負けず嫌いなんだから」

「どっちがだ。さあ、行け。お前の力を見せてやれ!」


 マギキンでのクールな彼も好きだけれど、私はこっちの親しみやすい彼も好きだ。ルークならきっと大丈夫。ディランの次くらいにはルークと過ごした時間が長い私は、信頼マックスでそう確信する。


「さあ忍者ども。お前たちの忍術と俺の魔法、どっちが強いか試してみようぜ?」



 ☆☆☆☆☆



「……これは一体?」


 忍者の相手をルークに任せて私たちが進んだ先の一画は、植物に覆われていた。ツタとか根とか葉っぱとか、そんなものが無秩序に街を飲み込んでいる。


「――って植物が攻撃してくる!?」


 地面に生えたツタが、根が、まるで生き物の様に攻撃を仕掛けてくる。多分魔法だ。何度か見たことある地属性の植物操作魔法。それの超強力版。


「……コリンナだわ」

「誰なの、派手めギャルちゃん?」

「十六人衆の一人よ。“気弱な”コリンナ・ファスベンダー。その……、友達なの」

「気弱な!? めちゃめちゃ攻撃してくるんですけど!?」

「だからおかしいのよ! レンドーン、ここは私が説得するからあんた達は先に行きなさい!」

「女性を一人残すわけにはいかないね」


 そう言ったのは女性に常に紳士的な男、パトリックだった。


「アデル、これはドルドゲルスの身内の問題。お手を貸していただかなくても結構よ」

「そうはいかないねヨハンナちゃん。皇帝ハインリッヒの思惑でここに配置されているのなら、なんらかの策が裏にあるはずだ。コリンナ・ファスベンダーと言えば毒と薬の専門家と聞いているしね」

「コリンナは友達だから私が止めようと……」

「だから余計に君を一人で残すわけにはいかない。そんな悲壮な顔で語る女性を放っておく僕ではないさ」


 パトリックは襲い来るツタを切り払いながら、自らが残る理由を語る。まあ確かにハインリッヒの狙いが何かわからない以上、派手めギャルちゃん以外にも残って調査をする人間は必要よね。


「レイナ、ということでここでいったんお別れだ」

「ええパトリック。何か恐ろしい感じがします、どうかご無事で」

「確かに恐ろしい。けれど武門のアデル家の次期当主として、例え恐ろしくても退くわけにはいかないね。いつだって君の為に剣をとろう」

「ウヒヒ、今日もカッコいいですねパトリックは」


 ああそうだ。パトリックはマギキンからこういう男性だった。例え相手がどんなに強大でも、ヒロインの為になら剣をとる。適当そうに見えて実は一番思慮深い。ここに残るのは彼なりに相応の理由があってのことでしょう。そんな勇敢なパトリックが私は好きだ。


 さあ、みんなの想いを無駄にはできないわ。私はアリシア、ディラン、ヴィム君、モグラのお姉さんことユリアーナさんと共に王宮を目指した――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る