第156話 協力体制とささやかな疑問
マルツ市攻略戦は予想外の援軍により私たちの勝利に終わった。アデル侯爵の意見を参考にお父様やトラウト公爵が工作と交渉を担当したらしいけれど、さすがは大貴族のお父様方。策謀バリバリね。
それにしても増援があるのならあらかじめ言ってくれれば良かったのに……。いらぬバトル漫画的展開をしてしまった。ああ恥ずかしい! これで別れ際に、遺言めいた今までのお礼を言っていたら完璧アウトだったわ。
「というわけで、僕はドルドゲルス十六人衆の“燃え上がる”ヴィム・シュタインドルフです。よろしくお願いします」
自己紹介をする少年こと十六人衆のひとりヴィム君は、人懐っこい笑みを浮かべた後輩キャラといった感じで、なかなかのイケメンだ。本当にあの忍者と同じ集団かしら?
「私は“鮮やかなる”ヨハンナ・ピッケンハーゲン。同じくドルドゲルス十六人衆」
気だるそうに答えるのは、同い年くらいの派手目の格好とメイクをした女の子だ。存じ上げない方ね。けれどライナスはピクリと反応する。もしかして戦ったことがあるのかしら?
「同じく十六人衆の“強固なる”ユリアーナ・ウルブリヒだ。よろしく頼む」
ビシッと答えたのは気真面目そうなポニーテールのお姉さん。私たちより少し年上、たぶんシリウス先生と同じくらいの年かしらね。この名前は聞き覚えがあるわ。私の魔法を防いだモグラの人だ。こんな美人さんだったのね。
「僕たち三人を始めとした反偽帝同盟軍は、その名の通り偽帝ハインリッヒ・フォーダーフェルトの統治に反対する同盟軍です」
「僕たちは君たちから見れば侵略者でしょう。それなのに協力するのですか?」
「第二王子殿下、お目に掛かれて光栄です。この戦いはハインリッヒによって前皇帝が唆されて始めた戦いだと理解しています。我らはこの戦いがドルドゲルス人民の為にならぬと考えています。偽帝ハインリッヒとその一派を排除することは、我らの祖国に対する裏切りとはならないかと」
うーん、つまりドルドゲルスにもいろいろあるってことね。暴走するハインリッヒとその一派を排除するのに協力して、少しでもドルドゲルスに有利な和平条約を結びたいとかそんなところかしらね?
西では私たち連合国。東では一時は同盟していたというバルシア帝国との戦線が開かれている。前世の歴史を鑑みれば分断国家の危機。であるならば、セルダルプやアノジーラの残党勢力とも談合して、なんとかドルドゲルス本国の一体性を死守したいと。
「……わかりました。いずれにせよ、先ほども助けてくれたあなた達を僕は信用します」
「ご理解いただけたようで何より。ところで、そちらの女性がレイナ・レンドーン様ですか?」
「え? あ、はいそうです。私がレイナ・レンドーンですわ」
突然話を振られてビックリする。何だろう。ドルドゲルス相手にはだいぶ派手に暴れちゃったから、恨み言の一つも言われるのかしら?
「かの“紅蓮の公爵令嬢”がこんなに可憐な女性だとは知りませんでした」
「ウヒヒ、あらお上手ですこと」
「あはは、女性の扱いは勉強中です。ところで、婚約者はどなたなのですか?」
まさかの質問。ディラン達も厳しい質問を想定していて気が抜けたのか、ガタガタっと挙動不審な動きをしている。
「……婚約者?」
「ええ、こんなにお美しく才能もあるのなら婚約者がおられるでしょう? その方が気になって」
「父が過保護なもので、私には婚約者はいませんわ」
「なんと。だったらここに居られる方々が候補だったりするんでしょうか?」
そう言ってヴィム君は居並ぶディランたちの方を見る。
「シュタインドルフ殿、レイナは家格から言って王族に嫁ぐ可能性もある身。世間話で軽々しくそのような事を申されては困りますね」
「可能性はな。ディラン、まるで王族に嫁ぐのが前提みたいな話はオレとしてはいただけないな」
「ヴィム君! 苛烈な道を生きるレイナには強き伴侶が必要とは思わないかい?」
「いいや、レイナには趣味に理解のあるパートナーが良いと思うぞ」
ディラン、ライナス、パトリック、ルークの順だ。
み、みんな……! 私の結婚相手の話にこんなに一生懸命。まさか――!
――これが友人の婚期を遅らせまいとする幼馴染パワーなのね! 自分たちはアリシアが好き、けれど私の結婚相手も心配してくれるなんて。みんなのうち誰がアリシアと引っ付くかわからないけれど、私もみんなの恋を応援させてもらうわ。
「あはは、なるほど……」
「私がディラン殿下たちとなんて恐れ多いですわ。彼らも想う方がいるだろうに、私の事でこんなに真面目に考えてくれるなんて良い友人達です」
男性としては彼らにかなうような方はそうそういないだろう。けれど真剣に考えてくれる友人達が納得してくれるような相手を選ばないといけないわね。まあ結婚なんて遥か彼方の先でしょうけれど。……ですわよね?
「……そういう解釈なのですか?」
「解釈とは?」
驚いたような顔で私を見るヴィム君。私ったら何か変なこと言いましたっけ? そしてなおも
「静まれいっ! ここは学生のパーティー会場ではないぞ!」
一喝。それまで沈黙と共に成り行きを見守っていた歴戦の武人アデル侯爵の一喝によって、場は静められた。
☆☆☆☆☆
「では、魔力サーバーは帝都にあると?」
「そうです。レイナ様の言われる魔力サーバーなるものは帝都ロザルス、王宮の地下にあります」
ヴィム君が広げられた地図の一点を指し示す。そこは帝都ロザルスにある王宮だ。敵の本拠地のそのまた中心。そこに魔力サーバーがあるのね。
「ハインリッヒは皆さんもご存じの通り、一千万人の魔力を集めて“神をも殺す”ともいわれる魔法を発動する準備をしています。その為に占領地の住民や、国内の反対派もあらぬ嫌疑をかけて捕らえてね。それで僕の父も……」
「そうだ。その非道を我々は許しておけない。そしてハインリッヒはロザルスの要塞化を推し進めている。そう簡単には攻略はできないだろう」
悔しそうに顔を伏せたヴィム君に代わって、モグラのお姉さんことユリアーナさんが説明する。ハインリッヒったら好き放題やっているみたいね。許してはおけないわ。
「強固な要塞を攻めるとなると苦戦は必至。なればどこかに付け入る隙などはあるか?」
「そんなものあるわけないわ。それにロザルスの守りには
脳内でロザルス攻略をシミュレートしていたであろうアデル侯爵の疑問に答えたのは、それまで口をつぐんでいたヨハンナだ。十六人衆最強って……、何よそのバトル漫画のボスキャラ? 作品違いますよー。
突き放すような発言をするヨハンナを制して、ユリアーナさんは続ける。
「唯一付け入る隙があるとすれば、ハインリッヒ自身の性格にある」
「……性格?」
「慢心、自己顕示欲の強さ、そういったものだ。恐らく奴は悠然と王宮で待ち構える気だろう。そこに勝機はある」
ハインリッヒったら元お味方にもそういう扱いなわけね。まあ強者が慢心して足元をすくわれるって王道展開だわ。こうやってハインリッヒを見限って味方についてくれる人もでてきたわけだし、なんとかなる……かしら?
「そうか。いずれにせよ、帝都ロザルスへの道のりはまだまだ長い。だが我らは一刻も早くたどり着き、不遜なる野望を止めなければならない。各々方、決して怯まれぬよう!」
☆☆☆☆☆
「レイナ様!」
「あらアリシア、何かご用?」
「はい。レイナ様は……その……。以前もお聞きしましたけれど、ディラン殿下たちの中に好きな人はいらっしゃるんですか?」
ははーん。さっきの婚約者トークバトルの中にアリシアは入ってこなかったけれど、そこはやっぱり年頃の女の子。そういう話が気になるのね~。それに事情を知らないヴィム君の言葉とは言え、自分が気になっている人たちとの関係を疑われたらやっぱり心配よね。
「大丈夫よアリシア。私はディランたちのことをいい友人と思ってはいますけれど、そういったことはありませんわ」
「本当ですか!?」
「本当よ。それにディラン達も私にはそういった興味はないと思うわ」
彼らがお熱なのはマギキンのヒロインである貴女なのよと言えたら、どんなに楽だろうか。けれどそれは内緒。恋愛応援令嬢レイナ・レンドーンは、恋の行方を静かに見守るわ。
「うん、そう考えておられるならしばらく大丈夫そうですね」
「大丈夫? 何が?」
「いえいえこちらのお話しです」
「そうなの? ところでアリシアの方は好きな人とかどうなのかしら?」
「私ですか? 私は好きな人とは一緒に居られればそれでいいので。そう、ずっと……永遠に……。その為の準備もしているんですよ」
夢見るような顔で語るアリシア。これは私の知らないところで恋愛イベントが進んでいる証拠と見て良いわよね!? 誰? お相手は誰なの!?
「それは良かった。忘れないでねアリシア、私はいつもあなたの事を応援しているわ」
「はいレイナ様! 私はクラリスさんに
そう言ってアリシアは、満面の笑みでトタトタと駆けて行った。さすがのヒロインオーラね~。ところでクラリスに用事ってなんでしょう?
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