第138話 いわゆる飛ぶ鳥を落とす勢いってやつ
敵の超大型魔導砲台兼要塞と化した沿岸部の都市は、私の
これにより、復帰したアデル侯爵率いる第三軍や続く第四軍、第五軍と、トランサナ海峡を渡って続々援軍が到着している。案外私が何もしなくても、とんとん拍子でハインリッヒを捕らえるところまでいっちゃうかもね?
☆☆☆☆☆
「火の神よ、《火球》!」
旧アスレス王国を開放しつつ進む私たちは、元々この地を治めていたアスレス貴族が道案内をしてくれるということもあってスムーズに進軍できている。行く先々で連戦連勝、破竹の快進撃!
目指すは旧アスレス王国の王都アラメよ! まさに飛ぶ鳥を落とす勢いってやつね。鳥は私たちの機体の名前だけど……。
「敵魔導機部隊の撃破を確認。これより本体と合流するわ」
『かしこまりました、さすがはレイナお嬢様です。とはいえここは敵地。帰陣までご油断めされぬよう』
「はいはいわかっているわよクラリス、すぐに戻るわ。さあライナス戻りましょう」
「ああ。だがアルメに近づいてきたからか敵の抵抗も激しくなっている。クラリスの言を借りるわけではないが、油断するなよ」
「わ、わかっていますわ」
機動力と戦闘力に優れる私たちは、こうやって交代でペアを組みながら本体の手が回らないところの敵を倒しに行ったり、ドルドゲルスに抵抗を続けていた村々に物資を届けたりしている。
というわけで、今はライナスと組んで敵の小部隊を撃破したってわけよ。敵は〈ブリッツシュラーク〉を主軸に〈レオパート〉も混ざるけれどなんなく撃破できたあたり、私がこの謎のロボットバトルに染まってきている感じがする。……いえ、苦戦しないのは良いのですけれどね。
「さあ帰って美味しいお紅茶でもいれてもらいましょうかねー」
「だから油断するなと――ッ! 前方、不明魔導機を視認。数は三!」
前方の森から出てきた魔導機を確認して、私を咎めていたライナスの声に緊張の色が混ざる。もう夜の闇が迫る時間。暗くて分かりづらいけどライナスの言う通り数は三機のようだ。けれど周囲は深い森だ。伏兵が潜んでいる可能性もあるわね。
「しつこいわね……、でも三機くらいならすぐに――あ、あれは!?」
私たちの前に出てきた所属不明魔導機。それは〈シュトルム〉でも〈ブリッツシュラーク〉でも、はたまた〈シャッテンパンター〉の量産型の〈レオパート〉でもなかった。その機体はだいぶボロボロのようだけれど、本当は鮮やかでヒロイックなトリコロールカラーの――、
「〈バーニングイーグル〉だと!? このあたりに部隊は展開していないはずだから、鹵獲機か?」
現状、私たちの所属する第二軍がこのあたりを受け持ち、その中でも私たちのペアが本体から離れたこの地域に展開している以上、ここで友軍機である〈バーニングイーグル〉に出会うのは不自然だわ。
となると、可能性としては脱走した機体か鹵獲された機体か。どのみち友好的な相手じゃない可能性の方が高い。私たちの間に緊張が走る。
「じきに夜になる。伏兵の危険もあるし、どうするレイナ?」
「まってライナス、通信で何か聞こえる」
ザーザーという音に混じって、通信用の魔道具から声の様なものが聞こえる。
『……ちらは……征……。……王……ラ……』
相手は撃ってこない。それが敵対を示さない行為なのか、味方と誤認させるための策なのかまだ判別がつかないけれど、この通信は間違いなく相手の魔導機から発せられているものでしょうね。
「通信装置の故障かもしれないわ。直接声を聞き取ります、《風よ伝えよ》!」
風の魔法によって途切れ途切れになった声を補正し、通信をサポートする。魔力を調整してノイズを除く。だんだんと砂嵐だった音声がクリアになっていく。
『もしかしてそっちの赤い機体、レンドーンのお嬢ちゃんかい?』
「その声……もしかしてノーラ!?」
『ああ良かった! そうよノーラよ。怪我はしているけどコンラッド隊長もジョナスもいるわ!』
声の主はなんと行軍演習の指導官のを務めた、気さくな女性のノーラだった。つまりこの集団はアスレス王国防衛戦にグッドウィン王国から派遣された魔導機部隊!
「ライナス、彼女たちは味方よ。回収して本体に合流しましょう」
「ほっ……、んんっ! 了解した」
あらライナス、ちょっと安心しちゃったんだー、そうなんだー。戦闘中は私をかばうように立ち、さっきも注意してくれたりしたけれど、可愛い所あるわね。ウヒヒ。
☆☆☆☆☆
ノーラたち派遣部隊の生き残りと合流した私たちは、一緒に本隊へと合流した。合流できたのは十七名と派遣された人員の半分にも満たないけれど、生存を絶望視されていたことを考えれば
「レイナ、生きてあんたと会えて良かったよ」
「私もよノーラ、生きていてくれて良かったわ」
ノーラたちはアスレス王国が王都アラメを
「そこに見たことあるような魔導機が戦闘しているのを見つけてね。もう一機は見たことの無いタイプだったから不安だったけれど、イチかバチか接触してみたってわけさ。共食い整備が悪かったのか肝心の通信用の魔道具が不調みたいだったね。何もかもあんたのおかげだよ。救世主だね」
「ウヒヒ、とにかく無事で良かったわ。そうだノーラ。派遣部隊にスタッシ家の方がいたと思うんだけれど、一緒じゃなかった?」
スタッシ家。行軍演習で一緒だったセリーナの実家だ。派遣されたセリーナのお兄さんの情報がすこしでも聞けると良いんだけれど。
「スタッシ? それなら……おーい、サイモン!」
「なんですかノーラさん? ……レ、レンドーン様!」
ノーラにサイモンと呼ばれた男性は、私より少し年上でセリーナと同じ髪と瞳の色をしている。もしかして……?
「こいつがサイモン・スタッシだよ」
「は、はい。レンドーン様、僕が……いや自分がサイモン・スタッシです! このたびは救出していただきありがとうございました!」
「そう硬くならないで結構ですわ。あなたの妹さんの名前はセリーナさんですか?」
「はい、自分の妹の名前はセリーナです! 妹をご存じで?」
「ええ、ご友人ですの。セリーナさんはお兄様のことをすごく心配していましたわ。本国に帰ったらすぐに連絡を差し上げてくださいね?」
「妹が……。は、はい!」
終始緊張しきりのサイモン氏だったが、セリーナの話を聞くと嬉しそうに瞳に涙を浮かべていた。これでセリーナに根拠なく言った、お兄さんはきっと無事というのは実現したわね。良かった良かった。
「驚いたわ……」
私たちのやりとりを見ていたノーラが、そうつぶやいた。
「うん、私も驚いたわ。でも生きていてくれて良かった」
「いや、あんたそんなにお嬢様っぽい話し方できるんだなって……」
そこ!? 確かにノーラは気さくな感じだから私もフランクに話していたけれど、
翌日、ノーラや負傷したコンラッド隊長を含む派遣部隊の人員は本国へと帰国することとなり、私たちは一路、王都アラメを目指して進軍を再開した。
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