第139話 世紀の対決!お嬢様VS忍者

 大ドルドゲルス帝国に怒涛どとうの勢いで敗北したアスレス王国。その原因は運用する魔導機の質も量も大幅に劣っていたからだ。


 数は言わずもがな、アスレス王国の主力機である曲線が特徴的な〈エクレール〉はドルドゲルスのMZ―03〈ブリッツ〉のコピー品だそうだ。対してドルドゲルスの現行主力機はMZ―05〈ブリッツシュラーク〉。つまりアスレス王国は二世代も前の機体を使用している。


 というのは、パトリックからなるべく易しい内容に直していただいて聞いた話なんですけれど、そりゃ負けて当然ですわよね。


 その点私たちグッドウィン王国の主力機は、〈ブリッツシュラーク〉に匹敵する実力を持った〈バーニングイーグルⅡ〉よ。さらに敵のエース機体に対抗できる私たちが乗るスペシャルな機体。ほんとエイミー様々よね。やっぱりあの子本当は転生者じゃないのかしら?


 なんでアスレス王国の魔導機の実態なんて真面目な話を私がしているかというと、これから王都奪還に燃えるアスレス王国の皆様と旧アスレス王国王都アラメを奪還しに行くからだ。


「さすがに重要拠点だ。敵も十重二十重とえはたえに防衛線を敷いている」


 イケボのシリウス先生が図を指し示しながら作戦を説明している。こうしているとなんだか普通に学院での授業風景みたいだ。学院と言えば、早くもアリシアのパンが食べたくなってきたわ。いえ、それ以外にもいっぱい食べたいものが……。


「正直アスレス王国残党の魔導機部隊は当てにならない。そこで俺達は二班に分かれて――そこ、聞いているかレイナ!」

「は、はい聞いています!」

「まったく、しっかりしてくれよ……。で、二班に分かれて一方を俺が、もう一方をディラン、お前が率いろ」

「はい! お任せください!」


 戦う中でシリウス先生は、自然と私たちのことを名前で呼ぶようになった。それを指摘すると、先生は少し恥ずかしそうな顔で「戦友だからな」と言ってくれた。先生は前と変わらず私たちのことを生徒として大切に思ってくれているけれど、もっと仲良くなれたみたいね。


「俺たち二隊は、街の大通りを西と南から攻めあげる。ちょうど縦軸と横軸だな。作戦は以上、解散! 各自戦闘開始までに魔導機の調整を済ませておくこと」



 ☆☆☆☆☆



「それにしても、まさかこのような形で花のみやこアラメの地を踏むことになるとは思いませんでした」


 そう悲し気につぶやくのはディランだ。ディランやルークは王族やそれに連なる者として、幼いころから外遊で各国をめぐっている。


 私も公爵令嬢だからそういった経験を積んでしかるべきなんでしょうけれど、誘拐事件の事もあり過保護なお父様の方針で渡海は禁止されていたのだ。まあ私の巻き込まれっぷりを考えたら正解かもね。


「そう言えばディランとルークは何度か来たことがあるんですわよね? どんな街ですの?」

「花の都と称されるだけあって文化的に優れた街ですよ。着飾る女性は華やかで、劇場では各種催し物が常に開かれている。とてもこういった争いごととは無縁の雰囲気です」

「それに飯も上手かったぜ。お前もアスレス人の美食家っぷりは知っているだろう?」


 そう話すのはルークだ。私も聞いたことがあるわ。アスレス王国は肥沃な土地に恵まれて、特に王都アラメは美食の殿堂の様な街だと。是非この舌で味わってみたいわ。これは早くアラメを開放しませんとね!



 ☆☆☆☆☆



「総員、攻撃開始!」


 攻撃命令がくだり、双方の魔法が閃光となって飛び交う。私はルークと共にディランの班に所属して南門を攻めている。事前に聞いていた通りさすがに敵の抵抗が激しいわ。けれどなんとかこじ開けたい。


「《光の壁》よ! ルーク、私が防いでいる間に敵の防衛部隊に牽制を!」

「よしきた! 《氷弾》!」


 ルークの機体〈ブリザードファルコン〉に搭載された多連魔法発生器により、私の張った防御魔法を超えて四方八方から敵に氷の塊が降り注ぐ。


「隙あり! 《獄炎火球》!」


 本来は巨大な《獄炎火球》をなるべく細く強く。一直線に戦場を駆け抜けた熱線は、城門までの道を作るだけではなくアラメの南門をこじ開けた。


「レイナが道を作りました! 魔導機隊突撃! 一気に制圧します!」


 ディランの指示に従って、魔導機隊が鬨の声を上げながらアラメに突入していく。もちろん私とルークも歩兵部隊のケアをしながら突入する。


「ここがアラメね。さあ、さっさと開放してアスレス料理に舌鼓したづつみを打つわよ――ッ!」


 美味しいお料理のことを考えていた刹那、キラリと光るものが見えたので反射的に回避する。直後、敵魔導機の鋭い一振りが空間を切り裂いた。


「この剣の形状……まさかかたな!?」


 敵の魔導機――お嬢様の私が言うのもなんだけれど、金キラキンな成金趣味の権化みたいなド派手な機体――が手に持つのは、私が前世の歴史物で慣れ親しんだ日本刀の形状をしていた。


「ほぅ、刀を知っているでござるか……」

「ござるゥ!?」

「拙者、ドルドゲルス十六人衆が一人」

「拙者ァ!?」

「ドルドン忍術の使い手、デニス・プレトリウス」

「ドルドン忍術ゥ!?」

「人は拙者を“忍ばざる”デニスと呼ぶ!」

「忍びなさいよ!!!」


 せかいかーん!!!

 魔法の世界観どこ!?!?

 何なのコイツこの忍者!?

 放っておいたらマギキン世界観崩壊の危機だわ!


「《火球》! 何なのよあんた! 忍術とかどこで知ったのよ!?」

「フッフッフッ……。拙者がドルドン忍術と出会ったのは、敬愛なるフォーダーフェルト卿と出会った時のことでござった……」

「もういい喋るな! 《火球》!」


 これ以上聞かなくてもわかるわ。またしてもハインリッヒね。あの変質者ったら、チームメイトに変な日本語を教える日本人メジャーリーガーみたいなことしてくれちゃって!


「貴殿が聞いたのであろう。ドルドン忍法《影手裏剣かげしゅりけん》!」

「うるさい! 黙りなさいな!」


 飛んでくる手裏剣をかわしながら答える。マジほんと迷子じゃんせかいかーん!!!


 ☆☆☆☆☆



 エンゼリア王立魔法学院の魔導機格納庫。レイナ様たちの機体がなくなって少し寂しくなったその片隅で、私――エイミー・キャニングはレイナ様から送られてきた謎の物体の調査をしていた。


「エイミー、紅茶をいれたよ。休憩しな」

「ありがとうリオ」


 作業に集中していて全く気がつかなかったが、いつの間にかやってきていた友人のリオから声をかけられ作業を一時中断する。


 私にはどうも集中すると寝食を忘れて没頭するきらいがあるので、こうやって信頼できる友人が声をかけてくれるのはありがたい。私はリオからもらった紅茶を一口すすると、ホッと一息ついて頭の中を整理する。


「それで、何かわかったの?」

「ええ。このレイナ様曰くドラム缶の中には、魔力が溜まっていることがわかったわ」

「魔力が?」

「そうなの。でもその量が普通の魔道具とは桁違いで……」


 魔道具を作成する際に、ある程度の魔力を込めることがある。それとほぼ同一の方法で魔力が込められているのだと思うけれど、この装置に蓄積されている魔力量は桁違いだ。


 レイナ様から伺った状況を鑑みると、この装置があの超大型魔導砲台の燃料とみてまず間違いないでしょうね。だけど、どうやってこれほどの魔力を集約し注入にしたのか、それがわからない。


「魔導機のコアも最後は魔力を込めて完成するんだっけ?」

「そうですわよ。希少な鉱石も使うし、だから大量生産は難し――」


 自分でも愚かだと思うが、そこまで言って初めて気がついた。希少な鉱石も金属加工も、広大な領土を持つ現在のドルドゲルスならさほど問題にはならないだろう。そして注ぎ込む魔力に関しては、この謎のドラム缶を用いれば事足りる。


 ――ドルドゲルスが魔導機の大量生産を可能にしていることは、このドラム缶の存在を示せば難なく説明できるのだ。


「おい、どうしたんだよエイミー」

「待ってリオ、今何か思いつきそうなの」


 心配そうに聞いてくれる友人を制止する。ドルドゲルス、魔導機、魔力……。頭の中で何かとつながりそうな気がする。


「――そうよ!」


 私はあるひとつの物に思い至り、パーツが置いてある机をガサゴソと漁る。


「……あった!」

「それは?」

「あの〈シャッテンパンター〉に装備されていた機械ですわ。私はこれを、魔力を無理やり増強するための物だと思っていましたの」

「違うのか?」

「ええ。私の予想が当たっているのならこれは……ですわ……!」

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