第128話 王子様の奮闘、お嬢様の宣戦布告

前書き

前半はディラン視点です

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 シュッ、シュッ、シュッ、と左右交互に素早く放たれる攻撃。僕はあるいは剣で受け、あるいは回避することにより対応する。敵は機敏で、どちらも寸でのところでの対応だ。


 物語の騎士の真似事の様な一騎打ちに、いつまでも王子たる自分が興じているわけにはいかない。……そうは思うのだが、この“怒涛たる”ユルゲン・タールベルクという男はかなりの腕前らしく、上手く他の機体に近づけさせず僕と〈ストームロビン〉を戦場から隔離している。


 ――パトリックなら軽く相手をいなしていたのだろうか?


 脳裏に剣術を始めとした肉弾戦闘全般に強い友人の名前が思い浮かぶ。我ながら実にくだらない考えだ。僕はディラン・グッドウィン。それ以上でもそれ以下でもないのだから。


「轟け《雷の旋刃》!」

「効かない!」


 相手の攻撃の隙をついて放ったつもりの一撃は、巧みに武器で受けられ防御される。これが攻防一体のトンファーというものか。それにしてもこちらの攻撃に対する見切りが素早い。スピードも技術も明らかに相手の方が上だ。


「戦況はどうなっていますか?」

『被害多数。ですがルーク・トラウト殿らが補給を済まされて前線に戻られ、現在押し返しています』


 なるほど。ルークたちの所にも敵のエース級が襲い掛かっていたようだから、彼らはもうすでに排除したということか。なおさら自分だけがこの相手にてこずっているわけにはいかなくなった。ならばどうこの相手と対するか。何かヒントはないだろうか?


 まずこの男の戦闘スタイルは武器であるトンファーを用いての打撃のみで、魔法を使う気配はない。この戦闘スタイルからすると、得意属性は光で強化魔法中心のパトリックのような感じだろうか。


 いや、敵の攻撃の一撃の重さ、速度、そういったところから鑑みるに、これは純粋に鍛えた操縦者自身と、魔導機の反応速度が生み出したものだろう。


 この男は相対した時の初めになんと言ったか?

 たしか「ディラン・グッドウィン第二王子とお見受けいたす」と言った。


 魔導機に乗る僕の存在を言い当てたということは、この男は僕のことを知っている。より踏み込んで考えれば、決め打ちで僕の所へと送り込まれている。そう考えるとひとつの対策が思い浮かぶ。試してみるか。


「《雷霆剣》!」

「なんのっ!」


 得意の一撃は、またもや素早く弾かれる。


「これならどうです《火球》!」


 得意な属性よりも威力は落ちるものの、初級魔法程度ならかなりの水準で扱える。わざわざ威力が落ちる魔法を何故放ったかというと――、


「ん!? クッ――!」


 僕が放った《火球》に対し、相手は防御するのに一瞬反応が遅れた。やはり――。


「貴方の得意属性は、やはり風属性のようですね」

「……だったら何だと?」

「おかしいと思いました。僕の攻撃に対する反応がいくらなんでも早すぎる。だからこう考えたんです。貴方は僕の対策をみっちり仕込んだ刺客なんじゃないか、とね」


 相手の男、“怒涛たる”ユルゲン・タールベルクは沈黙で答えを返す。元から寡黙な武人のようだが、この沈黙は正解の裏がえしだと思っていいだろう。


「得意な属性の魔法なら、魔力の流れでだいたいの攻撃予測がつきますしね。あなたほど鍛え上げた戦士ならなおさらだ」

「……それが分かったところでどうする?」

「こうするのですよ、《氷弾》!」


 ルークお得意の水属性の氷魔法だ。小さい時から飽きるほど近くで見てきた。魔法の癖も分かる。


「ぬぅ……!」

「次はこちらです《光の矢》よ!」


 戦いの流れはもうこっちのものだ。一気に攻守が逆転し、敵は防戦一方となる。僕はこの機会を逃さない。間髪入れずに魔法を叩き込む。


「《石の礫》よ、続いて《影の沼》!」


 敵の魔導機の足が、発生した《影の沼》に沈んだ。時刻はすでに日が高い時間となっている。暗いところでその真価を発揮する闇属性の魔法だが、今は一瞬の時を稼げればいい。


「とどめです! 《雷霆剣》!」


 一閃。足をとられて対応に一瞬の時を取られたユルゲン・タールベルクの魔導機を、雷の刃が両断した。


「許せ。加減をする余裕はなかった」

「さ……、最高の誉め言葉だ。お見事……」


 手ごわい相手だった。そして身一つで敵陣に吶喊、勇敢なる戦士だった。まず間違いなく世界の魔導機乗りでも上位の存在だっただろう。


「敵の将、ドルドゲルス十六人衆が一人“怒涛たる” ユルゲン・タールベルクは、グッドウィン王国第二王子、このディラン・グッドウィンが討ち取った!」


 だから高々に宣言する。これが稀代の勇士に対する最上のはなむけだ。



 ☆☆☆☆☆



「貴女を倒してハインリッヒ様に捧げる!」

「――!」


 ヴェロニカとかいう女は双剣でバシバシ切り付けてくる。私はなんとか〈フレイムピアース〉で受けきる。別に剣は苦手じゃないんだけれど、得意でもないからこういう正攻法で接近戦しかけてくる相手って苦手なのよねー。


 パトリックの時は相手が油断してくれたから先手をとれたし、ワーッと剣で斬りつけてくるのはなんかなあ……。令和の日本だとまず経験しないことですしね。


「《火球》十二連射!」


 魔法を撃ちこんでみるけれど、機敏にかわされてしまう。でも魔法で反撃してこないところをみると、やっぱり相手は闇属性ね。こんなに明るいと威力がでないのを相手も当然知っているんでしょう。


「とどめです! レイナ・レンドーン!」


 早いは早いんだけれどこのヴェロニカとかいう女……、


「うん。あんたやっぱりセンスないわ。小鳥ちゃんたち《熱線》!」

「何っ!?」


 六機の〈バーズユニット〉から発射された《熱線》が、高熱の網となって〈レオパート〉の行く手を阻んだ。


「オーホッホッホッ! あんた男を選ぶセンスもなければ戦闘のセンスもないのね。剣で切りつけてくる時、正面から突っ込んでくるだけじゃない。早いは早いけれど、慣れたら楽勝だわ」

「……クッ!」

「立ち止まっちゃっていいのかしら? 行くわよ《獄炎火球》!」

「ここは……、一時撤退します!」


 私が放った《獄炎火球》はヒットすることなかった。〈レオパート〉が消えたからだ。きたわね《影渡り》、対策はもう済んでいるわ!


「《光球》十二個発射!」


 相手の魔法が影を渡る能力なら、単純に影をなくせばいい。私が放った《光球》は、まばゆい光源となってあたりを照らす。影の長さを制限するのだ。影が消えたことによって魔法の威力が弱まり、現れた〈レオパート〉に即座に魔法を叩き込む。


「見つけたわよヴェロニカ! 《火球》!」

「禁書の魔法が見破られた!?」

「驚いた? 驚いちゃったかしら? 女の子はいつでも素敵に輝くものよ。あんたも変態のハインリッヒのお尻なんて追いかけていないで、もっと青春を楽しんだらいいんじゃないかしら?」


 オーホッホッホッ! これが転生して学院生活を送る私の青春の光よ。しみったれた男にへばりついてるヴェロニカにはわからないでしょうけれど。


「だから、ご主人様をバカにするな!」

「私は楽しんでいるわよ。あなたお料理の一つでもできるのかしら? 私が教えてさしあげましょうか?」

「余計なお世話だ!」

「あらそう。なら私のスペシャルメニューを食らいなさい! 《レイナドリルアタック》!」


 《旋風》により巨大な竜巻と化した私と〈ブレイズホーク〉は、敵の紫の〈レオパート〉を貫いた……いえ、少し防がれたわね。満身創痍まんしんそういとなった〈レオパート〉は、合流した随伴機に護衛されて逃げていく。


「追いかけ……ないでおきましょうか。今は深追いするよりここを護る事の方が優先されるわ」


 追いつけない距離じゃない。けれど今の私にはこの場を護り、マッチョなSPさんたちからなる部隊を指揮し、あるいは他の戦線を援護する必要があるわ。


「ヴェロニカ、帰ってあんたの変態ご主人様に伝えなさーい! あんたの分不相応ぶんふそうおうな妄想は私が必ず叩き潰してあげるわってね! オーホッホッホ!」

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