第122話 さあ準備は整いましたわ
「レイナ、やはりあなたも参加するんですか」
「当然ですわディラン。あなたも最前線に立たれるので?」
「はい。貴族が戦場に立たないと平民が納得しないように、王族が戦場に立たなければ貴族もまた納得しないものです。父と兄は全体の指揮ですので、前線は僕が鼓舞します」
きたる大ドルドゲルス帝国の侵攻に備え、私たちは王都へと来ている。その一環として、魔導機格納庫で作戦の説明や技術的な解説を受けているわけよ。
「ついにお披露目! これがKK101〈バーニングイーグル〉に代わる我らが王国の新型魔導機。その名は――」
参加者は私たちだけでなく、一般魔導機操縦者もだ。ルークにパトリックも当然来ているわ。そして目の前で幕を掛けられた魔導機を前に、大仰な喋り方をしているのはエイミーだ。その隣にはこの後作戦の説明を行うために、熊の様なパトリックパパことアデル侯爵もいらっしゃる。
「――その名は、KK105〈バーニングイーグル
格納庫に集まった操縦者が「おお……!」と感嘆の声を漏らす。でもババーンと効果音がつきそうなエイミーの紹介に反して、私は前の〈バーニングイーグル〉との違いが判らない。ちょっととんがったくらいかしら……?
前世ではロボット物なんて全く興味がなかったから、細かな魔導機の違いが判らない。私やディランたちの専用機は色が違うからわかるけれど、ドルドゲルスの機体なんて判別つかないから覚えるのに苦労ししているわ。
「エイミー。質問なんですけれど、どこが違うんですか?」
「よくぞ聞いてくださいましたレイナ様!」
私の質問に食い気味に返しエイミーは
あっ、いけない。この子のスイッチ押しちゃった。
「今こそ明かしますこの〈バーニングイーグル
来たわね情報の洪水、用語の暴力、知識による蹂躙。質問していて申し訳ないのだけれど、私はまったくついていけていない。とりあえず飛んだり泳いだりできるようになって、なおかつ強くなったということで良いのよね?
みんな置いてけぼりじゃないか不安になって周りを見渡すけれど、その他の操縦士の皆さまは熱心に聞き入っている。うんうんとうなずいたり、メモを取ったりしているわ。まあ彼ら彼女らにとっては命を預ける機体だから当然よね。
「――なぜわかりやすく完全新規の機体ではないかというと、それにも秘密があります。それはこの短時間で機種転向を迫られる操縦士の皆さんに配慮し、さらに一部のパーツを流用可能にすることで生産性と修理の効率化を――」
「父上のあのようなお姿を見るのは珍しいな……」
パトリックが私の横でそうぼそりとつぶやいた。あのアデル侯爵がどこで話をとぎらせたものかと右往左往しているわ。快挙よエイミー。
「お嬢さん、そろそろよろしいかな?」
「――脚部の運動性能が……あっ、はいどうぞ。失礼しましたアデル卿」
「いやいや、興味深い話をありがとう。さて諸君、まだまだ魔導機への知見を増したいところだが今は時間がない。魔導機部隊の具体的な作戦について話をしよう」
アデル侯爵が話をしだすと、とたんに空気がピリリと変わった。広げられた大きな地図には潮の流れや戦略的見地から見た敵の予想進路が記されており、それらを指し示しながら配置などを確認していく。
国王陛下直属の騎士団とは別に、各貴族が所領から引き連れてくる部隊もある。それらは魔導機が配備されていたりいなかったり。そんな
「まずは主力と主力がぶつかり合い、もっとも激戦となるであろうこの面だ。全体の指揮はワシがとるが、魔導機部隊はディラン殿下にお任せいたす」
「了解しました」
「そしてその支援をルーク・トラウト殿の部隊が。パトリック、お前は遊撃部隊を率いろ」
「わかりました」
「承知しました父上」
激戦……。三人の事だから大丈夫と思うけれど、やっぱり心配だ。乙女ゲームのヒーローキャラは負けない。けれどこの世界はマギキンのシナリオとかけ離れているし、ゲームでもない。もし何かあってもセーブ&ロードは存在しないのだ。
「レイナ・レンドーン嬢。あなたの部隊には敵の上陸部隊が襲来すると予想される、この地点を任せてよろしいかな?」
そういってアデル侯爵は地図の一点を指し示す。
この地形……、なるほどねー。私のやることは一つだけだ。
ちなみに私の部隊というのは、あのマッチョなSPさんたちがカスタムされた魔導機に乗った我がレンドーン家の精鋭部隊のことだ。彼ら彼女らって魔導機に乗れたのね、知らなかったわ……。精鋭だから本当はお父様の方を護ってほしいんだけれど、こればっかりは私につけると押し切られた。
「オーホッホッホッ! 任されましたわ」
「うむ。何よりも愛娘を優先されるお父君からお預かりしている大切な身だ。決して無理は成されぬよう」
心配していただけるのは嬉しいけれど、“紅蓮の公爵令嬢”なんて異名で呼ばれる私は客観的に見てこの王国の最大戦力の一人だ。
私が無理して何人かの命が助かるのなら、多少の無理はしないとと思う。この妙な責任感の強さが前世の私の死因のひとつかしら? まあ、今世は悪役令嬢の余裕を胸に頑張っていきましょうか。
「それでは布陣はかくのとおりで――」
「待ってください」
「レイナ嬢、何か?」
「この地点。結構重要そうな場所ですが、どなたが護られるか言われましたっけ?」
私が疑問に思ったのは地図上の一点。私が護る敵の上陸予想地点と同じようなマークが印されている地点だ。
「ああ、それなら――」
「その地点なら、オレが護ることになっている」
横合いから予想外の――いえ、そうではない。むしろありえそうと思っていた人物の声が聞こえた。
「――ライナス! まさかあなたも!?」
「そうだレイナ。オレも魔導機でお前と共に戦う」
すでに攻略対象キャラ三人が魔導機なんてロボットに乗って戦っている今、ありえるとは思っていた。けれど実際実現すると驚くわね。一体この世界はどこへ向かっているのやら。
ライナスと共に現れたエイミーはやり遂げた顔をしている。そう言えば魔導機の説明が終わった後エイミーがどこかへ行ったと思っていたけれど、ライナスとその魔導機の方に行っていたのね。
「その口ぶり、ついに完成したか」
「はい、最終調整が完了しました。ラステラ伯爵が嫡男ライナス・ラステラ。魔導機〈ロックピーコック〉と共に戦線へと加わります」
☆☆☆☆☆
「レイナ様の〈ブレイズホーク〉にはこの新装備ですわ!」
「へー、このピーナッツみたいなのが?」
私の〈ブレイズホーク〉の周りには六本の細長い見慣れぬ機械が置いてある。新装備。つまりこれは武器なんでしょうね。
「はい。それは〈バーズユニット〉。その名の通り鳥の群れのように敵をついばみます」
「これがね~。どうやって使うの?」
「〈バーズユニット〉はレイナ様の有り余る魔力を使って自動で動作します。〈ブレイズホーク〉の周りを飛行して追尾し、魔力の砲をもって敵を攻撃しますわ」
「自動で動く……? それはまた、えらいものを造ったわね……」
「風のささやきが教えてくれましたので」
それはまたえらくオカルトな……。ギタリストみたいに天からアイデアが下りてくる感じかしら?
「これでレイナ様の火力も倍増ですわ!」
火力倍増、ねぇ。昔は冗談だったけれど、もう小さなお城なら一撃で吹き飛ばせそうだわ。これが女子力ですか。え、違う? そうですか。
「私にはこれくらいしかできませんわ。レイナ様、必ず無事に戻ってくださいまし」
「ウヒヒ、ありがとエイミー。戻ってくるわよ、必ずね!」
これやっぱりヒロインに送り出されるヒーローポジションだわ。さあ、景気づけに高笑いでもしましょうか。オーホッホッホッ!
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