第121話 お嬢様はロールを演じる

『王国が勝利するための道筋みちすじですわ!』


 ま、まさかあのエイミーからこんな主人公染みたセリフが飛び出すなんて……!

 もうマギキンで取り巻きAだったり、一人納屋でひそかに魔導機のパーツをいじっていたりした彼女はどこにもいないわ。うちのエイミーはあんなに立派になりました!


「でも結局“道筋”って何なのよ……」


 具体的にその“道筋”という言葉がどういう物を示すかは教えてもらってはいない。まだ秘密なのだそうだ。まあエイミー絡みの事だから魔導機関係だと思うけれど。


 巷説こうせつ、ドルドゲルスの侵攻が近いのだそうだ。

 まあ紛れもなく事実でしょう。この国はいよいよ戦いに向かっている。そしてあのおとぼけ女神の言うことが正しいならば、この世界は破滅へと向かっている。破滅の運命が迫るというのなら、それを乗り越えなければいけないわ。


「でもその前に、テストを乗り越えなくちゃねー」



 ☆☆☆☆☆



 そんなこんなで季節も進み十二月。お料理研究会のイベントもつつがなく行われ、幸いにも魔導機で出撃するような事件もなかったので、心身ともに健康な私は無事期末テストを乗り越えた。


「きた……、きたわ……!」


 筆記試験五位、実技試験一位の総合三位。それも二位のアリシアに僅差の三位だ。毎日クラリスにスパルタで教えてもらった成果よ。ウヒヒ、レンドーン公爵家の面目躍如は今回も成功ね。


 そう言えばルシア一派がいなくなったからその分も順位が変わったのよね。嫌な見方ですけれど。テストの結果で思い出す囚われのルシア……。


「「「レイナ様、おめでとうございます!」」」


 みんなおめでとうと言ってくれるけれど、私からしたらディランに次ぐ二位をずっと死守しているアリシアやお料理研究会のパーティーの準備に追われたサリア、働きながら成績を上げているエイミーの方が凄く感じるわ。


 特にアリシア、学年末テストは負けないからね! ……この考え方って少年漫画っぽいかしら? うーん、青春っぽいからセーフ!


「リオも成績あがっているじゃない、おめでとう」

「ありがとなお嬢。お嬢もおめでとう。やっぱ三年になって部活の方で後輩の演技を指導する機会が増えてきてね。やっぱそうなると、成績も上げないとなーってなるわけよ。責任感みたいな?」


 すごい。リオがすごくまっとうな青春っぽい発言をしているわ。それにお手本な最上級生の発言を。初対面で私をつまんだリオがこんなに立派になって……!


「それに生徒会長もしてるし、やっぱ恥ずかしいところは見せられないなーってね」

「まあそうよね~。……え、なんですって?」


 ――え、今誰がなんて? 聞き間違いかしら?


「だから生徒会長もしてるし恥ずかしいところは――」

「生徒会長!? リオって生徒会長だったの!?」

「え? 言ってなかったっけ?」

「言ってないわよ、聞いていないわよ! いつなったの!?」

「そりゃあ今年度の初めだよ。私もさらさらなるつもりはなかったんだけれど、後輩から推薦されてね」


 知らなかった……。いえ、投票した覚えもないんですがそれは……。というかエイミーやアリシアは別に驚いていないし、知らなかったのって私だけ?


「てっきりそういうポジションはディランがするものかと……」

「呼びましたか?」

「うわっ、ディラン!? ディランはリオが生徒会長なの知っていましたか?」

「ええ、知っていましたよ。僕も推薦されたのですが、馬術部の部長職もあるので辞退しました」


 なるほど。ディランは馬術部の部長、ルークはお料理研究会の副会長、パトリックは剣術部の部長だしライナスは自分の作品をこなしながらも美術部の副部長。攻略対象キャラはみんな忙しいわね。


「ほんと、いったいいつ選挙があったのやら……」

「今回出馬したのは私だけだったからね。記憶にないのは信任投票だけで選挙は盛り上がらなかったからじゃない? お嬢はその頃お料理研究会の部員が増えたとかであわあわしていたし、その後も魔導機絡みがあっただろ?」


 なるほどねー。私ももう少しだけ視野を広く持ちたいわ。



 ☆☆☆☆☆



「ただいま戻りましたー!」


 期末テストも終わったことだし冬休み。というわけで帰省。戦いの気運が高まっているとはいえ、レンドーン領の人々は明るく過ごしているみたいだったしとりあえずは一安心。


 そうだ、テストで良い点数を取ったしお父様に何かおねだりしてみようかしら。えーっと……、領主代行を務めている領地に農業の専門家を呼ぶとか?


「おかえりなさいレイナさん」

「ただいま戻りました。ご健勝なようでなによりですわ。……あれ、お母様だけですか?」


 私を迎えてくれたのは珍しくお母様だけだった。お父様はどうされたんだろう。忙しいだろうし王都でお仕事かな?


「えっと……、それはねレイナさん……」

「……どうしたのですか?」

「奥様、横から失礼いたします。お嬢様、旦那様が書斎でお待ちです」

「お父様が?」


 お母様が言い淀んでいる横から口を挟んだのは執事のギャリソンだ。

 なんだ、お父様もいらっしゃるんじゃない。でも何だろう?


「わかったわ。すぐに行きます」



 ☆☆☆☆☆



 何か不穏な空気を感じるわ。けれど呼ばれたのなら行かないといけない。私は腹をくくって書斎のドアをノックする。


「お父様、レイナです。ただいまエンゼリアより帰りました」

「……入りなさい」


 いつもとは違って静かなお声。書斎に入ると、お父様は私に背を向けるように窓の方を向いて立っていた。


「レイナ、お帰り。学院での生活は順調かい?」

「ええ、もちろん。今回の試験の結果もすごく良かったんですよ」

「そうか、それは良かった」


 お父様の表情はわからないけれど、これは笑顔だと思う。たぶん私が何かやらかしていて怒られるってことではないわね。


「……ところで、ドルドゲルスの事は聞いているかい?」

「ええ、少しは」

「予想通りかの国は我が国へと攻め込むようだ。時期は年末、つまりは二週間後」

「それは……とても不安ですわ」

「今までと比べられないほどの厳しい戦いになると思う。父親としてこれを言うのは心苦しいが、レイナ、君にも防衛戦に参加してもらいたい」


 お父様はゆっくりとこちらに向き直りながらそう言った。厳しい戦いに愛する娘を放り込まなければならない。まさしくそんな葛藤に満ちた表情だ。


「本当はレイナには安全な場所にいてもらいたい。でもそれが私たち貴――」

「――貴族の義務、ですね」

「……そうだ」


 普段美味しいものを食べることができているのも、しっかりとした教育を受けることができるのも、全てはこのため。いざ戦いとなれば最前線で義務を果たす。


「わかりました。その役目、務めさせていただきます」

「怖くはないのかい?」

「怖いです、とても。けれど……」


 このシリアスな感じ、きっとお父様自身も最前線で指揮をとられるでしょうね。私だってこの世界に生まれ変わって早十八年。今まで暮らしてきたこの国に愛着もある。お料理研究会の指揮はできるサリアに任せた。それなら私のできることは何か?


 答えは簡単。私には幸か不幸かあのおとぼけ女神から押し付けられた莫大ばくだいな魔力があるわ。それなら私は私のできる役割ロールを演じるだけよ。


「けれど、私だって護りたいですから。お父様も、みんなも」

「そうか……。すまない」

「謝らないでくださいなお父様。私が何と呼ばれているか知っているでしょう? 実戦だってもう何度も経験していますし、きっと大丈夫ですわ」


 私的には悲壮感をだしているお父様の方が心配です。

 さてと、こんな戦いだらけの生活に慣れ始めている自分に少し嫌気が差すけど、ハッピーエンドとその先のスローライフを目指す為にひとつがんばりますか!

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