第117話 お嬢様は底なし

「敵魔導機を発見、数は四」

「了解しましたルーク。僕が行かせてもらいます」

「了解したディラン。俺はサポートにまわる」


 やはりパトリックの読み通り敵魔導機の集団は存在したか。別動隊のレイナが心配だが、パトリックの事だしわが身を盾にレイナを護るだろう。それに彼女自身色んな意味で弱い女性ではない。


「轟け《雷の旋刃せんじん》!」


 僕の唱えた呪文に従い、両手に持つ柄だけの〈ロアオブサンダー〉から雷が伸びて武器を形作る。今回は異国の暗殺者が使うという刃のついた円盤だ。《雷の旋刃》は回転しながら鋭く敵の死角へと迫り、そして切り裂く。


「二機撃破! 次は……逃げる!? させません!」


 強襲は成功し無事に二機を撃破したが、残りの二機に海へと逃れられてしまった。だが逃がしはしない。ここで逃げられれば災いとなるのは明らかだ。


「そこだっ! 巻き起これ《竜巻たつまき》!」


 たとえ海中へと逃れられようとも戦い方はいくらでもある。僕が選択したのは風属性魔法の《竜巻》だ。発生した竜巻は、激しい風をもって海をそこに潜む魔導機ごと巻き上げる。


「捉えた! 《旋風》突撃!」


 邪悪な魔法によって生み出された巨人相手にレイナがした、風の魔力によって己を強烈な竜巻と化し、敵に突撃する戦法。敵の装甲は水圧対策だろうか少々分厚く感じたが、この攻撃ならば問題なく貫けた。


「残りは一機! どこだ!?」

「それはもう済んだぜ。まったく、敵の新型なんだから余裕があったら鹵獲ろかくの事も頭に入れとけよ」

「ルーク!」


 そう報告してくるルークの駆る〈ブリザードファルコン〉は、魔法で氷漬けにしたのだろう一体の魔導機を確保している。


「パトリックの野郎も待望の専用機ではしゃいでいるだろうし、レイナはこういう細かいのは無理だからな。まったく……なんて言ったか? そう、脳筋だらけだぜ」

「脳筋……」


 ――ドーン!


 その時、激しい衝撃音と共に、ここからでも十分に確認できる巨大な水柱が遠方で上がった。


「あれはレイナか、それともパトリックか? どちらにせよ心配はないだろうな」

「そうですねルーク。僕たちはその鹵獲機を武装解除しましょうか」



 ☆☆☆☆☆



「なんであんたは逃げないか知らないけれど好都合だわ。《火球》六連! ……ってあんな見た目なのに陸上でもすばしっこいわね」


 ロボットバトルなんてさっさと決めてしまおうと魔法を放ったけれど、私の《火球》による爆撃は、その太ったペンギンの様な見た目に反して意外にも素早い敵の魔導機にかわされてしまった。


「見事なものだ。さすがは“紅蓮の公爵令嬢”、噂通りの破壊力よ」


 敵の魔導機から感心したような男の声が響く。

 何コイツ、私の事を知っているの?


「もはやこちらがドルドゲルスの兵であることは察しているだろう。俺は皇帝陛下に仕える騎士にして、ドルドゲルス十六人衆の一人――」

「名乗るなあー!」

「何をするか!? 騎士には名乗らせるのが礼儀であろう!」

「何大将軍とか四天王とかそういうの要らないのよ! それに騎士とか言うけれど海賊まがいの事をしてたって知っているんですからね!」


 とうとうと語りだした敵の男が何やら称号的な事を話し始めたので、我慢できなくなった私は突進する。ここは乙女ゲームの世界なのよ。そういうバトル漫画染みた称号なんて必要ないわ。世界観違うところでやり直してくださいー!


「クッ……、無礼なやつめ! 食らえ!」

「――うぐっ!? 何よコレ!?」


 敵の魔導機――そのタコみたいに沢山ついている手から、五対十本のアンカーが射出されて私の〈ブレイズホーク〉の動きを封じた。


 何よこれ!?

 これじゃ攻撃魔法も使えないし、剣もぬけないじゃない!?


「離しなさいよこのセクハラタコ助!」

「何を意味不明な事を……。くらえ《電撃でんげき》!」

「きゃああああああああああ!」


 アンカーを通して《電撃》の魔法が放たれる。痛い痛い痛い。本当に電気攻撃をくらうと痺れるとかじゃなくて痛いのね。嫌な知識が増えたわ……。


「このまま海中に引きずり込んで、皇帝陛下への手土産にしてくれるわ!」

「くっ……!」


 男はこちらの動きを十分に封じたとみたのか、《電撃》を解除して〈ブレイズホーク〉を牽引して海へと引きずり込もうとする。


 このままだとまずい、何か早く手を打たないと。

 そういえば《電撃》の魔法をなぜ解除したのかしら? 水中だと自分も感電するから? 火属性の魔法だと自分はヤケドしないから、その可能性は低いと思う。だとすると……、


 ――水中航行用の魔力を温存したいから?


 私みたいに湯水のように魔力がある人間なんてこの世界にそうそういないだろうし、水中航行の事を考えるとうかつに魔力は消耗できない。


 だから〈シュトルム〉や〈ブリッツシュラーク〉と比べて固定武装のアンカーがあるのかしら? よーし、それなら!


「突撃よ!」

「ぐぬぅ! こいつ、自分から海に!?」


 機体出力ならこちらの方が上。それなら飛行用の風魔法を最大出力にして、逆にこちらから水中へと押しこむ!


「なんだこいつ、どこまで潜る気だ!?」

「どこまでもよ! 私の底なしの魔力を見せてあげるわ!」


 海では深く潜れば潜るほど水圧が強くなるのは、前世で理数系が全然ダメだった私でも知っている周知の事実よ。だから魔導機は水中稼働するときに、風属性の魔法を駆使して水圧に対するバリアを張る。


 私は知っての通り無尽蔵と言える魔力をあのおとぼけ女神から授かっているから、その耐圧バリアを最大出力にすればかなり深いところまで潜れる……という計算だとさっきエイミーが言っていたわ。もちろん酸素も心配なし。


 でも相手はどうだと思う?


 私の相手している自称騎士の男も、エリートだろうからの魔力はあると思うわ。けれど。常識外れの魔力じゃない限り張れる耐圧バリアの強度も決まっているし、酸素の維持だって不可能でしょうね。


 結果――、


「くそう、こいつ化け物か!? 仕方ない、撤退する!」


 ――我慢比べに耐え切れなくなった相手は、自ら拘束を解いて浮上していく。


 仮にも自称神からもらった私の底なしの魔力を舐めるんじゃないわよ。そして、ひとつ訂正するわ。


「化け物じゃなくて私はお嬢様よ! 散々痛めつけてくれちゃって、覚悟しなさいタコ助! 必殺《レイナドリルアタック》!」


 《レイナドリルアタック》、それは怒りを込めた私の一撃。動乱の世界で平穏を求め、目指すエデンであるスローライフに突き進む私の情熱。そして、いかにも悪役お嬢様ルックな私の髪型ツインドリルへの私の誇り。その想いは旋風となって相手を貫く!


「バ、バカな――――!!!」


 くっ、断末魔までバトル漫画の敵キャラっぽいわね。けれど最後はお嬢様が勝ーつ。オーホッホッホッ!


 この世界で貴族として生き抜いてきて早十数年。下手に博愛の精神は持たず、敵対者には容赦しないくらいの精神ではないと生き残れないのよ。悪く思わないでね。


「さてと、みんなと合流して帰りますか」


 あっ、あとパトリックへの詰問を忘れないようにしなくちゃね。確実にこのドルドゲルスの魔導機集団のことを知っていて動いていたわ。でもパトリックのことだし、きっと何か考えがあってのことでしょうね。


 それにしてもこれだけの数の部隊を本土に近い海で動かしてくるなんて。何かの前触れじゃないと良いのですけれど……。

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