第59話 お嬢様は新技を披露する
「レイナ様ー、どうですかー?」
「ちょっと動かしてみるわねー」
私たちがいるのは、エンゼリア王立魔法学院にある教習用魔導機格納庫。
エイミーが改良していた魔導コアの試作品が完成したので、私が動かしてもオーバーヒートしないかの試験中。
魔導機に乗り込むのももはや慣れたもので、ひょいひょいと操縦席にまたがりマジックミラーのようになっている胸部装甲のハッチを閉じる。そして操縦レバーをしっかりと握った。
今では私も立派なロボット乗り系悪役令嬢ってね。
……まあそういうカテゴライズがあるのか存じ上げませんけれど。
「前回と同じように魔力を全力で流して……と。いくわよ!」
右手を突き出す、続いて左手を突き出す。
右足を上げて下ろし、今度は左足を上げて下ろす。
そのまま数歩ほど歩いてみる。
私の操作に合わせて、魔導機KK105T〈トレーニングイーグル〉は完全に動作を行う。
オーバーヒートの兆候は見られない。きわめてスムーズだ。
「ばっちりよエイミー、ちゃんと動くわ!」
「こちらでも確認していますわ。次はもう少し激しく動いてください」
「わかったわ」
もう少し激しくね。
私はダンスを踊らせるように激しく魔導機を動かした。すると――、
「ダメよエイミー、動かなくなっちゃった」
「ダメでしたか……。緊急レバーを引いて降りてくださって大丈夫ですわ」
魔導機は再びオーバーヒートを起こしたのか、まるで動かなくなってしまった。
私は前回授業中に停止した時と同じように、緊急時用のレバーを引いて魔導機を駐機状態にさせる。
エイミーは頑張ってくれたけど、難しい問題だったみたいね……。
「レイナ様、お怪我はございませんか? 上手くいかず申し訳ありませんわ……」
「怪我もないし大丈夫よエイミー。謝らないで」
エイミーは悔しそうだ。ぎゅっとスカートの
私はそんなエイミーの手を包み込むように握った。
「エイミー、あなたの頑張りは知っているわ。それにあなたじゃないと、そもそもコアの改良なんてできないじゃない」
「レイナ様……! レイナ様は私と出会った時の事を覚えていらっしゃいますか?」
「もちろん覚えているわ。あなたの家の裏庭でばったり出会ったのよね」
「はい。それでその時から開発していたのが、多くの魔力を必要とする代わりに多くの力を発揮できるコアですわ」
「なるほど。それで完成したのが今回のコアなわけね」
「
私の魔力量はエイミーの考えるそれを遥かに超えていたと……。
恐るべき女神チート。最初からカンストしていたと思っていたら、まだまだ成長しているなんて!
「レイナ様、必ず近いうち――夏休みに入る前には完成させてみますわ!」
「ありがとうエイミー、でも無理はしないでね?」
「大丈夫ですわレイナ様。もちろんこれはレイナ様の為ですが、私も楽しみなんです。ですからご心配はなさらないでください」
☆☆☆☆☆
「というわけでみんな頑張っているのよ。私も頑張らなくちゃね!」
「……どういうわけだ?」
やってきましたアイスケーキ祭り当日。
早速作業に取り掛かっていて、アリシアはサンド用のビスケット作り、サリアはトッピング用のフルーツカットを始めているわ。
「さあ人間アイスクリーム製造機さん。あなたの氷魔法でじゃんじゃんアイスを作るわよ」
「お前なあ……。ま、アイスクリームなら任せとけ!」
私の発言に一瞬
やっぱりこの男は魔法と料理に憑りつかれているわ。
……まあ料理の方の原因は私ですが。
「ところでお前は何をするんだ?」
「まあ見ていてくださいな」
私は鉄製のペールにいくつかのフルーツを入れる。
そして中へと右手を突っ込み、限界まで魔力を絞る。
必要なのは威力じゃない。回転数だ。
「さあいきますわよ、《
《旋風》は小規模の竜巻を巻き起こす風属性の初級魔法だ。それをこの私が使えば――。
「フルーツがしっかりすりつぶされてる!? すげえ!」
これが私の新しい技《
この世界にミキサーや電動泡だて器なんてものはない。だけど、私のお料理への飽くなき
「これで
「すげえ!
「これからはミキサーお嬢様かヘルシージューサー令嬢とお呼びくださいな」
「すげえ! 言っている意味は分からねえけどすげえ!」
「もっと褒めて頂いて結構ですわよ。オーホッホッホッ!」
☆☆☆☆☆
「完成ですわー!」
無事に各種アイスケーキが完成した。
ルークの意見書を踏まえて、舞踏会でのそれを参考にした盛り付けはすごく華やかだ。
たとえ
料理で最初に味わうのは味ではなく見た目よ。その点これはグッドルッキングスイーツ!
「色とりどりですごく綺麗ですね、さすがレイナ様!」
「サリア、あなたのお料理の手際もすごく上達したわ」
「ありがとうございます!」
お料理研究会には成り行きで入った感じのサリアだけれど、楽しんでくれているようでなにより。
「アリシア、ビスケット作りを任せきりにしてしまってごめんなさいね」
「いいんですレイナ様。それって両親から受け継いだ私の腕を信用して頂けているのでしょう?」
アリシアの焼くパンやお菓子は本当に美味しいわ。
マギキン原作でもこの面をフィーチャーしてくれても良かったのに。
いえ、この世界とマギキンは厳密に言うと違うのだけれど。
「俺も満足のいく物ができた。実に良い!」
そうやりきった表情で語るのは、人間アイスクリーム製造機さんことルークだ。
この氷菓に対するこだわり、クールな天才と巷で噂の“氷の貴公子”の面影はどこにもない。
……いえ、ある意味言葉の通りの人物かしら。“
「さあ、みんなを呼んで食べましょう!」
☆☆☆☆☆
題して“美味しいよ! 初夏のアイスケーキ祭り!”は大好評だった。
今回はディラン達だけではなく、もっと多めに他の生徒も招待したわ。
身内以外の人間にも食べてもらって、忌憚のない意見が聞きたいものね。
「ふうー、結構食べたわね……」
前回ルークの持ってきたアイスを食べ過ぎた私はお腹を壊した。
公爵令嬢たるもの今回はその憂き目にあわないようにほどほどにしておこうと思ったけれど……、まあ美味しいものには勝てないわね。
「そう言えば……」
最近の流れからいって私は今回、悪役令嬢四天王の襲撃を警戒していた。よくある「あれ~? この料理に虫が入っていたんですけど~?」みたいなクレームが彼女達からあるんじゃないかってね。
その心配は幸い無用だったみたいだ。
今日、私はルシアを始めとする悪役令嬢四天王をちらりとも見ていない。
もう少ししたら試験があって、三年生の卒業パーティーの後は夏休み。とりあえずこのまま何事もなくいけばいいけれど……。
「レイナ様! お腹いっぱいですか?」
「ええアリシア、とても美味しかったわ。あなたが作ってくれたビスケットサンドアイスも絶品だったわよ」
「それは良かったです。前にも言いましたけれど、レイナ様のおかげで多くの方に私の料理を食べて頂けて私はすっごく嬉しいんです!」
アリシアは今日も笑顔だ。彼女が笑顔で過ごしている限りはマギキンのルートも無事に進行している……と思う。
彼女が誰と恋をしているかはまだ私には分からないわ。
つまり私の運命の行きつく先もまだまだ私にはわからない。
けれどもこの大切な友人たちと、いつまでも楽しく過ごせたらいいな――。
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