第33話 アイスの味と瞳に映るあなた

「ルーク、レンドーン邸へ行くのですか?」

「ああ、土産みやげを渡さないといけないからな。ディランはまだしばらくやることがあって行けないんだろう?」

「ええ、残念ですが……。く、くれぐれもレイナに……!」

「わかってるって、よろしく言っといてやるよ。土産も俺たち二人からだってな」

「ルーク! ありがとうございます」

「それに俺が作った新作アイス一式も食べさせてやりてえしな。というわけで、行ってくるぜ!」

「ま、待ってくださいルーク。それは聞いていませんよ! ちょ、待って――」


 あいつは食い物にはこだわりがある。土産は食い物で外しはしないだろう。それに俺の自慢の氷魔法で作ったアイスも食べてもらって感想が聞きたい。善は急げだ。いざ、レンドーン邸へ!



 ☆☆☆☆☆



 とある日の昼下がり。訪問の知らせがあったので、私はルークを待っていた。リオとエイミーはいよいよ試験が近い。がんばって二人とも。当日はハチマキ締めて応援に行くわ!


「ようレイナ、元気にしてたか?」

「いらっしゃいませルーク様。お待ちしておりましたわ」

「お、おう……。ああこれ、お土産だ」

「まあありがとうござい……これ、全部がですか?」


 お土産、と言ってルークが私に差し出したのは小さな袋だったが、その後ろでは使用人たちが次々と荷物を運んでいる。何かが入った木箱、ドレスなどの服飾品、はたまた家具まで。まるでここにお店を開くようね……。


「ああ、これ全部だぞ。荷馬車三台分だ」

「さ、三台!?」

「俺のはその袋だけだ。後は全部ディランからだな。珍しい食材だったり、新しいドレスだったり、目録を預かってきている。これだ」


 なんと長い目録! さすがは王子様、お土産もロイヤル級ね。食材は新しい料理を作って食べさせてほしいってことでしょうし、ドレスなんかはこの前の魔導機テロ鎮圧のお礼かしら?


「ところでルークのこのお土産は……エクレア?」

「おっ、知っていたか。俺の氷魔法で冷やしてアスレス王国から持って帰ってきたんだ」


 ルークから貰ったお土産はエクレアだった。


 この世界、魔導機なんてSF染みた物はあるけれど、飛行機は存在しない。島国のグッドウィン王国から海外へ行くと、必然的に旅は長時間の船旅となるのでお土産に選べる品は限られる。


 しかし“天才”とも称されるルークの魔法にかかれば、作り立ての様に新鮮なままだった。それでも常に温度調整をしないといけないから恐ろしく難易度の高い芸当ですけど……。


「まあ美味しいですわ。ルーク、ありがとう」

「知っているか? エクレアって稲妻って意味なんだぜ」

「まあ、そうなんですの」


 なによその突然の豆知識。いや、待って。エクレア、エクレア……、最近どこかで聞いたような?


 ――あっ!


「私が乗った魔導機、あれも確か〈エクレール〉って名前だったような……」

「その通り! あれも同じアスレス王国からの輸入品だからな。同じ稲妻って意味だぜ!」


 なんて満足そうな笑顔! こっ、この男、この一発ネタをしたいが為にわざわざ精度の難しい魔法を使って持って帰って来たというの!?


 マギキンのクールで無口な性格はどこかに消え飛んでいるけれど、何か違う方向で魔法バカなのは変わりないわね!


「ははは! 俺なりのねぎらいみたいなもんだ!」

「ま、まあ美味しいですし良いんですけれど……」


 いや、私は良いんですけれどルークは良かったの? 結構な手間の芸当よこれ。まあ本人はすごく満足そうなだけれど……。


「それよりコイツを見てくれ」


 そう言ってルークが取り出したのは、複数の壺型陶器だった。

 どれも小さいが、全部で三十個以上もある。


「これは? ……いや、まさか!」

「そう、そのまさかよ! お前の意見を参考に色んな味のアイスを作って来たぜ!」


 これ全部違う味!? なんだこの男!? まるで人間三十一日間アイス屋さんじゃない!


 そういえば私は以前ルークと遊んでいる時に、「水属性得意で氷魔法使えるなら、いろんなアイス作れるんじゃない?」みたいなことを言った記憶がある。まさか本当に作れるとは!


「す、すごい! どれも美味しいですわ!」

「一つ一つ味ごとに、温度や冷やす時間を検証しながら作ったからな。全部自信作だぜ!」


 魔法バカなだけじゃなくてお料理バカも加速している! 私のお料理男子化計画は想像以上に進行しているみたいね。ウヒヒ、アイス天国だー!



 ☆☆☆☆☆



「た、食べ過ぎましたわ……」


 三十種以上のアイス完食はやり過ぎたわ……。もう私のお腹は満員です。アイムフル。


「はあ、お腹がパンパンですわ。お気に入りのドレス入らなくなっちゃったらどうしようかしら……」

「へえ、お前もそういうの気にするんだな」

「どういう意味ですか!? 淑女に向かって失礼ですわよ!」

「淑女はそんなにアイスを山のように食わねえだろ」


 ううっ……、だって美味しかったんですもの。


「いや、なんかな……。俺の中でお前はよく食ってるイメージがあって、体形とか気にしてないもんと……」


 私はフードファイターじゃないやい! どちらかというと作る方の人よ。それに体形だって気を使っているもん。お稽古以外にも運動はしっかりしてますわ。私の抗議の視線を受けたルークは、ばつが悪そうに口を開いた。


「まあお前も女の子だもんな」

「そうですわよ。何と思っていたんですの? 見た目だって気にします!」

「ははは、悪い悪い。でもお前は今も綺麗だし、少し太っても綺麗だと思うぞ」



 ☆☆☆☆☆



「よお、ディラン。土産はたしかにレイナに渡したぜ」

「ありがとうございますルーク。レイナは喜んでいましたか?」

「ん? ああ、なんか目録見てびっくりしてたぞ」

「それは良かった。厳選した甲斐があったものです」


 あの量で厳選したのか、と言いたくなったが我が親愛なる従兄いとこの為に口をつぐんだ。よく怒られるが、俺だってそれくらいの配慮ができるくらいには成長したからな。


 それにしても――。


「あいつも女なんだなあ……」

「え? え? ルーク、何ですか? レイナと何かあったんですか!?」


 出会った時から魔法の勝負だ、料理の師匠だと接してきたからその実感はなかったが、思えばレイナも淑女として成長しているんだよな。やっぱちゃんと優しくしねえとダメかな?


「ねえルーク!? 何があったんですか、ねえルーク!」


 あいつと二人で何かをするっていうのは楽しい。もっとこんな時間が続けばいいな……。



 ☆☆☆☆☆



☆魔導機

 ドルドゲルスで開発された全長十メートル程の鉄の巨人。開発者、開発経緯共に明らかにされてはいない。マギキンには本来存在せず、レイナの前世で言う空想上のロボット兵器に酷似している。ドルドゲルスの拡大と共に近年その兵器としての評価が高まっている。

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