第32話 鮮烈!レンドーン家護衛部隊

「すっごく暇ですわー」


 リオとエイミーは受験勉強のラストスパートだ。私は早めに推薦入試で決まった子みたいに暇を持て余している。みたいに、じゃないか。まさしくその通りね。


 クラリスが戻るのも明日だし、遊び相手のいない私は今日も王都をブラついている。ブラレイナだ。周囲にはレンドーン家が誇る護衛部隊、マッチョなSPの皆さま。パンパンと手を打ち鳴らせばどこからともなく現れてくれるけれど、遊び相手にはなってくれないのが難点だ。


「ディランとルークは海外ですっけ……。いいなあ海外」


 私と同じく推薦入学組で王都に在住しているディランとルークは、二人そろって海外への視察と研修で帰りは来週。お土産のお菓子には期待しておこうかしらね。ライナスは絵を仕上げたいって遠いラステラ領へと帰ってしまったし。


「――そうだパトリック! 護衛のみなさーん、アデル家のお屋敷に向かいますよー」


 パトリックも所領が遠いけれど、だいたい王都にいることを唐突に思い出したわ。私は護衛のみなさんが対応しやすいように一声かけて、アデル家の屋敷へと向かった。



 ☆☆☆☆☆



「パトリック遊びに来たわよー、……ってお忙しいみたいね」

「い、いや! お忙しくないよレイナ!」


 そう言って慌てながら立ち上がるパトリックの周りには、女の子たちが群がっている。たぶん今の私の瞳は絶対零度だ。いえ、マギキン基準ですと軟派な性格に何も問題はないんですけどね。そこは乙女の心情。


「パトリック様、皆様お待ちみたいですよ? 私は失礼しますわね」

「僕が呼んだのではなくて彼女達から押しかけてきたんだ。僕はレイナに会いたかったんだけどな」

「へー、ふーん、ほー」

「本当だってレイナ。そんなしかめっ面していると、美しいその顔がもったいないよ」


 パトリックはその蠱惑的こわくてきな褐色の肌色と紳士的な性格、そして日々の稽古けいこで鍛えられた細マッチョなボディで、大層おモテになる。


 でもゲームとは違って軟派な感じにはなりきってないのよね。果たして純なのか、不純なのか……。


「まあいいわ、私は暇つぶしに来ただけですもの。何か面白いことはないかしら?」

「それならちょうどよかった。今から――ん? そこの護衛の方、良い体格していますね?」


 パトリックの目線の先にいるのは私の護衛部隊のマッチョな隊長さんだ。私が頷いて許可を出すと、ぬうっと前に出てくる。近くで見ると余計に大きいわね。


「なかなかの使い手とみました。ひとつお手合わせ願っても?」


 うーんこの爽やか脳筋。こいつの辞書には決闘しかないのか。隊長さんも思うところがあるのか、私に許可を求めるような視線を送ってくる。


「許可します。パトリックとお手合わせして差し上げなさい。手加減は無用です」

「感謝しますお嬢様。この戦いの勝利、お嬢様に捧げます」

「むっ! ずるい、僕だってレイナに勝利を捧げるよ」


 ウヒヒ。ただの張り合いなんでしょうけれど、なんか私を取り合っているみたいね。これは念願の決闘による取り合い感。やめて二人とも、私の為に争わないで! このモテ女限定セリフ一回言ってみたかったのよ~。


「勝負は木剣を用いて魔法はなし」

「承知いたした」


 武人同士特有の張り詰めた空気が二人の間を流れる。流れるんだけれど……。


「キャー! 頑張ってパトリック様ー!」

「剣を持つ姿も凛々しくて素敵!」


 うーん、このアイドルコンサートの雰囲気。まあ私もお茶とお菓子で気楽に観戦しましょうかね。本当はポップコーンとコーラが良いんだけれどね。


 隊長さんがんばれー。私は魔法アリだけどパトリックに勝ったわよー。


「「――いざ!」」



 ☆☆☆☆☆



「はあ、はあ、思った通りなかなか……、やるね……」

「……はあ、はあ、さすがはパトリック様、見事な太刀筋たちすじで。うっ……」


 息をもつかせないような激しい戦いだった。ドサリ、と音を立てて隊長さんの大きな体が地面に倒れる。一瞬間をおいて、パトリックもカランと木剣を落とし地面に片膝をつく。勝負あり、ね。


「キャー! パトリック様の勝利よー!」

「お身体は大丈夫ですか!?」


 終わったとたんわーわー寄ってくる女の子たちに、パトリックはもみくちゃにされている。私は静かに倒れ伏せている隊長さんの元へと行った。


「申し訳ございません。負けました……」

「そのようですね」

「レンドーン家の看板に泥を塗ってしまい――」

「――そのようなことはございませんわ。貴方はよく戦いました」


 勝負は一手の差だった。乙女ゲームのヒーロー属性でスペック盛られているパトリックに、一手の差での負けなら上等でしょうね。正直私はモブキャラの隊長さんが一瞬で負けると予想していたわ。


「ううっ、レイナ様……!」

「さあ、お立ちなさい」


 今の私、わりと理想的な雇い主ムーブじゃないだろうか。レンドーン家はホワイト企業ですわと自画自賛に入った時、


「パトリック、帰ったぞー!!」


 屋敷の敷地中に大声が響き渡った。


 こ、この声はアデル侯爵! あの大熊のようなおじさんに捕まると面倒ね。ひたすら嫁入りの勧誘されることになるわ。


「迅速に撤退します。方円ほうえんの陣を敷いて私を護りなさい」

「「「「「はっ! お嬢様!」」」」」


 三十六計さんじゅうろっけい逃げるにかず。撤退は最良の戦術よ。さらば大熊、オーホッホッホッ!


「ああ、レイナ!? せっかく勝利を捧げたのにー!」


 後ろからパトリックの何やら悲痛な叫びが聞こえる。まあ、入学までもう少し大熊に鍛えてもらいなさいな。



 ☆☆☆☆☆



 そして私は再び王都をブラついているわけだ。そんな私に近寄ってくる男がいた。


「よお姉ちゃん、俺と遊ばない? 楽しいことしようぜ」


 声を掛けてきた男は、見るからに下品な感じだ。私を値踏みするように見る下品な目つき、下品な所作。パンパンと、私は手を叩く。


「仕事ですわ。排除して」

「かしこまりました。お嬢様」


 即座に現れたレンドーン家護衛部隊が、さっと男を取り囲む。


「な、なんだこのマッチョ達! うわーっ!」


 レンドーン家の令嬢たる私の護衛の仕事は多い。あー、早くみんなと遊びたいわ。



 ☆☆☆☆☆



☆グッドウィン王国

 マギキンの主人公たちが住む国。グッドウィン王家が治める。本土とも呼ばれるグレートグッドウィン島にアンヘイム島、サンスリー島と付属の島々からなる島国。大陸国家群とはつかず離れずの関係を維持している。

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