第26話 お嬢様はビームを放つ系女子

「まさか……、レイナ様!」

「おいおいお嬢……、何考えてるか知らないけど馬鹿な事はやめな」


 私の意図を察したのか、エイミーとリオが血相けっそうを変えて止めてくる。

 心配してくれているのね。嬉しいわ。


 でももしこの世界に私が転生した結果こういうが生じているのなら、私は行かなきゃならない。


 そうじゃないとここにいる人たちみんな死んじゃうかもしれない。そんなの私は耐えられないわ。


「心配しないで二人とも。ちょっと一、二発魔法を放ってくるだけよ。それで終わり。簡単でしょ?」


 なんてったって私は不本意ながら“紅蓮の公爵令嬢”の異名をたまわっている。私のチート魔力のかかればイチコロよ! ……たぶん。


「確かにレイナ様の魔力なら状況を打開出来るかもしれませんが……、危険すぎますわ!」

「危険なのはわかっているわ。でもこのままじゃ多分みんな死んじゃうのよ」


 そう。それも王道ファンタジーな死に方じゃなくて、ロボットアニメのそれみたいに。

 まあ私ロボットアニメって興味ないから見たことないんですけど。


「わかりました。なら、私も連れて行ってください! それが条件ですわ」

「私も一緒にいくぜお嬢。二人とも少しどんくさいから心配だしな」

「……わかったわ。けれど、危なくなった逃げるのよ?」

「はい!」

「うん、お嬢もね」


 こんなところでみんな仲良くデッドエンドなんて迎えてやらないわ。だって私は悪役令嬢レイナ・レンドーン。自分の思い通りにならないことは大っ嫌いのワガママお嬢様ですわよ? オーホッホッホッ!



 ☆☆☆☆☆



 さて具体的にどうしましょうか?


 鉄の巨人がガシャンガシャン踏み荒らしている中に突っ込むには、私たちはあまりにもか弱すぎる。なので物陰から戦闘をうかがっていた。どうやら想像以上に押されているみたいですわね……。


「エイミー、擱座かくざしている魔導機でまだ動かせそうなのはあるかしら?」

「そうですね……。あの木の陰の機体、あれは損傷が少ないみたいです。おそらく中の魔法使いが気絶でもしているのでしょう」


 エイミーが指し示した先の魔導機は確かに損傷が少なそうね。木の影に隠れれば近づけそうですし、あれにしましょうか。


「ありがとうエイミー。二人とも、あれに近づくわよ」


 近づくにつれ、魔導機という物の巨大さが実感してくる。

 やっぱり異質なのよね、これ。ほんとになんでこんな物が存在しているのかしら?


 エイミーが外部からの操作でハッチを開けると、彼女の予想通り中の魔法使いは気絶していた。


「リオ、この方の介抱を頼めるかしら?」

「ああ任せなお嬢」

「エイミー、操縦方法を教えてくれるかしら?」

「はい、レイナ様!」


 魔導機の中は意外と広い。そう言えば私が誘拐された時、救出に来た魔導機にクラリスは同乗していたっけ。


「そのシートにまたがって……、はいそうです。次は両側の籠手に手を」


 中のシートは前世で言うバイクみたいな形だ。

 たしか騎馬に合わせて馬の鞍の様になっているって、エイミーがうんちくを語っていた記憶があるわね。ドレスでまたがるって少しはしたないかしら?


 次に両手をアームのついた籠手に突っ込み、グリップを握る。


「これで大丈夫ですわ。足のペダルと手のグリップで直感的に操作できます。細かいところは魔法が調整してくれるので」


 魔法って便利ねー、こんなSF染みた物まで動かせるなんて。


「この機体は、MZ-03〈ブリッツ〉の模倣品、アスレス王国製の〈エクレール〉です。まともにぶつかったら最新鋭の〈シュトルム〉には勝てませんわ。それでも行くのですか?」

「ええ、それが生き残るための選択肢よ。危ないからエイミーも下がっていなさい」

「……わかりました。ご武運ぶうんをレイナ様」


 うーん、このヒロインに見送られる感。普通私は見送る側で、こっちには誰かしらイケメンが乗っているはずよね?


 ……さてと、デッドエンド回避の為にがんばってみますか。


「こちらにはまだ気づいていないみたいね……」


 ゆっくりと機体を起こす。

 敵はこの機体を撃破したものと思い込んでいる。その隙につけこんで、まずは一機撃破したいわね。慎重に杖を構えさせて――、


「まだ、まだ、まだ、そこよ! 《火球》!」


 視界に敵機が入った瞬間、渾身こんしんの魔力を込めて魔法を放つ。

 以前エイミーの家でコアに魔力を流し込んだ時と同じ感覚で魔力が流れ、炎のエネルギーに変換されて杖の先から放たれる。


 ――直撃。そして爆音。


「やったわ! まずは一機!」


 ……とうとう私もビームデビューね。遠いところまで来たものだわ。

 おっと、こちらに気が付いただろうから早く移動しないとね。


 私の存在に気が付いた残りの二機が向かってくる。まずは強力な火力を示した私を始末することにしたようね。狙い通りよ!


 敵が私の方目掛けて魔法という名のビームを放ってくる。避けたら後ろの王宮に当たっちゃう!


「《ひかりかべ》よ!」


 私の呪文とともに王宮を覆えるほどの《光の壁》が発生し、ビームを防ぐ。

 どうかしら? 私が新しく習得した光属性の防御魔法は?


 らちが明かないとみるや、魔導機用の斧を取り出して接近戦に切り替えてくる。これも狙い通りよ。先に来る一体の顎の部分に掌底を合わせる――。


「吹き飛びなさい! 《風よ吹きすさべ》!」


 至近距離で私の風魔法を浴びた敵の〈シュトルム〉は、大きく上空へ打ち出される。バランスを崩して地面に落下し、ぐしゃっとひしゃげた。


 ――これで二機!


 悪いけれど、私の大切な人たちに危害を加え、命すら奪おうとしたあなた達にかける情けはありませんわ!


「あと一機! ああ、逃げるな《火き――」


 立て続けに仲間がやられて動揺したのか、最後の〈シュトルム〉が逃走を始めた。

 私は思わず《火球》と叫びそうになりながらも、思いとどまる。一人くらい捕まえないといけないわよね?


「大地よ捕らえよ! 出なさい《泥沼どろぬま》!」


 《泥沼》は私が新しく習得した地属性の初級魔法だ。

 通常の効果は足元をぬかるませて相手の移動を多少阻害するものだけれど、私のチート魔力でかつ魔導機に乗って使用した今の威力は、魔導機まるまる一機を飲み込むほどの巨大な沼地を出現させていた。


「これで解決ね! 私のマギキン世界を汚し、デッドエンドを迎えさせようとした罪は重いわ。オーホッホッホッ!」


 …………。なんだろう、ほっとしたせいか急に体の力が抜けるような……。


 ああ、だめよレイナ。早く降りてエイミーとリオを安心させなきゃ。お父様、お母様、クラリスにも会わないと。ディラン殿下やみんなは無事かしら……?


 そんなことを考えながら、私の意識は深い闇へと落ちて行った――。



 ☆☆☆☆☆



「――イナ」


 はい? 私を呼ぶ声が聞こえる。

 こんなことが何度かあった気がする。というか毎日クラリスから起こされているわね。


「レイナ! 目を覚ましてください!」

「うわっ! ……って殿下!? 近い! お顔が近いです!」

「ああ、失礼しましたレイナ」


 起きたら至近距離にディラン殿下のお顔があった。

 なんで? どうして? あれからどうなったの!?


「お目覚めになってよかったですわレイナ様」

「心配したぜお嬢! すごい戦いだったな!」

「エイミー! リオ! あれからどのくらい時間が経ったの? みんなは無事?」

「レイナ様のおかげでみんな無事ですわ」

「あれからすぐに殿下率いる部隊がやって来て、それからすぐだから時間もそれほど経ってはいないよ」


 良かった~。私がロボット物まがいな事をしたのは無駄じゃなかったのね。


「きっと魔力の急激な消費と緊張で疲れたんだね。でも、レイナが避難所を飛び出したって耳にした時は本当に心配したよ」

「おほほ。ご心配おかけしましたわ殿下。でも、みんな無事で良かったですわ」

「レイナ、君はまさに救国の英雄だ。僕とこ、こん……」


 こん……? 何だろう? コンクリートはないし……、コンサートでもないかな……。


「僕と婚や――」

「おーい! レイナ、ここにいたか!」

「ルーク! それにライナスにパトリック!」


 みんな元気みたいね。良かったわ!


「しかし魔導機を動かして敵を倒したんだって? 毎回驚かされているけど今回は極めつきだな」

「本当ならオレがお前を護るべきだったな。すまない」

「“紅蓮の公爵令嬢”の異名は伊達じゃないね。戦ったことある僕からしたら、レイナを相手にするのは得策とは言えないね」


 みんな口々に好き勝手に言う。

 よし、ルークとパトリックは後で覚えておきなさい。お庭にクレーターができますわよ。ライナス、それこそ乙女ゲーの男性キャラの発言よ。成長したわね。


「殿下、ところで何か言いかけていたような?」

「……いいえ。僕は君が笑顔ならそれでいいのです」

「……? はい!」


 ウヒヒ、ディランは今日もばっちりイケメン王子ね。ほんと暗殺、というかテロを阻止出来て良かったわ!


 私の愛するマギキン世界が平和ならそれで良し、謎の戦闘パートがなくなればもっと良し!

 さあて、祝勝会の会場はどちらかしら?

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