第25話 私のたった1つの選択肢

「ディラン殿下!」

「レイナ!? どうしたのですか、そんなに急いで? 会いに来てくれたのは嬉しいですけれど、もう式典が始まってしまいますよ?」


 会場中を走り回って、使用人の方に場所を聞いて、公爵家特権を使ってやっとディランに会えた。

 式典の準備で移動しすぎですわ、まったく。


「殿下に、お耳に挟んで欲しいことが」

「僕に、ですか……?」


 ディランは疑問の顔で私を見つめる。

 彼もまたバスケ部かって言いたくなるような高身長になったわね。


 乙女ゲームや少女漫画だと、低身長を売りにしているわけでなければだいたい男性キャラは現実の平均と比べると高身長だ。私は前世でこれをって呼んでたな……。


 攻略対象キャラの中で、ディランだけは相変わらずマギキンとのズレがない完璧王子だ。


 そんなディランにこれから伝えようとしているのは、言ってしまえば未来の事。変な子って思われないかしら? ――ううん、でも伝えないともし何かあった時に後悔しちゃうから。


「ディラン、もしかしたらだけど……」

「? どうしたのですかレイナ?」

「……式典であなたを暗殺しようとしている者がいるかもしれませんわ」


 いるかもしれない、というよりは間違いなくいる。ゲームだとわずか数行で解説される過去の出来事扱いだけれど、この世界では今からまさに起きようとしている出来事。しかも人の命がかかっているわ。


「大丈夫、心配いりませんよ。警備は万全です」


 ディランは少しの間私を見つめた後、そう笑顔で答えた。

 いえ、違うのよ。本当に起きるのよ……たぶん。


「……殿下!」

「心配してくれてありがとうございますレイナ。僕の剣の腕は知っているでしょう? もし襲ってきても返り討ちですよ」


 そうだけど、そうなるはずなのだけれど……。

 この世界は私の知るマギキンの世界とはかなり違ってきている。もし、何かあったら……。


「それに危なっかしいのはレイナの方ですよ。何年か前に誘拐されたじゃないですか。さあ、もう式典が始まるので戻ってください。心配してくれてありがとう」


 ディランはそう言って王子スマイルで爽やかに手を振りながら行ってしまった。まあ大丈夫ですわよね……?



 ☆☆☆☆☆



「この栄光ある我らがグッドウィン王国としては――」


 私の心配は杞憂きゆうに終わるのか、式典は順調に進んでいる。

 今は壇上でお父様が、世界情勢における王国の立場と未来について熱弁を振るわれているわ。


 お父様には悪いけれど、こういう式典ってひたすら偉い人の話を聞いていないといけないから退屈なのよねー。もうこれで何人目かしら? まるで前世の全校集会が四コマぶち抜きで開催しているようだわ……。


 私としてはこれが終わった後の、王宮のシェフが腕によりをかけて作る晩餐会の食事の方が楽しみだ。さすが王宮とだけあって毎回美味しいのよね。ウヒヒ。


「――よって、より我が国の立つべきは……。ん? 何の音かな?」


 突然演説を中断したお父様に、居並ぶ貴族達がざわめき始める。


 ――音?


 言われてみれば、ズシ―ン、ズシ―ンっていう音と、少し揺れがあるような……。地震かしら? 

 いえこの振動、どこかで知っているような?


「――えっ!? 皆さん避難を!」


 慌てた近衛兵が壇上へと上がりお父様に何やら報告すると、お父様は真っ青な顔でそう叫んだ。その瞬間だった――。


 ズゴーンとかドガーンとかいう凄い音がして、私たちがいるホールの入り口付近の壁の一部が崩れ落ちた。


 何? 一体何が起こっているの? 

 

 衝撃で体勢を崩して床に倒れこみ、土煙が舞い上がって何も見えない。

 近くにいたお母様は?

 壇上にいたお父様は?

 みんなは?


 周囲からは悲鳴と怒号が聞こえる。


「お母様! ご無事ですかお母様!」

「レ……レイナさん」

「お母様!」


 お母様の声が聞こえた方へと、這いつくばるようにして私は向かった。

 倒れ伏していたお母様は直ぐに見つかった。


「お母様、大丈夫ですか?」

「ええ、でも倒れた時に足を痛めたみたいだわ。レイナさんは?」

「私は大丈夫です。立てますか? さあ早く逃げましょう」


 私はお母様に肩を貸して立たせ、この混乱から抜け出すべく歩き始めた。

 この惨状はいったい……。地震かはたまた事故か、まったく見当がつかないわ。


 ここにはグッドウィン王国中の貴族が集まっていた。そこで私は前世で見たニュースの記憶から、ある一つの回答にたどり着いた。


 ――まさか、テロ?



 ☆☆☆☆☆



「怪我をしている! こっちだ!」

瓦礫がれきが邪魔だ。魔法でどかせ!」


 土煙が治まるにつれて、被害の状況が明らかになってきた。

 私たちがいた会場の建物は半壊していて、多くの貴族が怪我をしているみたいね。

 瓦礫を避けて歩いていると、前方からクラリスが駆け寄ってきた。


 ――助かった!


「レイナお嬢様! 奥様!」

「クラリス! 一体何が起こったの!? お父様は?」

「どうやら魔導機が襲撃してきたようです。旦那様は国王陛下と共に避難されております。まあ奥様! もしかしてお怪我を!?」


 魔導機が!? 魔導機の存在しないマギキン本編では当然こんな事件は起こらなかった。何かのズレがこんなに被害を出しているの……?


「お母様が足を痛めたみたいなの。手伝ってくれる?」

「もちろんです。さあお二人とも、行きましょう」

「え、ええ……」


 もしも私が転生したことで、この世界にが生じているのだとしたら、私は――。



 ☆☆☆☆☆



「エイミーにリオ、無事だったのね! 良かったわ!」

「レイナ様! 心配で心配で……ご無事でよかったです!」

「探しに行くって言うエイミーを抑えるのに苦労したよ。お嬢、無事でよかった」


 貴族達が避難している一画に行くと、すぐにエイミーとリオを見つけることができた。

 クラリスにはお母様を連れてお医者様の所に行ってもらっている。


「ねえ、ルークたちを見なかった? ディラン殿下は?」

「ルーク様たちなら魔法を使って救助を手伝っているそうですわ」

「イケメン王子なら国王陛下と一緒に避難しているみたいだよ」


 良かった。とりあえずみんな無事みたいね。


「レイナ様、どうやら賊は魔導機を使って襲撃しているようです」

「そうみたいねエイミー。詳しい状況はわかる?」

「避難するときに見えたのですが、賊は三機――たぶんドルドゲルスのMZ-04〈シュトルム〉だと思うのですけど、どうやら細部が違うみたいで……」


 三機……? もしかしてマギキンのなったってこと? ゲームバランスブレイカーもはなはだしいわね。


「でもこちらも魔導機で応戦しているんでしょう?」

「はい。しかしこちらは一世代前の輸入モデル、しかもそこまでの練度がないようです。倍の数で応戦していますが、押されているようですわ」

「なあエイミー、よくわからないが相手の賊は手練れで最新機種を使っているってことか? それっておかしくないか?」

「ええリオ、その通りおかしいですわ。でも事実としてそうなの」


 ええっと……。相手は戦い慣れている上に何故か最新機種で、こっちはお古の型で微妙な感じの魔法使いが操縦しているってこと? なにそれめっちゃピンチじゃない!


 もしかしてこのままじゃ、ここにいる人たちみんなまとめてデッドエンド?

 お父様もお母様も? クラリスも? お友達のみんなも? もちろん私も?

 冗談じゃないわ、一体どういうことなの!?


 ――もしかして私がこの世界に転生したから?


 私のせいでみんなデッドエンドなの?

 いえ、そんなことさせたくない。絶対にさせない。私の目標はデッドエンドなんて回避してスローライフよ。だいたい、まだマギキン本編は始まってもいないじゃない!


「ねえ、エイミー……」

「なんですか、レイナ様?」


 自分ではわからないけれど、きっと声が震えていると思う。

 ほとんど思い付きだ。でもこれ以外に今の私に解決方法は思いつかないわ。


「魔導機って魔法の威力を何倍にもするのよね?」

「ええ、その通りですわ」


 もしかしたら。もしかしたら私はこの状況を打開できる。


「例えば私が魔導機で魔法を撃ったら凄まじい威力になるのかしら……?」

「……なる、でしょうね」


 望まず手に入れた私のチート魔力が役に立つかもしれない。というかそれしか選択肢がない気がする。


「魔導機って、私にも動かせるかしら……?」


 ADVアドベンチャーなのに選択肢がひとつってとんだクソイベね。さっさとバトルパートを終わらせて、恋愛パートに戻るわよ!

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