第7話☆ギルドタグ
時は数日遡る
ランダスタール国の国境の街アジャンダで、隣国ドルドザール国のカラルドから来たマルクスク商会の商隊が、門の外側にある入国受付で順番に
アジャンダの街から出国する者が通るのは、街を背にして門の手前、左側にある出国受付である。
もちろんこちらにも
ギルドタグは発行するときに本人の魔力を登録することで、持ち主の国境の出入りが自動的に管理されるようになっている。
これは国境付近での大がかりな討伐や緊急事態などで、多くの冒険者が出入りしなければならないときの混雑回避のために役立っている。
冒険者達は首から提げたギルドタグを顔見知りの兵士に見せると、互いに手で挨拶をしては門から出ていく。
「あれ? ちょっと待て!
おいっ! ニック、お前のタグ、光ってないぞ!」
いつものようにタグを見せて通り過ぎようとした冒険者に向かって、警備隊の兵士の一人が叫んで呼び止める。
タグでする国境の出入りは自動的に管理されるが、受付の奥に置かれた魔道具がタグを読み取る時、タグ自体がしばらく発光するので目視確認しやすくもなっている。
「あぁ? いい加減なこと抜かしてんじゃねぇよ……って、 うぉっ! マジで光ってねぇ! なんだ? どうなったんだ?」
ニックと呼ばれた冒険者は呼び止めた兵士に詰め寄ろうとしていたが、自分のタグを見て立ち止まる。
いつもは受付前を通り門を出るまで光っているはずタグが、元の鈍く銀色のままであるのを確認して慌て始めた。
「へ? 俺のギルドタグ壊れちまったのか? どうすりゃいいんだ?」
タグを見つめたまま呆けた顔でつぶやくニックの肩に手を置き、連れの一人が声をかける。
「そんな話、今まで聞いたことないぜ。
なぁ、やっぱりこいつは外に出てっちゃ駄目なんだろ?
ニック、とりあえずお前はギルド行ってこい。 俺達は今日の依頼を片付けないとやばいから行くぜ」
向こうからも近寄って来ていた兵士達に確認して、お前は置いていくぞと告げられる。
「えっ! ちょっ、俺一人で?」
「当たり前だろう。 こっちだって人手が一人減っちまった分、いろいろ負担が増えるんだからお互いさまだ。
じゃぁ、また後で……夕方にギルドで合流な。 みんな行くぞ!」
呆然と立ち尽くすニックを残し、他のメンバー達はそれぞれ一言ずつ声をかけて門をくぐって出ていった。
「ニック、前回ここを通ったのいつだ?
その時は大丈夫だったのか?」
近寄って来た兵士達の一人は、冒険者タグのチェックを目視確認していてタグの異常に気づいて声をかけた兵士だった。
ニックのメンバーとはよく顔を合わせてはいるが、彼が四六時中どちらかの受付担当だけをしているわけではないので、ニック達が前回いつ受付を通ったのかは聞いた方が早い。
「……あ、ああ、確か3日くらい前か。 大型の熊を狩りに行って来たときはなんともなかったと思うんだが……。
まぁ、タグは光ってるのが当たり前だったから、自分のを毎回確認しているわけじゃねえけど」
タグには異常があったうえ、メンバーには置いていかれてしょげたニックは、大きな体躯と背中の大斧に似合わない小声で答えた。
「通常の
下手にいじって何かあったら困るから今は無理だ。
とりあえずアルクが言ったように、ギルドに行って相談してタグを見てもらってこいよ。
必要になるだろうから、俺はお前の出入り記録を調べて今回の報告書を作らないとな。
こちらからもギルドに報告書を送ることになるから、当人のお前からもしっかり話しておいてくれよ。
タグについては俺達の管轄外だから、すまないが今は何も出来ん」
大きな背中をバンバン叩かれた後、門とは逆に街の中心へて向かう道の方へ押されたニックは、数歩歩いて振り向くと口の片方をひきつらせながら頷いた。
「なんか良くわからんが、ここにいても邪魔になるだけだからギルド行ってくるわ」
「おうっ、行ってこい! 俺も早いとこ報告書作るようにするからな」
大型の熊や魔獣相手には怯まなさそうな大男でも、前例がないとはいえタグの異常一つでオロオロするんだなぁと、いくつかに集まり、何が起こったのかを耳をそばだてて注目していた街の人達は、不思議そうにしたり呆れたりしながらしばらくするとそれぞれ離れていった。
ニックを見送った兵士達は、受付の仲間に先ほどの状況とこれからの確認内容について伝えると、作業するため数人が奥の部屋に消え、残りは通常業務を再開した。
通常業務に戻った兵士は思う。
数日分のタグ利用者の出入り記録確認。
大変だろうな……。
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