第2話☆マルクの物語

 マルクは国境の街アジャンダに配属変更されることになった。


 この前の配属先は男女比8対2ほどでトップは女性。

 修練中から女性に手が早いと噂があったマルクは早々に目をつけられてはいたので女性隊員には近づかないよう気を付けていた。

 しかし女性は恐ろしい。

 修練中に手を出されたと語る女性の姉が同じ配属先だったらしく、あることないこと批判され、しだいに男性隊員からの援護もなくなり配属変更となる。



 ※ ※ ※ ※ ※



 ランダスタール国の首都ランダルに生まれたマルク・ロードスは、そのあまりに愛らしい笑顔で周囲を魅了し、大人達に可愛がられた。

 マルクは男の子なのにフリルが付いた服を着せられ、外に出るのを禁止され、5歳になるまで屋敷の中しか知らない生活を送っていた。

 彼の服はフリルが付いていようともしっかり男の子仕様という、周囲の(無駄な)努力で可愛らしさは継続中。

 マルクのすごいところは自分が男であるとわかっていながら、周囲の(無駄な)努力を切り捨てることなく上手く利用していること。

 恐ろしい5歳児。


 3歳から文字を習い始め、5歳からは剣術を、7歳からは魔術の指導を受け始めた。

 各分野の勉強は文字を覚えてすぐに始まり、10歳で小等学校に入学すると卒業までの三年間でその多彩な才能を開花させ、首席で卒業すると周囲はさらに歓喜した。



「そこの栗毛のお嬢さん、このあと時間を取ってくれたらおいしいケーキをごちそうしますよ」

「青く美しいその瞳を、是非、私にだけ向けてくれ!」

「今日という日に感謝を!貴方に出会えた喜びとともに!」

「ーーーーー!」

「ーーーーーーーーー!」


 学校時代、たまに周囲を喜ばせるためにした女装のままで街を歩くと、あちこちから声をかけられ、お菓子や花束を渡される。

 毒入りではなさそうだ。

 荷物持ち担当が数人、屋敷まで交代で走っている。

 しばらく勉強中の差し入れと玄関の花瓶の利用に困らないだろう。

 声を欠けられた中に友人達も混ざっていたのは気にしないでおく。



 小等学校を卒業した僕は士官学校の騎士科に進んだ。

 初めての寮生活は目新しいことばかりで、どんなことでも面白かった。

 騎士科の指導員は僕の師範をしていた人だったので他の同級生より厳しく指導されてしまった。

 お陰で剣術の試験は一年生ながら学校で一番だった。



 二年過ごした士官学校も首席で卒業後、正規の騎士見習いになれるはずだったが、見習い試験の朝に悲劇が起きた。

 試験会場の門の近くにいた僕と付き添いの友人に向かって、馬車からはずれた馬が突っ込んでくるのが見えた。

 友人を突き飛ばして自分も避けたつもりだったけど、左足を蹴られて肉が抉れ、骨が折れたのがわかった。


 見習い試験は士官学校卒業の直後しか受けられない。

 例外はない。


 ひどい痛みが集中力を途切れさせるが、それにあらがって治癒魔術を使い骨折の仮止めと止血をしたところで気を失った。



 もちろん見習い試験は受けられなかった。

 馬車は次席卒業した子の家が所有していたものだったらしい。


 左足は治癒魔術を半端にかけてしまったため、他の人の魔力による治癒魔術を負傷箇所が反発して出来ず、自然治癒療法するしかなかった。



 一年間ゆっくり療養とリハビリをしていた俺を、周囲は腫れ物をあつかうように大事に自由にさせてくれた。

 しかし、ぶらぶらするのも退屈なので身体を動かしたくなる。

 兵士の募集をしているのを耳にしたので、修練兵として国境近くのファラルースという街に移住した。


 修練兵になると夜は飲み歩いた。

 店で飲んでいると、何も言わなくても女性の方から近づいてくる。

 しかし俺の世間話に付いてこれる奴はほとんどおらず、相手も数日すると疲れたように離れていく。

 そのうち俺が女遊びをしまくっていると噂されるようになり、それは正式に兵士になってからも消えることはなかった。



 ※ ※ ※ ※ ※



 アジャンダに配置変更された兵舎で相部屋になったのは、柔らかい雰囲気をしているわりに目付きが時々鋭くなることがある男だった。

 まぁ、国境警備はそれくらいじゃないと勤まらないだろう。

 イドロスと名乗った男は俺より2つ年上の19歳だと言った。

 剣の腕もあり、頭の回転も速い。

 警備班も同じだったのでよく一緒に行動したが、イドロスは夜の飲み歩きには付き合いが悪かった。

 アジャンダの街には魔力審査道具チェッカーが配備されていて不審な人物を入れないよう徹底されていたが、本当にそれだくで審査出来ているとは俺には思えなかった。



 ある夜、いつもの店が休みだったのでその店から近い別の店に入ってエールを頼んだ。


「お兄さん一人?ここのエールは中を頼んだ方がお得なのよ」

 エールの中ジョッキを持った女が近寄って来る気配がした。


「おいっ!そいつ警備兵だぞ!」

 入り口近いテーブルから声がかかると、女はエールを俺の隣に置いて、すっと離れると声をかけた男のテーブルへ向かったようだ。


 置かれたエールに手を伸ばす振りをしながら横目で見た男の顔には見覚えがあった。

 俺が前にいたファラルースで武器屋をしていた男だ。

 テーブルの脇でこちらに背中を向けてたっている先ほどの女は、赤茶けた腰までの髪を三つ編みにしている。

 二人はそれからすぐ店を出たが、その時見た女の耳飾りが気になった。




 それから一週間ほどして昼間の警備担当をしていると大きな商隊がカラルドから到着した。

 魔力審査道具チェッカーの担当の一人だった俺はひたすら記録用紙を整理していた。

 チリンッと金属音が聞こえて顔を上げると、審査を終えた女性が立ち去るところだった。

 思わず彼女の記録用紙の内容を一部記憶してしまった。


 名前…シャイナ・マルクスク


 イドロスと同ハウスネーム。


 イドロスと同じ耳飾り。



 とりあえずイドロスに紹介してもらえるよう頼んでみることにした。






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