第23話 冒険者ギルド その2

 冒険者ギルドの中に入ると、露店が並ぶ街の大通りとは違った喧騒が俺達を出迎えた。


 冒険者ギルドの中はとても広いのだが、人が沢山いるので人口密度は割と高い。今の時間はまだ朝方なので、クエストを受注しに来る人が多いのだとアレックスは言っていた。


 どうやら、たまたま最も混んでいる時間に来てしまったらしく、アレックスに連れられ列に並んだはいいものの、受付まではまだかなりの人が並んでいる。


 俺自身、並ぶ事自体は別に苦ではない。しかし、今は俺とアルファとモアだけではなくアレックスもいる。どんな話を振って時間を潰すべきかと考えていると、アレックスの方から声をかけてきた。


「二人は冒険者ギルドは初めてなのかい?」


 突然の質問に少し反応が遅れたが、俺は正直に答える。


「はい。そうですよ」


 もしアレックスが俺達の相手をした門番と答え合わせをするようなことがあれば、俺達は不審がられることだろう。


 しかし、その可能性は限りなくゼロに近いし、ここで正直に答えないと知らないことが多すぎて逆に不審がられるに違いない。


 更に言ってしまえば、俺達はこの街に長居するつもりは無い。万が一のことがあれば全力で逃げ出せばいいのだ。


「そうなんだ。ならまだ結構並びそうだし、僕がその間に冒険者ギルドについて説明しようか?」


 願ったり叶ったりである。知りたかった冒険者ギルドについての情報も得られるし、時間も潰せる。まさに一石二鳥だ。


「はい。お願いします」

「ああ、そうだ。僕に対してはもっと砕けた口調でいいよ。寧ろそうしてくれた方が気楽で良い」

「そうなのか?ならわかった。俺としてもこっちの方が有難い」


 アレックスがそう言ってくれたので、砕けた口調で返答する。顔がイケメン過ぎて同じ男としてはムカつく限りだが、性格はかなり良いのだろう。


「じゃあ冒険者ギルドについて説明しよう。まず、冒険者はAランクからEランクの五つのランクに分けられる。一番上がAランク、一番下がEランクだ。最初は皆Eランクからスタートして、純粋な実力やギルドへの貢献度で変動する。当然高ランクであればあるほど数は少なくなってくるし、成るのも難しくなる」


 やはり魔物のステータスとよく似ている。まあ、冒険者ギルドのランク制度は、魔物のステータスを参考に作られたと言われているから、当然と言えば当然なんだけれども。


「さらに、Aランクの中でも飛び抜けた実力を持っている者は評価され、Sランクとされる。数え切れないほどの冒険者がいるけれど、Sランクになれるのは本当ひと握り。噂によれば、大陸中から掻き集めても五十人もいないらしい」


 Sランク……。魔物のステータスにおけるランクで、俺がかつて噂程度でしか知らなかった等級。となると、冒険者ギルドの創設者は魔物のステータスにおいて、Sというランクがあることを知っていたのだろうか。


「ああ、ちなみに。さっきのドミニクさんが数少ないSランク冒険者の一人だよ」

「へえ…………って、ええっ!?」

「ふふっ、その顔。どうやら驚いたようだね?」


 ああ、本当に驚いた。間違いなく今日一驚いただろう。


 まさか、さっきのスキンヘッドの大男がそんな大物だったとは。


 ただのイカついオッサンにしか見えなかったぞ?


 俺が口をあんぐりと開けて驚いていると、今度はアルファがアレックスに質問を投げかけた。


「そういえばですけど、アレックスさんは何ランクなんですか?」

「僕は一応Aランクだよ」

「十分凄いじゃんか!お前もそんな大物だったんだな……」

「まあ、これでも一応だからね」

「へえ……」


 ――"勇者"。


 その存在は俺も知っている。


 魔物育成キット取扱説明書『【賢】の書』によれば、勇者とは特殊な権能を持つ特別な人間種族の事。その権能は、生まれつき持っている者もいれば突然発現する者もいる。ただ、勇者と呼ばれる存在がどうしてそんな権能を持つのかは、かの四人にも分からなかったらしい。


 およそ百万人に一人の割合で現れるらしいが、その力はまさに一騎当千。

 人によっては一人で一軍にまで匹敵するという。


 そしてなにより――。



 



 一人で一軍に匹敵する勇者は、ダンジョンを支配するダンジョンマスターである魔王にとって、最大の敵である。その驚異的な力で、あっという間に、そして理不尽に迷宮を突破してしまうのだ。


 もしかすると、いつかアレックスと魔王と勇者として対峙する時が来るのかもしれない。


 折角の縁だ。そうならないことを祈ろう。



「すみません。さっきから人が集まっている、あの掲示板は一体なんなんですか?」


 再びアルファが質問をする。どうやら、少しアレックスに慣れてきたようだ。


「ああ、あれは"クエストボード"だよ」

「クエストボード……ですか?」

「ああ。冒険者には基本的に二種類の仕事がある」


 アレックスは指をピンッと二本立てると、冒険者の仕事についての説明を始めた。


「まず一つ目。それが"クエスト"だ。クエストとは、あのクエストボードに貼ってある依頼の事を指す。街の人のお手伝いといった内容のクエストから、ダンジョンから溢れ出て野生化した魔物の討伐というクエストまで、様々なクエストがある。その中から自分に合ったクエストを選んで、そのクエストに見合った報酬を貰うんだ。ちなみに、高ランクになればなるほど受けられる種類のクエストが増えるよ」


 アルファはふむふむと納得したように数回頷くと、再び口を開いた。


「なるほど。ランク制にすることで、実力に見合わないクエストを受けられないようにするわけですね」

「その通りだよ」


 アレックスはアルファの言葉を肯定すると、説明を続けた。


「二つ目は"迷宮調査"。これはいわゆるダンジョン攻略だね。大陸各地にあるダンジョンを攻略して、入手したアイテムや魔物の素材を売るんだ。ダンジョンにも等級が設定されているんだけど、迷宮調査にはランクによる制限がないから、自分の実力と相談して自己責任で挑む必要があるんだ。迷宮調査は危険度が高いけど、ダンジョンを制覇して魔王を討伐すれば追加報酬も支払われるし、一攫千金を狙えるんだよ」


 アレックスが説明を終えると、アルファは自分の疑問を答えてくれたことに対してお礼を言った。


「なるほど……そういう事だったんですね。アレックスさん、説明してくださってありがとうございました」

「構わないさ。他にも分からないことがあれば、遠慮せず僕に何でも聞いてくれ」


 褒めるのは非常に癪だが、やはりイケメンである。


 それにしても、冒険者達がダンジョンに入る目的は完全に己の欲のためというわけか……。


 そしてそのために、俺達は命を狙われるのか……。


 チラリと横を見ると、アルファも若干複雑そうな顔をしていた。

 実際アルファは生まれてからずっとダンジョンで暮らしてきた存在である。やはり色々と思うところがあるのだろう。


 少し考えて、冒険者に対してはやはり遠慮や同情をする必要は無いと改めて気持ちを引き締めた。


 冒険者達は自分のために、平気で俺達魔族の命を奪うだろう。

 それが例え、そこで静かに暮らすだけの魔族であったとしても。


 冒険者達は自分の懐を潤すため。


 俺達は今の生活を守るため。


 甘さを見せれば、殺られるのはこちらだ。それを俺は、よく知っている。

 だから俺は、ダンジョンへの侵入者は容赦無く潰す。


 その相手が、誰であっても。


 大切な幸せを守るために。



 そう決意を新たにしたところで、受付にいる綺麗な女性から声をかけられた。


「次の方、お待たせしました。こちらで対応させていただきます」


 どうやらようやく俺達の順番が来たようだ。


 俺達は冒険者ギルドのギルドカードを作成するため、受付へと歩を進めた。

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