第14話 祝勝会
クックック……
フハハハハハ
ハーッハッハッハ!!
おっと思わず三段笑いが飛び出ちまったぜ。
え?頭でも打ったのかって?
違うわい。
変な食べ物でも食ったのかって?
違うわい。
しょうがないだろう!なんてったって、完全勝利なんだから!
こっちは怪我人は多数いるけど死者は無し。対して相手さんは三百の兵が全滅。
これは少しくらい調子に乗っていいと思わないかい?
え?お前は何かやったのかって?うるさい、黙れ。
今回の戦いにおける最優秀賞はやはり、我が最強の僕にして独り身仲間であるアインス君だろう。
大剣のおっさんが思った以上にやるもんだから、正直かなり焦ったが……まさかアインスの全力があれほどとは……。
アイツどれだけ強くなってるんだよ……。てかもう最後の攻撃とか何したのかもよくわかんなかったし。
おっと、噂をすればだ。
『主よ、ただいま戻ったぞ』
帰還したアインスに声をかけられた。
この頭に直接話しかけてくるような会話の仕方は念話というらしい。
「おつかれさんっ!よくやったな!」
そう言ってハチャメチャに撫でてやると、少し得意げな顔をしてこう返してきた。
『ふんっ!当然だ。あの程度の相手、我にかかれば何の問題もないわ』
カッコつけてはいるものの、尻尾はブンブン振られている。
喜んでいるのが丸わかりだ。
まあこういう所が可愛いんだけど、コイツ。
では、今回大活躍であったアインス君の今のステータスを見てみよう。
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種族:フェンリル
【体力】:A
【攻撃】:A
【防御】:A
【魔力】:S
【魔耐】:S
【敏速】:S
【総合】:S
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このステータスを初めて見た時、俺はまず思った。
Sって何だよ!……と。
困った時の取説先生って思ったわけだけど、なんと取説先生にもSというランクの事は乗っていなかった。
恐らく、噂に聞くAランクの更に上。それがこのSランクなのだろう。
分からないことだらけの中で、それだけは確信を持って言えるほど、アインスの力は余りにも圧倒的だった。
味方だからこそ、とても心強い。
敵じゃなくて本当に良かった。
そんなことを思いながら、俺は目の前で物欲しそうにしているアインスのことを再び撫で回すのだった。
□
「ディロ!やりましたね!」
おっ、今度はアルファか。
今回の戦いにおける最優秀賞がアインスなら、アルファは功労賞だろう。
アルファは戦いが始まる前、小刻みに震えていたからな。
元々彼女は戦場に立つ予定すら無かったのだ。
怖かっただろうし、きっと色んな葛藤もあっただろう。
アルファは気づかれていないと思っているかもしれないが、正直バレバレだった。
それでも戦い抜いたアルファの顔は、とても清々しいものになっている。
戦いの中で自分と向き合い、色んな気持ちに打ち勝ったに違いない。
それにしても圧倒的だった。
何かあった時のためにこっそりツヴァイ達に守るようお願いしていた訳だけど、結果はアルファの無双劇。
むしろ、油断して攻撃を受けそうになっていたツヴァイがアルファにフォローを入れられていた。
そしてアルファは、俺的怒らせたくないランキング堂々の一位に躍り出た。
そもそもさ、俺には万が一を考えて奥にいるようにってキツく言ってきたのに、自分は最前線に出るってどうなのさ。
まあ、そういう所もアルファらしいけどね。
そんなアルファが、俺に話しかけてきた。
「あのですね……。ディロ……一つ提案があるのですが……」
と、言ってモジモジクネクネしている。
なんかカワイイ。
「お、おう?」
けれど、こんな改まってなんてどんな提案だ……?
ま、まさか……このダンジョンを去りたいとか……?そ、そんなことはないと思うんだけど……。
も、もしかして……嫌われるような事を気づかぬ内にしてしまったのだろうか!?
そんなふうに身構える俺に向かってアルファは少し大きめの声で言い放った。
「しゅ、祝勝会をやりませんか……!?」
「…………ん?」
そんな予想もしていなかった提案に、俺は間抜けな声を上げてしまった。
「い、いえですね……この前のディロの誕生日の時の宴が楽しかったのでまた宴をやりたいなとか思ったりしたわけでですね……それで……その……」
恥ずかしいのか、早口で続く言葉を紡ぐアルファを見て、俺はおかしくなってふっと笑ってしまった。
そんな俺に対して顔を背けるアルファに癒されながら、俺はその提案を承諾したのだった。
◆◇◆◇◆
その日の晩。
俺は大きめのグラスを手に持ち、皆の前に立っていた。
「まず、皆にはお礼を言いたい。この場所を守るために戦ってくれてありがとう。そして言わせてくれ、よくやった!よくぞ誰も死なずに帰ってきてくれた!今回の戦いは俺達の完全勝利だ!俺はお前達の事を誇りに思う!今夜は思う存分楽しもう。では、皆グラスを持ってくれ。皆で掴み取った勝利を祝って……乾杯!」
「「「「乾杯!!」」」」
こうして、俺の言葉を皮切りにして祝勝会が始まった。
今回の宴は前回とは違い、ダンジョンからも食べ物や酒を提供してもらえるようになった。そのため、種類も量も前回に比べて多くなっている。
ゴブリンも、コボルトも、オークも、オーガも、皆好きなように飲んで食って騒いでいる。
好物ばかりを幸せそうに食べる者。
バランス良く様々な種類の料理を食べる者。
食べ物には手をつけず酒のみを堪能する者。
他者との会話に夢中になる者。
本当に様々だ。
俺はそんな皆の自由な姿を見て、改めて戦いが終わったことを実感していた。
「勘弁シテクダサイッス〜オレハモウ飲メナイッスヨォ〜〜〜」
おっと、タケシが早速顔を真っ赤にして目を回している。
アイツあの見た目で下戸なのかよ。
そんなふうに周りの雰囲気を楽しみながらお酒を嗜んでいる俺に声がかけられた。
「お隣よろしいですか?」
微笑みながら声をかけてきたアルファは、その髪色とは正反対になる漆黒のドレスに身を包んでいた。
闇があることで光が際立つように、漆黒のドレスを着たアルファの姿は普段よりも一層美しく見えた。
「もちろん」
「ありがとうございます」
「ドレス、いいね。似合ってる」
「……ありがとうございます」
アルファの白い陶器の様な肌がほんのりと赤く染まる様は、何度見ても可愛いらしく思える。
「祝勝会……開いてくれてありがとうございます」
「さっきからお礼しか言ってなくない?」
「しょ、しょうがないじゃないですか!いざ隣に来たらなんか頭が上手く回らなくなっちゃったんです……。
と、とにかく!本当に感謝しているんですよ。ほら、私も戦いに参加したいっていうわがままも聞いていただきましたし」
「あー、あれはさすがに俺もビックリしたよ。まさかアルファがあんなに強いとは思わなかったけどね……」
「正直、自分でもビックリでしたよ……」
そこから、俺達は暫くの間くだらない話で盛り上がった。料理はどっちが上手かとか、また釣りに行こうとか、甘味を食べたいとか、そんな話だ。
小一時間ほど談笑した後、ほろ酔いのアルファは俺に向かってこう提案した。
「ディロも魔王と呼ばれるダンジョンマスターになったんですし、この機会にディロのラストネームを考えませんか?」
なんか今日のアルファ提案してばっかだな。
真剣な表情で問いかけるアルファに対して、俺はまずそんな場違いな感想を抱いてしまった。
ちなみに、魔族には魔王となった者がラストネームを得る風習がある。
だが、それにしてもラストネームか……考えてもみなかったな……。
「ラストネームか。どんなのがいいかな?」
「折角ですし、皆にも聞いて見ましょうか」
そう言って、アルファは皆を集めた。
「今、俺のラストネームを考えてるんだ。皆の意見も聞かせて欲しい」
そんな俺の言葉に、最初に応えたのはアインスだった。
おっ、アインスは自信ありげだ。
『我に任せておけ。ふむ、我が主に相応しいラストネームは……サンダーウルフマスターアルティメットスペシャルギガントアブソリュート……』
「ストップストーップ!!」
慌てて止めた。
『なんだ。まだ半分も言ってないぞ?』
「長すぎるわっ!」
自信満々だから期待してたのにダメダメじゃねーか。
こいつネーミングセンス無いとこまで俺に似てんのかよ。
い、いや、さすがの俺もここまで酷くないか。酷くないよな?酷くないよね……?ね!?
続いてゴブ助、ポチ、ゴンザレスの三人が口を開いた。
「ディロ・ゴブ助キング」
「ディロ・ポチカイザー」
「ディロ・ゴンザレスエンペラー」
ダメだコイツら……自己主張が強すぎる……。
次はタケシ……と思ったが、彼は今顔を真っ赤にして倒れてしまっているからパスだ。
その後も、独創的で奇天烈な案が飛び交った。
「うぉふうぉふ!(カタストロフ!)」
「被ってる!次ぃ!」
「ギャウギャウ!(ピー!ピー!ピー!)」
「下ネタじゃねーか!次ぃ!」
「グガァッ!(デッドダイデス!)」
「不吉過ぎる!次ぃ!」
しかし、これといって良い案も無く、時間だけが過ぎていった。
あまりにもいい案が出ず、皆の顔にも疲労の色が見え始めていた。
そんな時、口を開いたのはゴブ助だった。
「ディロ様ノ名前ナラアルファ様ガ付ケルノガイイ」
実はアルファは、まだ一度も意見を出してはいなかった。
ラストネームを付けようっていうのもアルファの提案なんだし、是非アルファの案も聞かせてもらいたいんだけどな。
「わ、私ですかっ!?」
「俺もアルファの案は聞きたいな。今から考え始めてもいいからさ」
「い、いえ……少し前に思いついた案がありますけど……あの……その……凄い単純なので……笑わないでくださいね?」
アルファは恥ずかしいのか、少し言い淀んでいたが、やがて思い切ったように口を開いた。
「ミアガン。ディロ・ミアガンなんてどうでしょう?私達の大切な場所である"
俺はアルファが発案した言葉を、心の中で反芻した。
「や、やっぱり変ですよね!?そのまんまですし!ご、ごめんな……」
「良いじゃないか」
「へっ!?」
「よし!皆、聞いてくれ!俺の名前は今日から、ディロ・ミアガンだ!!」
「「「「「うぉんうぉん!」」」」」
「「「「「ギャッギャッ!」」」」」
「「「「「グガァガァッ!」」」」」
俺がそう宣言すると、歓声が上がった。
どうやら皆も賛成なようだ。
「い、いいんですか?こんな案で……」
「もちろん、気に入ったしね。ディロ・ミアガンって響きが良い。それに、アルファが折角考えてくれた名前だ。こんな案だなんて、卑下する必要は無いよ」
そう言うと、アルファは少し安心したように笑った。
「そうですか。気に入っていただけたなら良かったです」
「ああ、いずれ大魔王になる俺に相応しいよ」
「へっ!?大魔王ですか!?」
「ああ、憧れだったからな、大魔王。今俺は充分幸せだし、ついでに夢も叶えちゃおうかなって」
俺が堂々とそう宣言すると、アルファは少しの間鳩が豆鉄砲食らったように目をパチパチさせていたが、すぐにニヤリと揶揄うような笑みを浮かべてこう言い返してきた。
「二兎追うものは一兎も得ずって言いますけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫に決まっているだろう。無茶をするつもりは無いし、この魔物育成キットもある。そして何より――」
「何より?」
「何より――
そう。今の俺はもう一人じゃない。アルファがいて、魔物達がいる。だから俺は自信を持ってこう返せる、大丈夫だ、と。
「ふふっ、そうですか」
「ああ、そうさ」
俺はそうアルファに笑い返して、アルファと共に再び皆が興じる宴の輪の中に戻るのだった。
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