Track.9-22「やばい相手程、燃えるってもんよ!」
動かないエスカレーター。
点らない電灯。
コーニィドは暗闇を視通す
「ちょっと待ってろ」
再び
「わぁ、便利……」
「だろ?」
そして二人はエスカレーターを下り、やがて二つの背を見つけた。
「――愛詩」
駆け寄ろうとした二人に、愛詩は振り向かないまま手で制す。
振り返った咲は口元に立てた人差し指を中てて“静かに”と伝える。
伸びる銀色線――愛詩が伸ばした弦は、大気を震わせることなく二人に彼女の“声”を届ける。
『敵です。それも、これまでのとは比べ物にならない程の』
身を寄せる咲を抱き締めた芽衣は戦慄する。
凶悪なまでに凝縮された、幾多もの命の残骸。それらが結び付き、巨大なひとつの影へと変貌を遂げていた。
(……こいつはやばいな)
四人の中で最も交戦経験を多く有するコーニィドすら歯噛みした。
それに名を付けるなら――やはり
形を言えば芋虫――しかしその頭部には複数の人面が犇めき合い、床を這いずる
ぶよぶよと太った図体は継ぎ接がれた腐肉で構成され、そしてその体躯は
ちなみに言えば。
前の周回で飯田橋における異世界侵攻の際の
どうにか交戦せず上手く遣り過ごす方法を思索していた愛詩だったが、問い掛けた“結実”から色よい回答を得られないことを知るとあからさまな溜息を吐いた。
『――あれをどうにかしないと、先に進めないみたいです』
その声を受け取ったコーニィドは前進し、愛詩に肩を並べる。そして自分よりもいくつも小柄な少女の目に視線を投げては、ふわりと微笑んで頭に手をぽんと置いた。
『二人を頼む』
つながる弦でそう伝えたコーニィドは前を見据える。
前進と同時に、抜き放った刀身を解放する
「俺が相手だ!」
駆ける――張り巡らせた躰術による加速は、
八相からの振り下ろし――袈裟の太刀はしかし肉を裂けても硬い骨には入らない。
「――
しかし刃が骨を叩いた瞬間、コーニィドは得意の魔術を刀の峰を起点にして行使。
爆発した空間エネルギーにより高密度の骨を割り裂いて進む刀身は、そのエネルギー自体に耐え切れず
コーニィド自身も術の行使と同時に柄を手放して指を鳴らし、真反対の方向へと
「グボォォオオオ!」
両断とまではいかないも胴体を深く斬られ、剰え四連の溶断を受けた
そのけたたましさに、後方に控えた芽衣・咲・愛詩の三人は両手で耳を抑え顔を顰めさせた。
「おっと!」
無傷の一体が大きく跳躍し、コーニィドを潰さんと巨大な腹を広げて襲い掛かるも、コーニィドは再び指を鳴らして自身の座標を書き換える。
「
脳機能を複製し、完全なる同時並列思考を得たコーニィドは無傷の一体を燃え盛る紅蓮の円斬で牽制しながら、空いた左腕に
その記憶は失って久しい。
だがその解に至る道筋は、すでに愛詩が弦で編んでいる。
「――“
奇怪な断末魔を上げて一体が細切れの肉片へと変貌した。
残るは一体――短期決戦を決め込むコーニィドは
しかし。
「――
「っ!?」
幾つもの人面の開いた口から迸る
コーニィドは咄嗟に
「ギギ、グギィ――チィヤァ……ギィヤァ……」
「魔術士の異骸で構成させてんのか」
「コゥさん、大丈夫ですか?」
愛詩の心配に呼気を深く吐き出したコーニィドは微笑んで首肯する。
「まぁ見てろ、って」
再三展開した固有座標域から取り出したのは
「やばい相手程、燃えるってもんよ!」
硬い床に突き立った抜き身の三刀をそのままに、両手の指を打ち鳴らしたコーニィドは
空間を跳躍した二振りは
そしてコーニィド自身は目の前に残った
「
「躱すっ!」
構えた
その残影を、迸る幾つもの雷条が撃ち抜いたが捉えられたのは影のみ。
書き換えられた座標は
「“廻れ”!」
その切っ先から、円転する高圧水流の斬撃を流し込んだ。
「ギョオオッッッッッ!」
そこから先は、もはや
刀から刀へと移ろいながら、紫電あるいは重圧あるいは高圧水流を迸らせ、叩き付け、また転移を重ね、斬撃を重ね、――――
「グブ……ジュバッ……ガブブ……」
しかしその間も与えぬほどその戦場という空間を支配したコーニィドの転移連斬。
一撃一撃は身を捩るほどだが脅威はまさしくその速度。
「グ……バ……ァ……ッ――――」
やがて
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