Track.8-28「まだ、戦えるだろ」
それらは、
それらが混じり合って統合されたひとつとは、それは
全ては無から生まれ、無へと還るゆえに。その最果てもまた、“無”に他ならない。
あらゆる
あらゆる空間の歪みを留め。
あらゆる魔術の構築を緩め。
あらゆる分子の震動を停め。
あらゆる存在の抵抗を貫く。
そうして生まれた最後の
「なぁんだ、やっぱりわたしたち、似た者同士だったね」
「似た、つーか、同じだろっ」
無と無がぶつかり合い、互いが互いを無へと帰して無散した。
夷の扱う
仏門では“
違いと言えば、前者が魔術であるのに対し、後者は異術であることだけ――そしてその違いは、同源ゆえに互角であるはずの両者の攻防にほんの些細な
力が同じでも。
だからと言って何もかもが同じなわけじゃない。
「――くっ!」
力に目覚めたばかりの、馴らしが足りない茜は行使のタイミングがほんの少しだけ遅い。
夷が自らに行使する
遠くのステージに
茜は夷のように瞬時にそれをすることがなかなか出来ないでいる。
「“
透過する腕が茜の腹部に沈み、肉の内で実体化した手が腸を掴み上げ、無理やり引き摺り出す――その痛みを“
「痛いなぁ!」
「どっちがだよ!」
夷とて、彼女の持病の関係で元より痛覚は
「玉屋、聞こえるか?」
『はいっ』
「イヤモニの方はどうだ?」
無を根源とする二人の攻防が続く中で航は望七海に呼びかけた。土師はららが倒れてから、秘密裏に彼女が耳に嵌めているイヤモニに接続できないか頼んでいたのだ。
『あと、ちょっと――――行けます、繋げましたっ!』
「よくやった。したら玉屋は土師はららに呼びかけて起こしてくれ。あと、支援も頼む」
『了解しましたっ!――土師さん、聞こえますか?土師さん、――』
そして航はメインステージの芽衣に視線を投じる。
両膝を床について、両腕に刺さった夷の
(まだ、戦えるだろ――――)
出撃前に心から渡されていたうちのひとつ、
再生能力を得る
ただ隠れて機を伺い、夷の気を自分に向けるその時まで耐え忍ぶ。
その覚悟が分かったからこそ、航は芽衣に声すらかけず、方術による支援を茜に施す算段を固めた。
(そうだ。お前は顔が割れたくらいで縮こまるようなタマじゃない――)
自然と思い出すのは、飯田橋での異界侵攻。
初対面にも関わらず、芽衣は航の在り得ないと言える頼みを引き受け、囮役を全うして見せた。
それも、一度じゃない。
状況を打破するために、危険を省みず無理難題を引き受けたのだ。
(お前はお前を知っている。自分の出来る範囲を知っている。その範囲で出来得ることを全力でやれる奴だ――本当にすげぇよ)
その姿を見てしまったからこそ――航は、膨大な熱量を孕んでしまった。
(――なら、俺が踏ん張らないでどうすんだよ、なぁ!)
そして航は本来であれば使わない
物理的な障壁を創り、夷の動きを制限する。
視認する空間の座標を捻じ曲げる
無論、隙があると見れば
今、現状。夷を打破できるのは、悔しいが自分では無く茜だ。それを理解しているからこそ、ならばどうすれば茜の一撃が夷を削ることが出来るのか、それを四分割した思考で考え抜き、可能性をひとつずつ片っ端から試していくしかない。
しかしその
航はその気質上、どうしても前掛かりになってしまいがちだが、用いる術系統や能力を考えれば、彼は後方支援の方が遥かに向いている。
茜が
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