Track.8-6「折角のイケメンが台無しじゃんね」
「どういうことですかっ!?」
スマートフォンを耳にあてたまま顔を顰めた奏汰はつい声を荒げた。
困惑のまま打ち切られた通話に表情は晴れないが、しかし彼が聞いたのは吉報だった。
「どうした?」
「……明日より
「はぁ?」
端的な結論に、やはり航もまた眉根を寄せて変な声を出す。
「
「で、それが何で応援に来るんだよ」
「もともと、
「随分と身勝手だなぁ」
「そう言われると、確かにそうですね……」
通達は夕刻のうちにリーフ・アンド・ウッド合同会社とクローマーク社との双方に出された。
しかし依頼自体はすでにクローマーク社が請け負っており、横やりで全てを取り上げることは出来ないため
奏汰同様にルカ・エリコヴィチ門下の魔術士が追加で3名、フラム・エスティハイム門下の魔術士が4名、ルードヴィヒ・アーデンバーグ門下の魔術士が4名——これで
「しっかし、どうしてそんなやたら――」
「助言があった、とのことです」
奏汰が聞いた話によると、
その単語に苦い表情をする航の脳裏には、いつかのあの言術士の影がちらついている。
「具体的な名前は明かされていませんが、十中八九あいつでしょう――」
それは奏汰も同様だ。
彼の素性とともに謎に包まれた思惑を、二人はやはり掴めずにいる。
そして午後七時――クローマーク本社屋大会議室にて警護人員の再編が早急に組まれることになった。
翌朝八時より合流する追加の11名の魔術士を知っている奏汰を筆頭に、
だから航たちは警護経験の浅い自社スタッフを外して
編成の大幅な変更は仕方が無い。何故なら既存の要員と交代する
その中で極めて最大戦力となるように配置するのが彼らの議論の終着地点だ。そしてそれは、何と夜中の2時に漸く形となり、すぐにリーフ・アンド・ウッド合同会社の煤島へと文書ファイルという形で送られた。
◆
「しばらく、実家に帰ろうと思っています」
調査チーム
警護員を務める調査員やスタッフを含めたクローマーク社全体に再編の通達がなされたのは12月11日金曜日の午前10時。翌週14日の月曜午前8時より再編されたメンバーによる警護が始まると伝えられ、そして詩遊子がその申し出をしたのは再編適用後の午前11時。一期生
今回の再編は残念だったね——突然支部に現れた詩遊子を労う言葉を可南美がかけると、それに返す形で詩遊子が申し出たのだ。
「しばらくって……」
「いえ、安心してください。別に今回の再編がショックとかじゃなくって……
「リベンジ?」
「はい――正直、チーム再編で
刃家は切断武器に特化した器術士の一族であり、日本に於いては四方月家と並ぶ斬術の使い手としても有名だ。
四方月家が方術から斬術を発展させたのに対し、刃家は器術から斬術を発展させた。現在では四方月家の方が日本に於ける斬術筆頭とされているが、東日本では刃家発祥の斬術を用いる斬術士の方が多く存在する。
加えて刃家が四方月家よりも優れている部分が、己が斬術を極めて強力に仕上げる
例に漏れず、詩遊子もまた自身専用の斬術霊器を有している。そしてそれが今回の相手には通用しないことを痛感した。
急造のチームで連携が上手くいかないこともそうだが、その前に並び立つ資格が有るのかという自らへの疑念が、このままでは駄目だと心を焦がした。
「……そう。なら、行ってらっしゃい」
「はい――必ず、もっと強くなって帰って来ます」
再戦を望み、再戦に臨むため一人の魔術士は踵を返す。
クローマーク社にもう一人の、しかし前向きな復讐者が新たに誕生した。
ならば――後ろ暗い復讐者は一体何をしているのか。
「……何だよ、そんな怖い顔しないでくれよって。折角のイケメンが台無しじゃんね」
クローマーク社が保有する第三の異界内に幽閉された大神景は、目の前の暗がりに現れた影に顔を綻ばせた。
「お前は相変わらず――よく喋るのに、肝心なことは伝えてくれないな」
「ヨモさんの真似っすよ」
「はは、言えてるか……」
航は景と同じように、石畳の床に腰を落ち着けて胡坐を掻いた。そして二人の間に二本のビール瓶を置き、その片方を差し出す。
「何すか?昼間っから酒っすか?」
「
「……しゃーねぇーっすなぁ。飲み過ぎてゲロるんじゃねっすよ?」
「気を付けるよ」
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