Track.7-6「へいへいどーした?」
空手なんかやってると、女だろうがよく絡まれる。
オレは中身がこんなんだし、特にこの頃は“オレは女なのに男よりも強い”という性差を超えた力に謎の拘りを持っていて、だから売られた喧嘩は出来るだけ秘密裏に全部買うことにしていた。
最初はまぁ、レディースって言うの?中学生だっつーに
少し煽ってやったら口だけじゃなく手を出して来たので、それならってことで軽くワンパン見舞ってやったら――ほら、オレってば蹴りに
それから
いやいやそっちが下手に絡んできたからでしょうが!とは突っ込む間も無く喧嘩を売られ、こっちが断る前に――まぁそんなつもりはさらさら無いんだけど――殴りかかってきやがんのさ。
だから、オレの中で勝手に伝家の宝刀とかそういう風に呼んでいた
するとどうもそいつは、不良の中でもそこそこまぁ弱ったらしい部類に属する奴だったようで。
結果オレの
次の日の放課後は学校の正門前に5、6人の不良が
多分オレなんだろうな、ってしゃしゃり出たら「安芸って奴はお前か?」なんてメンチ切られて、取り敢えず1人ずつぶちのめしてみたけどさ。
「やるじゃねぇか、でもオレはソイツより
――なんて、
6人抜きをした次の週は、なんと全く知らないヒョロガリの男子生徒から“果し状”なるものを手渡された。とは言ってもうんざりしながらよく聞けばそのヒョロガリが挑んで来たんじゃなくて、
「あ、あ、あ、安芸さん……行かない、方が、いいよ……」
「え、そうなの?」
で、何か怪しいと思って根掘り葉掘り探ってみたら、どうやら
やっぱりオレは恵まれているんだろう。
空手という武器を手に入れながら、オレは自己の研鑽という道を進めている。
だから意気込み勇んで行ってやった。果し状だなんてレトロでスタイリッシュなことやる割りにはカツアゲだのパシリだのちゃっちいことやってるソイツに、どうもオレは正義ってやつを振り翳したくて堪らなかったらしい。
正義は気持ちいい。――当時まだ14歳だったオレは、そのことをよく解ってはいなかった。
どちらかと言えば合法で、でもそれはちょっとした弾みで違法になってしまえる麻薬みたいなもんだ。
だから大柄なアフロヘッド野郎と対峙したオレはのっけからアドレナリン
流石に他の不良連中と違ってワンパンKOとか、ワンキック戦闘不能とかにはならなかったし、ただの不良にしては研ぎ澄まされ過ぎた体捌きをしていた。
「うるぁああ!」
とは言っても結局は不良だ。パンチは
頭部は確かに致命傷にもなり得る弱点の宝庫だ。
目を衝かれれば視覚を奪われ、鼻を打たれれば出血で呼吸を奪われる。
耳の辺りは平衡感覚が狂うどころか
でもそれは、やっぱり当たればって前置詞を置くべきだ。
全身の割合に対して人間の頭というのは小さく、また中心ではなく外縁にあるためよく動く。
当てるなら的は大きく、あとなるべく動かない方がいい――同じ外縁にある脚は、身体構造のせいで稼働領域は狭い方だ。だから、徹底的に脚を攻めた。
「ぐっ――――」
「へいへいどーした?その程度かよ」
相手は大柄で、そして重い。別にデブってるわけじゃないけど、身長はたぶん180センチを越していたし――まだ中学生だぜ?――骨太なのか筋量も贅沢なように見えた。
ただ、悲しいかなそれを俊敏に動かす技術には秀でていなかった。格闘技かスポーツでもやればその肉の重さを速度に置き換えることも出来ただろう。
「てめぇぇえええっ!!」
その技術も何も無いただの
こちらとしては、肉薄しない
しかし闘い慣れているのはあくまでいいのが入ったら一本になる組手、の話だ。
このビッグアフロに格闘技の経験が無いのと同様に、オレには喧嘩の経験があまり無い。
だからオレは基本的にはいいのを入れた後の追撃は出来なかったし、また技術や速度はあっても筋肉量の無いオレの一撃一撃は重みに欠ける。
ビッグアフロに
そして
いいのが入ったら一本になる
何が言いたいのかと言えば、オレには体力――持続力が無い。
「――どうした?ふらついてんじゃねぇか」
「
受けと捌きに専念させていた両腕も、最早上げて構えるのでさえ億劫になり。
移動と攻撃に専念させていた両足は、最早棒と言っても過言でない程の体たらく。
勿論ビッグアフロも最初よりはペースダウンしているものの、消耗具合で言ったら完全にオレの方がヤバい。
調子に乗って脚攻めに傾倒したのが
さて。――――問題は、ここからどうするか、だ。
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