Track.6-18「――嫌な予感がする」
日曜日の大学で生徒は殆どいないのだが、メンバーの安全性や学校側の都合も考慮し借用するのは午前中だけだ。
収録は夜勤から日勤に切り替わるのと同じタイミング、午前8時に始まる予定になっているが、設営作業が遅れているために若干押し気味だ。
収録に参加するのは
彼女たちは収録が開始するまでは少し離れたところに停めてある大型バスの中に待機している。その辺りには運営スタッフや収録スタッフの車両も停められており、物理的な
設営が行われている収録の場所は、紅陽大学の図書館前の大広場だ。この大広場は中央に円形の広い花壇があり、その中心には大きなモミの木が植えられている。
花壇は外縁がベンチとなっており、クリスマスシーズンになるとこのモミの木に素敵と言わざるを得ない
この日の収録と言うのも、クリスマスライブ内で放映される映像の一部のためだ。モミの木にはこの収録のためだけの特別な
控室は図書館の隣の学部棟の講堂を借りており、徒歩にして3分程度の距離がある。
そのため現在勤務中の夜勤チームは、3人が収録場所のモミの木の周辺に位置し、3人が控室にて7人の二期生メンバーを見ている。そして1人が経路上で周辺の警戒を行っているのだ。
オペレーターを通じた統括からの指示により、すでに日勤者の配置も決められている。
唯好と七薙の2人はモミの木周辺の警戒だ。今この時だけは、本来の担当とは違う業務の割り振りが当てられている。
すでに換装は終えている。クローマーク社の兵装の中で最も汎用的な
「お疲れっすー」
「おゥ、お疲れィ」
湧水は比較的新し目の人間だが、九郎に関しては年も歴も上である。しかも配属はWOLFの無印。唯好も七薙も、基本的には殆ど会ったことも喋ったことも無い。
と、言うのも、それぞれのチームの無印クラスともなると――新設されたばかりのFLOWは別として――上層部から直接的に任務の話がなされるため、指令員であっても彼らに対する指示・命令系統には属さないのだ。最早雲の上の人物であると言っても過言ではない。
「お疲れ様です、引継ぎ事項はありますか?」
魔術警護の任でこうして同一の現場で勤務することになっても、担当が違うために本来は会話が無かった。だからこの日の2人は、弛れてしまってはいるものの少しだけ緊張感を取り戻していた。
「んー、引継ぎ事項ねェ……見ての通りィ、飾り付けが押してんだよォ」
「は、はい……」
九郎の語り口は独特だ。後頭部で一つに束ねられたドレッドヘアにゴーグル姿という出で立ちも。
まるでダイバースーツを彷彿とさせる
「この調子だと撮影も押すだろゥ、ッてさァ――ま、それが終われば向こうのバスから警護対象ちャんたちがぞろぞろと出て来るからァ、それまでは
「わ、解りました……」
雲の上の人物は、やはり
「まァでも、まだあと10分は夜勤の時間だィ、それまでのんびりしときなァ」
「は、はい……」
ちらりと車両側を見てみると、大広場までの経路の途中に立っている
視線を大広場中央に戻すと、その奥の通りの真ん中でモミの木を背にして仁王立ちをする
「のんびりって言っても、どうする?」
「そうだねー、近くで時間まで待機しておこうか」
その横顔から目を逸らし、それぞれの配置のちょうど中間地点辺りで2人は並んで立つ。 雲一つない晴天だが、12月の朝方はやはり肌寒い空気に満ちている。その寒空の下で2人は業務用の顔つきのままで最近の出来事についての他愛の無い話に花を咲かせるが、顔付が顔付なので
ちなみに、インカムを介した無音通信、という手段もあるにはあるが、それだとオペレーターには筒抜けなのでこうした“抜き”には用いないのが彼女たちの間での不文律だ。
そうして気が付けば10分が経ち、時刻は8時ちょうど。
まだ飾り付けは終わってはいないが、バスからは待機していた
唯好と七薙もそれと同時に定位置に着いた。七薙と交代した湧水は九郎の方へと駆け寄るが、九郎は唯好が定位置についても二歩ほど横にズレただけで、その場から移動しようとしない。
「あの……乾さん?」
「んおゥ、ちょうどお嬢さんたちも配置に着くところだしィ、ある程度見届けてから俺ッちはお暇させていただくぜィ――場が動く時が一番危ねェしなァ」
その言葉に、挨拶をして上がろうとした湧水すらも足をピタリと止めた。その表情は「え、上がらない方がいいの?」というしどろもどろとしたものだ。
「あァ、
「あ、はいっ、お疲れ様ですっ」
やや上擦った声で湧水は小走りに車両側へと駆けて行く。
七薙が視線だけを向けてバスとは反対側の通りを眺めると、
『乾さん、森瀬さん、夜勤の勤務時間は終わりですけど……』
日勤オペレーターの
「あァ、ベリもッちャん。気にすんなィ、こちとら好きでやッてることだァ」
「ベリもとさん、あたしも同じです。収録が始まるまではいさせてください」
余談だが、
「それに――」
『……どうしたの?』
言い淀んだ
「――嫌な予感がする」
『嫌な予感?それって――』
「えっと、――――」
胸の内のもやもやを言葉にしようと頭を回転させた
撮影スタッフも配置に着き、そして
芽衣の予感とは、卓越した直感力だ。
誰も――本人でさえも――気付いていないが、それは彼女が持つ異術
彼女の霊基配列は固着してしまっているが、その一部のみを稼働させれば
それは茜の
そしてその直感力は、感知する対象は限定されている。
芽衣の持つ霊基配列の根幹は、
彼女が常日頃から行使する
そして彼女の直感力は――――自身を含む周囲の誰かに及ぶ“死”の片鱗を、
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