Track.6-12「何かパンツとか転送できない?」
「
濁流の川面から爆噴する逆滝の防壁が赤い蜉蝣たちを飲み込むが、その防壁を追尾する
一面を白く染め上げる水蒸気。しかし合計8つの巨大な火球はその勢いを衰えさせずに緩く弧を描いて突進した。
「――くっ!!」
隣の建物に跳び移った玲冴は、
しかしその最中にも、芽衣の
「早緒莉さん早緒莉さん!」
『玲冴、どうした?』
早口で捲し立てるような玲冴の物言いに、
「何かパンツとか転送できない?」
『パンツ!?』
剰え、どんどんと
『解った――けど、履いてる余裕なんかあるの?』
「そこは早緒莉さんが上手くやってくれることを期待してます」
『人任せ??』
呆れた笑い声を上げながらも、早緒莉は転送場所とそこに至るまでの戦況の流れを考えていた。
『オッケー、整った。玲冴、指示する場所まで退避できる?』
「うん、やってみる」
『こっちも転送の準備するね』
「ありがとう」
芽衣の放つ
そして玲冴が受けた数は、玲冴の思考を奪うにはやはり足りていない。玲冴は少しばかり芽衣に対して憎しみを抱くものの、それが彼女の異術が齎した効果であると認識してその感情に飲まれないように心構える程度にはまだ冷静だ。
早速、壁を蹴って垂直に昇ってきた芽衣を相手に、玲冴は流術
「この
牙を剥く獣のように尖鋭の氷錐がいくつも向かってくる中、玲冴は叫び上げながら
建物の壁面から伸びた流水の刃は心の放った氷錐を切断しながら、しかし自らもまたその勢いで破綻して霧消した。
氷術特有の白い靄がかった空気が流れ、その影から玲冴の死角を衝いて飛び出したのは赤熱する鬼灯の刃を構える芽衣だ。
「――“狂い咲け”ぇぇぇえええ!!」
外壁を抉りながら放たれた爆炎。刃から燃え上がった炎は振り抜かれた刀身を追うように迸ると、その切先で丸まって
『来たっ――玲冴、今っ!!』
「オッケー早緒莉さん!
範囲内を瞬間的に極度の低温にし吹雪かせることで視界を白く染め上げる氷術。
無論、与える
そのため、通信を
「見え、無いっ!」
未だ熱の冷めやらぬ鬼灯を外壁に突き刺し落下を免れた芽衣は困惑するも、それに対して心は実に冷静だ。
「その程度の
視界は吹き荒ぶ吹雪で白く染まってはいるものの、右目に装填した
走って行く方向は外壁を川面へと向かって鋭角に――その角度に合わせて
「先輩、足場を作りましたっ」
「心ちゃん、ありがとう」
外壁から冷めきった刀身を抜いて芽衣は落下すると、白けた視界は凍った糸の足場に降り立った頃には開けて透き通った。眼前およそ40メートル先では、流水の防壁で心の投擲攻撃を防いだ玲冴が着水せんと跳躍をしたところだ。
「させませんっ!」
外壁から街灯へと跳び移った心が先行して
矢継ぎ早に投擲された本数は8。間隔と角度をつけて放たれたそれらの楔は避けられることを前提としている。躱されたところで
無論、外壁を蹴って墜落体制に入った玲冴にはそんな目論見など関係ない。
玲冴は馬鹿ではないが賢くもない。これまでチームで戦ってきた中で、戦術を考え戦況を組み立てるのは兄である冴玖か、チームリーダーの右京だった。状況を整えてくれる彼らの指示に従って暴れ回るのが玲冴の役割であり。
そして、そのままではいられないのだと突き付けられていることを痛感している。
焦燥と憤慨。悔しさも不甲斐なさも憎々しさも、全ては自らが矛先だ。
4thからいきなり2ndへ抜擢されたあの
それらを吹き払い、追い縋る心の放った8つの楔を、先程芽衣相手に見せた
巻き散らかされた水滴の散弾が、極低温の寒波の波濤により網目状に凍結して一時的な氷壁を創るのだ。それに衝突した楔は、砕かれた氷壁とともに川面へと落ちる。
「
お返しとばかりに氷柱の矢を放ち、心の追撃をも阻んだ玲冴は、背中から着水し、そのまま濁流の中に身を沈めた。
(――
口の周りに大きな気泡が現れ、それを介して水中での呼吸を可能とした玲冴は濁流の流れに乗って下流方向へと水流を操りながら進む。
濁流の中にあっても水の屈折率を弄れる玲冴には水上の様子は一目瞭然だ。背泳ぎのように川底に背を向け、水中から鉄砲水を放ち追撃を阻みながら指定された
目指す先は、そう――――
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