第32話

 相当な高さからボートは海へと落ちたが、何とか3人と一匹は堪えた。


「よし、犬、いけっか?」


「ああ、問題ない」


 クラウディの呼びかけに答え、犬かきを始めるさーてぃーん。

スピードは非常に遅いが、いつかは陸地に辿り着くだろう。

船は陸の近くを遊覧し、建物の明かりが遠目からも見えた。

後は、波にひっくり返されないことを祈るだけだが、


「……クソ」


 クラウディは手で傘を作り、空を見上げた。

ヘリコプターが1台、頭上を飛んでいる。

間もなく、サーチライトでボートは照らされた。


「見つかっちまったじゃねぇか!」


 サニーが怒鳴る。

しかし、雨と風でほとんど声は聞きとれない。

ヘリコプターからは拡声器でクラウディたちにこう呼びかけた。


「ボートの乗組員は速やかに投降しろ! しなければ武力行使を行う!」


「どうする、クラウディ!」


「わっかんねーよ! 犬、何か良い案ねーのか?」


「ワンッ、ワンッ」


 一生懸命何か喋っているが、ワンワンとしか聞きとれない。


(焦ると犬になっちまうのかよ。 使えねー犬だな)


 すると、すぐ横からエンジン音がし、水上スキーに跨がった殲滅チームの一人がそこまで迫っていた。


「ヤベェ!」


 その男は手にサブマシンガンを持ち、こちらのボートの浮き輪部分に狙いを定めている。

赤い点が浮き輪に映し出されたが、波が高く、中々狙いは定まらない。

しかし、撃ち抜かれるのは時間の問題か。

クラウディは剣を背中に担ぎ、水面目がけて水平に振った。

すると、小さな波が出来、一瞬、相手の目を眩ませる。


「こしゃくなっ…… 何!」


 突然、男の目の前に現れるクラウディ。

さーてぃーんの背に跨がり、犬かきで移動していた。


「おらあっ!」


 段ボールの剣が、男の脳天を捉えた。 



 



 

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