第31話

「それなら、とっとと脱出したいとこだが……」


 クラウディが桜子が行方不明になったことを気にかけていると、ティファールが手の中にしまっていた物を見せる。


「クラウディ、これ、桜子」


「……チップ?」


「色々あって…… でも、これがあればまた会えるよ」


 一体何があったのか。

細かいことを聞き出したかったが、今は時間が無い。

クラウディは、さーてぃーんに聞いた。


「見たとこ犬、てめーが一番この船のことを知ってそうだ。 どうやって逃げればいい?」


 さーてぃーんは尻尾を振って答えた。


「看板に出ればすぐに捕まるだろう。 こっちだ」


 さーてぃーんの後を追って、機械室から外へ、そこから更に階段を駆け上がり、やって来たのは2階の客室。

中を見渡し、サニーが吠える。


「ここじゃあ袋のネズミだろうが! まさか、やり過ごす気か?」


「いや、ここから海に出る。 客室には救命ボートが一つずつあるハズだ」


 急いで部屋の中を探し、クラウディがベッドの下にひしゃげた救命ボートを発見した。

それを引きずり出す。


「ポンプもあるな。 これなら5分でボートに空気が入る」


「ちょっと待って。 外、すごい嵐だよ!」


 ティファールが外を指差した。

海は真っ暗な上、嵐。

波でひっくり返ったら一溜まりも無いだろう。

しかし、それでいい、と言ったのはさーてぃーんである。


「これだけ時化(しけ)ていれば、波も高い。 つまり、追跡が難しいという事」


「……一か八かだな」


 クラウディは足で押すポンプをセットし、早速空気を入れ始めた。

サニーは落ち着かない様子で、廊下をチラチラ様子見に行く。

殲滅チームがいないことを確認すると、急げ、とクラウディを煽る。


「……出来た! でもこれ、4人乗るか?」


「それに動力もない。 だから、私はボートから体を半分出して犬かき要員だ」


 ボートは縦長で、前方、真ん中、後方と3人が限界。

さーてぃーんは身を乗り出すこととなった。

サニーとクラウディで窓の近くの天井にあるレールにボートの紐を引っかけ、準備が出来るとティファールが窓を開けた。

物凄い風が室内に入ってくるが、何とかボートに乗り込む。

最後にサニーがボートを押すと、中に仕込まれていた延長レールが伸びて船の外に出た。 

後は、引っかけてある紐を外せば、ボートは海の上へと落ちる。


「行くぞ!」


 クラウディが、背中の段ボールの剣を振りかぶり、紐を切った。

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