第30話

 クラウディは、肩を震わせていた。

目からは大粒の涙が頬を伝う。

サニーやティファールに言われるまでも無く、分かっていた。

ただ、時として人は後に引けなくなってしまうものなのだ。

クラウディは小学校のころ、髪型を友達に馬鹿にされ、爆発してしまったことがある。

それ以来、キレさせたらヤバイ奴のレッテルを貼られ、本人もそれをずっと引きずっていた。

クラウディは、困ってる人ことは放っておけないタチで、それが高じて試験ブレイカーをするほどである。

孤立していた桜子のことも、放っておけなかった。

そんないいヤツなのに、周りからはRクラウディと冷ややかな目で見られていた。


(俺だって直してーんだ。 だけど、自分だけの力じゃ無理なんだよ……)


 拳を握る手が震える。

クラウディも男だし、自分は悪いことなど何もしていない。

それを口で説明するより先に、行動に走ってしまう。


(……)


 沈黙が続いた。

謝ることが出来れば、どんなに楽だろうか。

クラウディがどうやってこの場を打開しようか考えていると、さーてぃーんはあることに気が付いた。

そして、口を開く。


「……クラウディ、助かった。 何者かがこの部屋に侵入し、バルブを閉めていたらしいな。 君がそれを防いでくれたんだろ?」


「……あ、ああ。 バルブを開けようとしてたんだよ」


「クラウディ、右に閉めていたぞ。 開けるときは左だ」


「う、うるせーな」


 バルブを開くクラウディを見て、サニーとティファールは安堵した。

しかし、一番安堵していたのはクラウディであろう。


(ありがとな、犬)


 さーてぃーんは、クラウディがバルブを閉めるのをやめたのを見て、後に引けなくなっているな、と心情を察した。

さーてぃーんも元は男で、そういった感情は良く理解出来たのだ。

サニーはクラウディが元に戻ったのを喜び、クラウディは質問を投げかけた。


「そういや、試験の答案はどうなったんだよ?」


「それについては私が説明しよう」


 さーてぃーんが注目を集める。


「このパーティーはお前たち試験ブレイカーを一網打尽にするための罠だ。 早く逃げる手筈を考えた方がいい」


「何だって!」


 全員が顔を見合わせる。

ヘリコプターから殲滅チームがやって来るまで、あと15分を切っていた。

 

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