第28話
「クラウディの匂いのついたモンなんて、ねぇぞ」
「それでは追跡は出来ない」
クラウディが触れていたものなら、匂いが残っている、とさーてぃーんは言ったが、サニーもティファールも、クラウディの所持品には心当たりが無いと言った。
すると、私、持ってる、という声。
他の3人がそちらを向く。
「桜子、お前が?」
名乗りを上げたのは桜子だった。
桜子は、自分の頭を指差した。
「私の頭の中にあるチップ。 私は、クラウディにデータを与えられたの」
「どういうことだよ!」
全く意味が分からない、とサニーが詰め寄る。
桜子は、自分のことを話し始めた。
自分は元々ロボットで、今の人格はゲームのデータから拝借していた。
クラウディはとある恋愛シミュレーションゲームのキャラ、桜子のクリアデータをチップに移し、自分を起動させた。
クラウディは自分のチップを手にし、匂いが残っているハズだと言った。
「でも、どうやって取り出すんだよ? 簡単に取り外せるもんなのか?」
「……」
目線を床に落とした桜子は、声を落としながら言った。
「チップを抜けば、私は死ぬ。 でも、そうするしかない」
「ちょっと待って! 出来るわけない!」
ティファールが珍しく声を張り上げる。
桜子は、自分は犠牲になっても構わない、とみなに訴えた。
「クラウディは自分のことを黒歴史みたいに思っちゃったかも知れない。 だけど、クラウディは私を選んでくれた唯一の人だった! 私、小中高とずっと陰キャで、友達なんて1人もいなかったし、みんなは分からないと思う。 自分を否定されてるみたいで…… 毎日、みんな死ねっ、死ねって、ノートに書き殴ってた」
皆が、桜子のことを見ていた。
その訴えかける眼差しは、桜子がゲームのキャラであることを忘れさせた。
「でもね、クラウディと出会って、私、救われたんだ。 私にとって、クラウディとの日々は白歴史なの。 だから、クラウディのこと、守ってあげたいんだ」
「……驚いたな」
口を開いたのは、さーてぃーんだった。
さーてぃーんは人間だった頃、かなりのゲーマーで桜子の登場する文科系パラダイスもやり込んでいた。
さーてぃーんは桜子以外のキャラは全てクリアしていたが、何故がクリア率が99パーセントで止まっていた。
「トゥルーエンドを見るのには、桜子の攻略が必要だったのか」
桜子の包帯が解ける。
そこには、文科系パラダイスのどのキャラクターよりも、眩しい笑顔の桜子がいた。
「これを持って、クラウディの元へ」
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