第27話

「お化けじゃないわ。 私、桜子よ」


「桜子?」


 眉をひそめて桜子の顔を見やるサニー。


「お前、そんな包帯グルグル巻きだったか?」


「私の顔のことはいいの。 今、クラウディを探してるんだけど……」


「クラウディ? あー、そういうことかよ。 ったく、タイプじゃないからって置き去りは酷くねーか? わーったよ、ちょっと待ってろ」


 サニーがイヤホンでキョージュに呼びかける。

内心、サニーの今のセリフにカチンと来た桜子だったが、とりあえずサニーを頼ればすぐに居場所は突きとめられるだろう。

ちなみに、サニーとクラウディは直接無線のやり取りは出来ず、連絡を取るにはキョージュを中継しなければならない。


「あ、キョージュか? オレだけどよ、クラウディが行方不明なんだ。 居場所、教えてくんねーか?」


 しばらくウンウン頷いていたサニーは、突然、廊下に響くでかい声で驚いた。


「ハァ!? あんだって!」


「どうかしたの?」


 ティファールがサニーに詰め寄る。

サニーは顔面蒼白で、本当にお化けでも見たかのようだ。


「やべーぞ。 クラウディの眠っていた人格が引き起こされちまったらしい」


「眠っていた人格? ナニソレ」


「少し長ぇが聞いてくれ。 クラウディには昔、パレットっつーバディがいたんだが、そいつはクラウディの容姿を馬鹿にして大変な目にあった。 聞いた話だと、全裸にされて縄でグルグル巻きにされて、学校の屋上から吊されたんだ。 キョージュはそのクラウディのことを、リバース・クラウディと名付けた」


 ティファールがこめかみに人差し指を当てて、考え込む。


「クラウディには起こしちゃいけない人格があった。 それがリバース・クラウディで、リバース・クラウディは自分のことを馬鹿にした相手を酷い目にあわせる、ってこと?」


「その通りだけど、ちょっと待ってくれ」


 サニーは更に事の詳細を聞き出した。

クラウディは先生に戦いを挑んだが、逆に自分の存在そのものが黒歴史だとこき下ろされた。

その後続け様に生徒らに馬鹿にされ、リバース・クラウディ(以後、Rクラウディ)が目覚めてしまった。

Rクラウディは恐らく、この船に乗っている全生徒に仕返しをしようと目論んでいる。

今現在、連絡は取れず、船内の監視カメラを確認すればRクラウディが何処に向かっているのかが分かるだろう、とキョージュは言った。

サニーが辺りを見回す。


「いやいや、監視カメラなんてなくねーか?」


 船の天井を見渡すも、それらしいものは見当たらない。

すると、ゆっくりと何者かの影がこちらに近づいてきた。


「えっ、かわいい!」


 桜子が思わず口にする。

現れたのは、柴犬。

その正体は、変態ロリコン教師のさーてぃーんだった。


「何かお探しのようだな」


 サニーが叫ぶ。


「何なんだお前! かわいい……」


「私の名はさーてぃーん。 本来であれば13才以上の女性には手を貸したくないのだが、いかんせん、こちらには年増の管先生しかいないのでな。 若干私のストライクゾーンからは外れるが…… 君に手を貸した方が特のようだ」 


「え、私?」


 ティファールが自分を指差す。

管に聞かれたら殺されそうな内容だが、どうやらこちらに協力してくれるらしい。

サニーは、クラウディを探せるか、と聞いた。


「あんた、鼻が利きそうだしな」


「ああ、そのクラウディとやらの「匂い」を嗅がせてくれ」

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