第26話

 殲滅作戦の概要はいたってシンプルだった。

センター試験の問題を潜入した試験ブレイカーが探している隙に、生徒のふりをしたアルバイトを船の屋上に移動させる。

しばらくしてヘリがやって来る手筈となっていて、そこに乗り込んでいる殲滅チームと入れ替わりで脱出させる、というもの。

もちろん、先生らのもつ試験の答案もダミーで、クラウディらはこの場に残るメリットは一つも無い。

桜子は足音を立てないよう、ゆっくりと扉から離れようとした。

後退りながら右足のつま先を地面に下ろし、体重を徐々にかける。

すると、ミキ、という木の軋む音が響いた。


(マズい!)


「誰っ!」


 勢い良く扉が開け放たれ、中から赤のドレスを着た女が現れた。

髪は金髪、年齢は3○才。

手には機関銃を持ち、その場でトリガーを引き、乱射。

壁に無数の穴が出来上がった。


「……誰もいない…… 気のせいかしら?」


「管先生、どうしました?」


 管(すが)、と呼ばれたこの女性。

センター試験の問題を作ったメンバーの1人で、数学の担当である。

絶賛、彼氏募集中だが、今のを見て分かる通り、付き合うのには難がありそうだ。


「……床が軋む音がしたのよね。 さーてぃーん、アンタ、鼻が利くわよね?」


 管に呼びかけ、後ろから現れたのは4本足の獣。

見てくれは柴犬だが、人語を操っている。

名をさーてぃーんと呼び、元々は保健体育の先生だったが、セクハラが酷く、13才の女の子が好きなロリコンだったため、天罰が下りこの様な姿になった。

さーてぃーんはその場に落ちていたトイレットペーパーの切れ端に鼻を近づけた。


「スンスン。 ……この近くにいるが、匂いは途切れていますね」


「使えないわね、さーてぃーん。 ま、いいわ。 追跡、頼んだわよ」


 そういって、管は奥の部屋へと戻っていった。









 脆くなった地面を蹴破り、床下の空間に桜子は身を隠していた。

そこからホフク前進でどうにかその場から逃げることに成功。


(間一髪。 後はクラウディを探さなきゃだけど…… どこにいるのかしら?)


 床下から聞き耳を立てれば、クラウディの居場所が分かるかも知れない。

自分の容姿はトイレットペーパーでグルグル巻きで、明らかに怪しい。

その為、姿を隠しながらクラウディを探せる今の状況は桜子にとって都合が良い。


「……」


 しばらくして、床を誰かが歩いてくる。

足跡は二つ。

1人はやたらでかい声で喋っている。


「いつかアイドルユニットを作るのが目標でよ。 この仕事が終わったら試験ブレイカーからは足洗う予定なんだ。 オレがプロデューサーになったらティファール、おめぇをセンターに据えてやってもいいんだぜ」


「分かったけど、ちょっと声のボリューム、落とそ」


 やって来たのはサニーとティファール。

桜子は、床の板をへし折り、地面へと躍り出た。

木片が飛び散り、辺りに埃が舞う。


「な、な、なんだよ……」 


 徐々に煙が落ち着いて視界がクリアになると、サニーは叫んだ。


「お、お化けえええっ」

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