第23話

(やっぱり、桜子はマルヒゲのオッサンの言った通りのやべー奴だったのか?)

 

 桜子のデータをインストールした際、宇宙服の持ち主であったオヤジはかなり狼狽していた。

オヤジは、桜子を「猟奇的」とも表現している。

クラウディはイヤホンから外で待機しているキョージュと連絡を取った。


「キョージュ、聞こえるか?」


「……なん、だ…… ザザ」


 ノイズが入っているものの、相手の声は聞き取れる。


「少しマズいことになったかも知れない。 この船の中に殺人鬼が紛れ込んだ可能性がある。 作戦の継続は難しい」


「……む、り…… ザザ…… すで…… に…… 前金…… ザザ……」


「前金? アンタ、俺らに内緒で……」


「……ザザ…… ザーッ、ザザッ」


 突然、ノイズが大きくなりクラウディはイヤホンを耳から外した。

何で急にノイズが入ったのか?

分からないが、前金を受け取ってる以上、作戦は続行しなければならない。


(……サニーと連絡を取った方がいいか。 ソッコーでデータを集めて、ここから脱出しないと)


 トイレの個室でそんなやり取りをしていると、誰かが入ってくる足音が聞こえた。


(やべっ)


 このトイレを見られたらマズい。

便器の中は血まみれで、この状況を見られたら誤解を招きかねない。

慌ててクラウディは便座の横の水を流すレバーに手をかけ、奥に押し込んだ。

すると、みるみる水位が上昇していく。


「はあっ!?」


 便器に何か詰まっているのか。

赤い水は流れず、逆に便器から溢れ、その場に散乱した。


「うわわわわっ」


「なっ、何だ!」


 個室の外の小便器で用を足していた男が慌ている。

もう逃げるしかない! と、クラウディは個室の扉を開け放ち、その場から逃げ出した。

逃げ去る瞬間、小便器の男と目が合う。


「……!」


 その男はどこかで見覚えがあった。

もじゃもじゃ頭に、ヒゲを生やしている。

まるで、千円札に描かれている野口英世にそっくりだ。

思わず、クラウディの足が止まる。

そして、声を掛けた。


「……アンタ、永大の先生か?」


「いかにも。 「科学」を担当している、永大の野間口だ」


 男の返答を聞いて困惑する。

男は何故、自分から「科学」の試験を担当したと名乗ったのか。


「話は聞いているよ。 試験ブレイカー殿」


(バレてるし!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る