第22話

 ダンスフロアに生徒、教師らが集まる。

そして、会場が暗くなると、マイクを持った男にスポットライトが当てられた。

彼は、永久機関大学の学長、福沢湯ノ助(63)である。


「本日はお集まり頂き、ありがとうございます。 学長の福沢です。 集まった若い学生諸君らには、ジジイの長話はさぞ退屈と思われますので、早々に切り上げ食事に移りましょう。 私も早く一流シェフの料理が食べたいですからね。 この船は東京湾をぐるりと周り、早朝、この横浜港に戻ってきます。 それでは、しばしの旅にお付き合い下さい」


 会場内が再び明かりで照らされると、二枚扉から料理がワゴンに乗せられ運ばれてくる。

運ばれてきた食事は、透明な器に入れられたムースや、パンにチーズを乗せ、少量のキャビアで味付けされたもの、カキにレモンをふった料理など、ワインなどの酒に合いそうなものが多い。

クラウディも思わずそちらに目を取られそうになるが、雑念を振り払って会場を見渡す。


(分かり易いのは白衣を着た奴)


 科学の先生は狙い目だが、サニーも探している可能性が高い。

それに、アテが外れることもあると、手に小説を持った男や、その他桜子が予想した人物を探す。


「桜子、見つかったか?」


「……」


 桜子も懸命に探すが、それらしき人物は中々見つからない。

と、その時、こちらに1人の男がやって来た。


「お前、めちゃくちゃ怪しいな」


 ハスキーボイスの強面。

背には金棒のような物を携えている。

クラウディが一歩前に進み、言う。


「何だ、アンタ」


「俺は試験ブレイカー様よ」


(同業者か……)


 現れたのはクラウディと同じく試験ブレイカー。

センター試験のデータを盗みに来た者と思われたが、ただのゴロツキにしか見えない。

恐らく下の下、といった部類だろう。


「お前の後ろにいる宇宙服の奴、怪しいな。 てめぇがデータ持ってんだろ!」


「わ、私、そんな……」


 男は見た目が怪しい、という根拠だけで桜子につめよる。

クラウディを強引に押しのけると、桜子の腕を引っ張ってどこかへ向かう。


「待て、オイッ!」


 クラウディが肩を掴んだ瞬間、床になぎ倒される。

よろめきながら立ち上がり、追いかけるも人混みで見失う。


(暴力禁止だろっ!)


 イライラしつつも、トイレの方に向かった、という話を生徒から聞いたクラウディが男子トイレに駆け込む。


(くっそ…… 桜子をバラされちまう)


 トイレを一つずつ開けていくと、クラウディは叫びそうになった。


「……うぷっ」


 個室が血に塗れ、金棒と宇宙服だけが残されている。


(何があったんだ……)


 血は恐らく、金棒の男のもの。

しかし、本人の姿は無い。

便器の中の水は異様に赤く、まるで撲殺された遺体を流した後のよう。

そして……


「桜子は?」


 宇宙服の背中が破れ、中には何も入っていなかった。

 



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