第17話

「ウワアアアアアアーッ」


 点検口を開けたオヤジがクラウディを目視し、驚いて脚立から転げ落ちる。

背中を強打し、もがき苦しんでいるとクラウディが言った。


「おい、大丈夫か?」


 寝そべりながら、クラウディを見やりオヤジが叫ぶ。


「何でオメェがそこにいるだっ!」


「実は……」


 クラウディは脚立を使って点検口から出てくると、手で背中を叩くオヤジに事情を説明した。

当然、本当のことは口に出来ない為、適当な理由をでっち上げる。


「あんたが作った小森、すげぇタイプでさ。 あ、性格がな。 で、もっかいあんたに作ってもらいてんだけど……」


「……ほんとスケベな奴だ、オメェは。 オメェみてぇな奴にオラの小森ちゃんはやれねぇ!」


(面倒くせぇ奴だな)


 クラウディは腕を組んで、それなら、と交渉を持ちかけた。


「ウチに女子がいんだけど、アンタに紹介してやろうか?」


 オヤジは恐らくモテないが故、とうとう自分で彼女を作ろうと画策したに違いない。

……が、こういったオヤジは妙にプライドが高いのが常で、普通の女には興味はない、と頑なである。


「オラの小森ちゃんはなぁ、オラが青春時代を過ごした乙女ゲームのヒロインと瓜二つの性格をしているんだ。 オラは小森ちゃんにしか興味ねぇだ!」


「じゃあ、これは何だよ」


 クラウディは、切り札を見せた。

それは、天裏から発見した、乙女ゲームの数々である。


「あっ、返せっ」


 オヤジが手を伸ばすも、身長が150センチではクラウディが手にしているゲームを取り返すことは出来ない。


「ぐっ」


「返して欲しければ、小森を復活させろ」


「……それは、無理だ」


 オヤジは床にぐったりしている小森の残骸に手を伸ばし、あるものを見せてきた。


「カード?」


「小森ちゃんのロムだべさ。 だが、壊れちまってる。 再生するには小森ちゃんのクリアデータがいるが、「学園物語」は廃盤だべ」


 小森ちゃんのクリアデータとは、学園物語なる乙女ゲームのヒロインの一人である小森ちゃん、その彼女を攻略した際のセーブデータであるが、そもそも学園物語自体がここには無い、とのことだ。

クラウディは言った。


「……なら、他の奴でもいい」


 クラウディが手にしている乙女ゲーム。

その中のヒロインのクリアデータ。

それさえあれば、ロボットを再構築できる。

オヤジは渋った様子だったが、天裏に登れと指示した。


「オメェもオラと同じ匂いがするだ。 手伝ってやるべ」


(は…… コイツと同じ匂いとか、心外だわ) 

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