5.3 かえで&能登:いんちき奴隷館
「やっぱりそこにいましたね」
「お、お茶などいかがかと」
手ぶらですけどね。我ながら苦しい。
「頂きます。別に怒ってないから大丈夫ですよー」
「すみません、つい心配になって」
「桃ちゃんの話聞いてたらそりゃ心配になりますよね」
鼻を人差し指でかきながら、能登くんが助け船を出してくれます。いいやつだなぁ。
「ふふ。能登くん、私のこと押し倒さなきゃいけないんだよね」
「そうだな。はっはっはっ! 覚悟するのだかえでちゃん」
「きゃー!ゆうくんたすけてー」
「はいはい。あ、違った。俺はかえでちゃんが襲われるのが嬉しいってことになってるんだ」
「えーとじゃあ……能登くんの手配した中年親父とDQNだっけ? に襲われる!」
「うわ、それはさすがに助けなきゃ。ゆう頑張れ」
なんでしょう、この枯れた空気感は。
「ああそうです、おじさん、お願いしてもいいですか」
かえでさんが私に聞いてきます。
「なんでしょう」
「このあと王様のところに連れて行って下さい」
「そんなことですか。もちろん構いません」
「ありがとうございます。じゃあ早速行きましょう」
「分かりました」
「……金貨持って行くの忘れちゃだめですよ?」
ジャンと顔を見合わせて二人で苦笑します。
まあそりゃ気付きますか。
女性にはかないません。
王といってもいかんせんこの終末の世界。単に私の幼なじみがそう名乗って村人を元気づけようとしているだけです。昔からよく出来た男でして。
かえでさんと能登くんを連れていったところで、あとは王様とふたりで話したいということで私たちは引き返します。用があったのはかえでさんだけだったのか、能登くんは先に元の世界に戻りました。
もう勇者様たちが元の世界へ戻ること自体がなんでもないことである、という状況に胸が締め付けられます。
おそらくは私たちのかすかな希望であった勇者召喚も、もう石の力が尽きかけているのではないでしょうか。
このいんちき奴隷館に人が来ることはもうないのかもしれません。
まあそうはいっても、また何事もなかったかのように見知ったどなたかがふらっと立ち寄ってくれるのかもしれません。
ゆうさんはまだ奴隷役やっていませんし、能登くんも勇者役やってません。ここで終わってしまっては少し不公平です。
まだまだこの楽しい奴隷館ごっこは続くはず。そんな希望を胸にしまいこみます。
ジャンもたまには腕を振るいたいところでしょう。今日は少し贅沢をしてもいいかな、と思いながら帰路につきました。
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