5.2 かえで&能登:先客

「なんでしょう」

「2階の部屋、能登君と使わせて下さい」


 はい?


「少し話したいんですよね」

「2人でですか」


 問題ないとは思うのですが。桃ちゃんにいろいろ吹き込まれてましたよね、能登君。


「自由に使って下さい」


 金貨を受け取り、能登君を檻から出します。


「ジャンがいま片付けてますので少々お待ちを」

「はーい」


 この部屋を使うのは久しぶりです。商談などで個室が必要な場合があり、特別なお料理をお出ししていました。それでもいつかまた、と手入れは怠っておりません。


「ではごゆっくり」

「ありがとうございます。……覗いたりしちゃだめですよ?」


 冗談めかして言うかえでさんに若干の不安がよぎります。まあそうはいっても能登君いい子なので大丈夫でしょう。NTR好きの変態さんなだけです。ある意味安全。


 今日はずいぶんと早く片付いてしまいました。食堂を掃除し、後片付けを終わらせてしまいます。


 さて。


 ちょっとだけ様子を見に行きましょうかね。


 ほら、急にお腹いたくなったりとかしてるかもしれませんし。決して覗こうなどとは思ってませんからね。声だけちょこっと。


 建ってずいぶんとたっていますので音が出ない場所を選んで慎重に階段を昇り、かえでさんと能登くんがいる部屋へ向かいます。


 ……先客がいました。

 大柄な牛男がドアに張り付いています。


(ジャン。なにをやっている)


 ふぉあっ、とびっくりした顔をしたジャンが、相手が私であることを確認して安心した顔を見せます。


 ついでにちょっと体をずらして二人で中の声を聞き取りやすい位置を分けてくれます。このへんは長年の相棒。あうんの呼吸というやつですね。


「結局私たち、ゆうくんに振り回されっぱなしだね」

「桃ちゃんぐらいしっかりできればいいんだけどな」


 先ほどは無言で固まっていた二人ですが、今はもう普通に話しているようです。


「私もどこかではきちんと……あ」

「?」


 話がやみます。あれ?

 

 まさか能登くん、ここで桃さんに襲いかかったのでしょうか。そうであれば踏み込んで止めなければいけません。いや、でも襲われてるかえでさんもちょこっとだけ見てみたい気も……は! これがNTR!


 まあ実際はなにかあればかえでさんが声をあげるなりなんなりするでしょう。しっかりした子ですし……


「きゃあぁっ」


 ジャンと顔を見合わせます。いや、そんなはずは。


「ぐへへ。あきらめろー」


 邪悪な能登くんの声まで!


「およしになって、そんなー」


かえでさんが助けを求めています。

 

(ジャン!)

(踏み込みましょう!)

 

ばーん。


 ……ふたりとも椅子に座ってお茶してました。あれぇ。

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