5.1 かえで&能登:歓迎会

 えー、本日の奴隷様は前回に引き続き能登さんです。

 これだけ似たような方々が続くとこちらもモチベーションが厳しい。


 奴隷に様付けもどうかと思いますがこちらにいらっしゃるのも初めてではありませんしね。前回の私の対応が不満だったジャンが今回能登さんのお相手をしています。


 相変わらず凜々しい。眼鏡はかけていませんがイケメンさんです。

 

 今回はうちで焼いた芋のパイとハーブティー。ハーブは店の近くの空き地でジャンが育てているレモングラス。こういったご時世ですので家主を失った家や土地が日々増えていきます。


 贅沢なものではありませんが、気持ちばかりのおもてなしです。


「なんか草っぽいっすね、このお茶」


 うん、お茶だからね。草とか葉だよ、そりゃ。

 

 ジャンは怒りもせずにこにこと能登さんを眺めています。こうやって本来の業務ができる機会はほとんどなくなってしまいましたしね。気持ちは分かります。


「でもこれおいしいかったです。ごちそうさま」


 舌はいまいちでもきちんとした好青年、能登くん。


「えと。また檻に入った方がいいんですか?」


 ……聞かれると困っちゃう。


「ご不便をおかけしますが、お付き合い下さい」

「そっすか。分かりました」


 おとなしく檻に入ってくれる能登くん。前回の経験もあるのでしょうが、学校とやらである程度みなさんお話してるんでしょうかね。


 となると勇者様もまたお馴染みの方でしょうか。


 「勇者」さまです、と王宮の世話係に紹介された女性は「かえで」と名乗りました。あちらの世界で言う高校生といった年頃でしょう。それらしい服装もしています。


 わくわく奴隷こと、かえでさんですね。ゆうさんの彼女さんで、桃さんのお友達。そして能登くんの思い人です。


「こんにちは! 今回は初めて勇者役ですよ。歓迎会やってもらいましたー」


 ……一応歓迎「式典」なんですけどね。うちの国王クラッカーとかならすのが好きなのでどうもお誕生日会みたいになるきらいがあります。一番の原因は人手が足りていないことなんですが。


「……かえでちゃん」

「あれ……能登君」


 なんか気まずそうですね。


 後頭部をかりかりしてる能登君と、所在なさそうに自分の髪の毛をひっぱっているかえでさん。


 視線さまよわせながらもじもじしてるかえでさん可愛いんですが。相手がゆうさんじゃないときはいつもこんなかんじなんでしょうか。可愛いんだけどなぁ……。


「どう?奴隷役って結構楽しいよね。」

「……よく知らなくってさ。なんかおおげさに騒いじゃったよ、前回。今考えると恥ずかしい」


「そか、2回目だったね」

「桃ちゃんもなかなか出してくれなくってさ、はは」


「私もー。ゆうくんだったのね、勇者様」

「そっか」

 

「それでね、ゆうくんがさ……」

「……」

 

「……」

「……桃ちゃんなんか言ってた?」


「……うん」

「……」


「……」

「……」

 

 なんかしゃべれ。

 いえ、本人同士が一番気まずいんでしょうけど。


「お茶のおかわりはいかがですか?」


 ジャンが声をかけます。


「あ、だいじょぶです。ありがとうございます」


 ジャンに返事をしたかえでさんが、よし、と何事か気合いを入れ直して私に声をかけます。

 

「おじさん、能登君は買い取ります。それで、お願いがあるんです」

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