4.3 桃&能登:届かないビデオレター

「私のお願い聞いてもらえないの?」

「桃ちゃんごめん。こればっかりはな」

 

「そう。聞いてもらえないんだ」

「ああ」

 

「色々困ったことになるかもしれないよ?」

「なにそれ。桃ちゃんが言うとしゃれにならないな・・」


 でも、と能登くんが続けます。


「かえでちゃんが好きなんだ。悲しませるようなことはできないよ」


 背筋を伸ばして寂しそうにつぶやく能登君。映画のワンシーンのようでかっこいい。イケメンずるい。


「俺はかえでちゃんとゆうの仲を壊すような真似はしない。それにさ。わりと悪くないんだ。あの組み合わせ」


 ん?


「ゆうってさ、こう言っちゃ悪いけどそんなにいいとことかないだろ。そういう奴にかえでちゃんがいいようにされるっていうのもこう、興奮するっていうか」


 桃さんが冷たい目で能登くんを見ています。


「なんでこんなやつに、ってのがいいんだよな! できたらゆうがかえでちゃん撮って送ってきてくれたら最高なんだけど・・桃ちゃんからお願いできない?」


 私も冷たい目で能登さんを見ます。


「能登くん。それは違うよ」

「はは、さすがに高望みだよな」

 

「ちがうって。能登くんとかえでちゃんがお付き合いしてて、その上でゆうくんに取られちゃうのがNTRなんでしょ?」

「まあそれが理想ではあるな」


 桃さんが大きく息を吸います。

 

「ぜんっぜんちがうでしょっ! かえでちゃんが好きなのはゆうくん。能登くんのことなんて全然頭にないでしょ。そんなのNTRって言えるの!?」

 

「まあそうなんだけどな・・もうちょっと優しい言い方にしてくれると助かる」

 

「かえでちゃん1mmも能登くんに興味ないんだよ? 分かってるの!」

 

「いやちょっとぐらいは・・まあ桃ちゃんが言うならほんとにそうなんだろな・・そっか・・」


 やめてあげてください。いくらイケメンだからって何言ってもいいわけじゃないんです。彼だって一介の男子高校生に過ぎません。それ以上言うと心が折れてしまいます。


「だったら無理矢理押し倒してよっ! かえでちゃんの将来のこと、少しは考えてあげて!」


 だからなんでそうなる。桃さんおかしい。


「それしかないのかもしれないな・・」


 だからなんでそうなる。能登くんもおかしい。


「・・いや、違うぞ桃ちゃん」

 

 能登くんが少しすっきりした顔になっていました。


「俺はかえでちゃんが好きだ。そのことだけは間違いない。やめとくよ」

「能登くん・・」


 爽やかに言っていますが至極当たり前のことです。それでも、ぎりぎり人の領域に踏みとどまったことだけは評価しましょう。


「能登くんに言っておきたいことがあるの」

「なんだ?」

 

「かえでちゃん、ゆうくんとえっちなことする気ないよ」

「・・なんて?」

 

「あ、また遅くなってきちゃった。はいおじさん、これ」


 桃さんが金貨を渡してくれます。


「待って桃ちゃん。どういうこと?」

「能登くんもあんまり遅くならないようにね。おうちの人心配するよ」

「そうじゃなくて。付き合ってるのにえっちなことしないってなんだ? 意味分からん」


 能登くん、君の嗜好もわりと似たようなもんだ。意味分からん。

 

「元の世界に戻るまでけっこう時間かかるんだよねぇ」

「困るって! それじゃ俺宛てのビデオレターはどうなるんだ!」

「じゃぁねぇ。また学校で」

「桃ちゃん! ちょ! ま!」


 能登くんの悲痛な叫びを残して、桃さんは帰っていきました。

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