4.1 桃&能登:檻の美丈夫
連日勇者様がいらっしゃる生活にもすっかり慣れてしまいました。
ありがたいことに本日も予定を頂いています。
今回用意する奴隷は男性です。一見細身ですがいい筋肉がついています。バランスよく整った面立ちはまさに勇者様方の元世界用語でいうところのイケメン、その見本のような方です。
眼鏡はかけていません。いえ、以前いらした女性勇者様が眼鏡なしは一切認めない、とおっしゃっていたので。
ただ、おそらくは単なる個人的な意見で、一般に言うイケメンさんというのは眼鏡の有無は関係ないはずです。もし違っていたら申し訳ありません。
いいなあ、私もこんな容姿で生まれたかった。そうしたら女房の私に対する扱いも変わっていたかもしれません。いえ、不満があるわけではないです。ほんとですってば。
檻に入れて脅すのにもつい力が入ります。
お出しするお茶もわざとぬるくしてやりました。お茶菓子も賞味期限ぎりぎりの、半額のやつをわざわざ買ってきました。
「くそっ、俺をここから出せ! なにするつもりだっ」
さらにこのイケメン奴隷さん、性格も大変宜しい。
のりのりです。
異世界でピンチに陥った、的な反応をばっちりしてくれます。
そうなのですよ、こう来てもらえないとこちらもやる気が出ないのです。かえでさんみたいなわくわく奴隷はもうこりごりです。
ジャンも心なしか吠え方に気合いが入っています。
・・あれ、違うかな。私がいい加減なお茶を出したことに怒っているな、これ。
元料理人のジャンは妥協を許さない職人肌の男です。付け出しやお茶にもめっちゃこだわります。いや、だからごめんって。
さて、勇者様がいらっしゃいました。
「勇者」さまです、と王宮の世話係に紹介された女性は「桃」と名乗りました。あちらの世界で言う高校生といった年頃でしょう。それらしい服装もしています。
って、また桃さんですね。
「またお世話になります」
桃さんがぽわぽわぺっこりとお辞儀をしてくれます。可愛いなぁ。可愛いんだけどなぁ・・。
「桃ちゃん!」
「あれ、能登くん」
ああ、君がのとくんだったのか。確かにイケメンですもんね。・・イケメンなのになぁ。
桃さん情報によればかえでさんとNTRをこよなく愛する男だったはずです。
「その男に近づいちゃだめだ! 俺はさっきこいつに檻に入れられて・・くそ、壊れねぇ!」
さすがに普通の人間の力で壊れたりはしません。ジャンの檻のほうは少し傷んで来ているので危ないのですが、中に入っているのはジャンです。ちゃんと加減してくれるので大丈夫。壊したりはしません。
「あー、うん。能登くんはここ初めてだもんね。だいじょぶだよぉ」
桃さんは全く緊張感がありません。もう3回目ですからね、仕方ありません。
「桃ちゃんが勇者?」
「うん」
「そうか。何かの力を手に入れて、これからこの世界を救うんだね」
「うん? よく分からないけど今日は早く帰るよ。昨日もここでかえでちゃんと話してたら遅くなっちゃってさぁ、家ついたら門限過ぎてたぁ」
「??」
情報量が多すぎて能登さんが混乱していますね。
「でもちょうどよかった。能登くんが奴隷で」
「?」
「一応、私が買い取らないと能登くんは自由にならないってことになってるのね」
「くっ。やはりそうなのか・・しかし金貨100枚・・どうにもならないよな・・」
「だいじょぶ。持ってるから」
「本当に!」
「王様にまた同じのもらってきた」
「なるほど、勇者の支度金ってとこだね」
「まあそんなかんじ、ってことになってるみたい」
少し安心した顔を見せる能登くん。助かる希望が出た、といった風情です。ほんといいリアクションだなぁ。おじさん大満足。
「でね、まあもちろん助けることは助けるんだけどね」
「ああ、すまない」
桃さんが能登さんから目を逸らして告げます。
「かわり、ってわけじゃないんだけど。私のお願い聞いてくれないかな」
「俺にできることならもちろん。いつも力になってもらってるしね」
能登さんは頼もしい返事をします。いつも力になってもらっている、って多分かえでさんがらみですよね。内容が若干気になりますが怖くて聞けません。
「ありがと。あのね、たいしたことじゃないんだけど」
「ああ」
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