3.4 桃&かえで(+能登):一途な想い

 NTRとは、寝取られのことです。自分の好きな相手が、自分以外の誰かとくっつくことです。


「あ、いきなり言われてもかえでちゃん意味分からないよね」

「えー、あーとまあ、うん。なんだろねー」


 いや、かえでさんは意味分かってるでしょう。


「そこで。ちゃんと調べてあります!」

「そうなんだー・・」

「えとね、NTR好きっていうのはね」

「うん」

「自分の好きな相手が浮気しても全然気にしない人なんだって!」


 桃さんは情報を収集するところまではすさまじいのですが、物事を解析する能力が若干弱いのではないでしょうか。浮気してもいい、ではなくて浮気して欲しい人たちのことです。


 まあ私も文字上の意味は分かっても頭ではよく分かりません。


 うちの女房のこともよそではいろいろ言いますが本音ではわりと気に入っているのです。女房も他の男と浮気などありえないと思ってくれているはずです。あれ、ないよな・・。

 

「へー。んー・・。なんかちょっとニュアンス違わない?」


 かえでさんが間違いを指摘しようとしていますが、遠回しすぎて伝わらないと思います。

 

「違うの?」

「いや、どうだろね」

「だからさ、とりあえずかえでちゃんは能登君と付き合おう」

「決定事項なんだ・・」

「そそ。でさ、能登君気にしないぽいから適当にゆうくんともくっつけばいいんじゃないかな」

「それはさすがにどうかなぁ・・却下」

「なんで?」

「いやなんでってなんで?」


 桃さんがかえでさんの手を両手で包み、涙目になってうつむきます。

 

「なんで分かってくれないの・・」

 

 境遇に恵まれない娘を慈しむ聖母のような光景です。


 まあ桃さんが言っていることとやっていることは大分アレなんですが。さすがに天使扱いはできない流れになってまいりました。


 ってことは堕天使とか? あれ、これはこれで悪くない気がしてきます。ちょこっとえっちな恰好もしてもらえそうですしこれはアリなんじゃないでしょうか。

 

「あのね・・ゆうくんに未来なんてないんだよ」

「桃ちゃん待って。さすがに言い過ぎ」


「もう2、3年後には犯罪で捕まってる将来しか見えないの」

「大丈夫だよ、ゆうくんそういう度胸ないから。・・というかむしろ桃ちゃんが危ないよ。あとちょっと能登君も気をつけたほうがいいよ」


「だからさ、将来性のある能登君に乗っとこう?」

「桃ちゃん、私の話聞いてくれてる?」


「・・そんなにゆうくんがいいのっ。あれのどこがいいのか言ってみてよっ」

「ゆうくんにいいとこなんてあるわけないでしょっ! そこがいいんだから!」


 ゆうくんふるぼっこ。

 

「いいじゃん、将来とりあえず籍は能登君に入れといて、ゆうくんとえっちなことしたければすれば!」


 桃さんが顔を真っ赤にして叫びます。おそらくはかえでさんのことを思ってのことではあったのでしょう。昨日のゆうさんを見ていれば当然とも言えます。私も同感です。ですが、さすがに言い過ぎです。


 私も含め、自分の身内は多少悪し様に言うものです。大切な人だからこそ、そういう言い方もするのです。


 うちの女房もよくご近所に私の愚痴をこぼしているようですが、私のことを大事に思ってくれているからこそなのです。・・ですよね。あれ、ちょっと自信ないかもしれない。


 左右の拳を握り込んだかえでさんがうつむいたまま声を絞り出します。


「私はそんなことしない。ひどいよ桃ちゃん」


 横を向いて、桃さんがぼそぼそと謝ります。さすがにぽわぽわが消えています。

 

「・・ごめんね、言い過ぎた」


 もう一度小さくごめんね、と口を動かした桃さんにかえでさんが語りかけます。


「私はね、桃ちゃん。ゆうくんとえっちなことはしないの」

「うん?」

「できればずっとゆうくんと一緒にいたい」

「んん?」

「えっちなことはしないままね」

「??」


 しばらく間を置いて桃さんが聞きます。


「一緒にいたい、っていうのは結婚して添い遂げたいってことじゃないの?」

「えへへ。そうだよ?」


 やだ言わないでよはずかしい、みたいな顔したかえでさんは本当に美人さんです。


「ゆうくんと結婚するけどえっちなことはずっとしないってこと?」

「うん」

「死ぬまで?」

「やだなー、桃ちゃんなに言わせるの。はーもー恥ずかしい。そうだよ! 死ぬまで一緒だよ」


 相変わらずこの2人の会話はかみ合いません。


「しつもーん」

「はいなんでしょう」

「浮気する気はないんだよね」

「ゆうくん一筋だよ」

「子供とかはいらないってことでいいの?」

「桃ちゃんそんな・・気が早いよー。やっぱ2人。3人でもいいかな?」

「人数聞いたわけじゃないよ・・えっちなことしないんだよね?」

「うん」

「さすがにそれじゃ子供できないよね?」

「なんとかなるでしょ」

「・・高校生にもなって何言ってるのかえでちゃん」

「そういう意味じゃなくて。ほら、なんかスポイトにでも入れて中に流しこめばできるんじゃない?」


 私の勘違いでした。やはりかえでさんも頭おかしい。少し安心しました。

 

「というかなんでそこまでなにもさせたくないの?」


 私も気になります。生ゴミとはいえさすがにあんまりな扱いではないかと。

 

「わたしはね。きょどってるゆうくんが好きなの」

「・・」

「えっちなことをし終わって、満ち足りた顔のゆうくんなんて絶対見たくない」

「・・」

「ゆうくんにはずっとおどおどしたままでいて欲しいの。なんてね!」


 きゃー言っちゃった♡、みたいな顔のかえでさん。そんなかえでさんを眺めていた桃さんから反省の色が消えます。


「・・かえでちゃん、なんかおなかすいてきたね」

「あ、ほんと。また遅くなっちゃった」

「そろそろ帰ろう」

「そうだねー」


 はいこれ、と金貨を渡した桃さんはかえでさんと出ていきます。

 

  お役目終わって檻から出てきたジャンが、疲れた顔にしわを寄せていました。お疲れさん。

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