3.1 桃&かえで(+能登):不遜な奴隷

 ゆうさんと桃さんを送り出した翌日。


 今日もまた勇者様がいらっしゃる予定です。ここのところたて続けです。手前どもの商売としては助かるのですが、やはりこの世界の状況もいよいよ刻一刻と、終末に近づいてしまっているということでしょうか。


「こんにちは!」

「・・」


 勇者様が助けざるを得ない、縁の深い人物を用意しておく奴隷館。その主人として、初めての事態に困惑しています。


 こちらの都合で身勝手に召喚されてしまった奴隷役は、先日檻に入れたばかりの娘でした。かえでさんです。例の生ゴミ勇者様の彼女さんです。え、どーすんのこれ。


 とにかくいつも通り威嚇するところから始めないといけません。


「娘。この世界に来た以上はことわりに従ってもらう。おまえは奴隷として・・」

「そういうのは省いていいですよ! またお会いしましたねー」


 ・・やりにくい。

 

「とりあえず入っておきますね。あ、ちょっと床固いので座布団みたいなのありませんか?」


 ジャンが自分で檻から出て、客間のクッションをひとつもってきてかえでさんに渡します。いや、諦めるな。もうちょっと頑張ろうよ、ジャン。奴隷! 奴隷だからその子!


「ありがとうございます」

「いえいえ。ご不便をおかけします」


 笑顔でクッションを渡し終えたジャンは再び檻に入ってくつろぎます。いや、おまえは人語を解さない凶暴な戦闘種族って設定なんだからしゃべっちゃだめだろ。


「助けなど来ると思うなよ。いずれおまえは買い取られ、悲惨な生涯を送るのだ」

「ふふ、そしたら困っちゃいますねー。ゆうくんまだかな」


 わくわくが抑えきれない奴隷をどう扱ったらいいのか分かりません。


「あの。勇者様は来ますが買い取って頂けなかった場合は出られませんよ?」


 一応ルール確認はします。さすがにこれ以上の奴隷扱いはお客様に失礼なので、きちんと敬語です。


「はーい!」


 さすがにもうないと思っていますがこうなるとまた来るのはあの勇者様なんですかね。


 結果、予想は外れました。外れましたが、知っている顔でした。


 「勇者」さまです、と王宮の世話係に紹介された女性は「桃」と名乗りました。あちらの世界で言う高校生といった年頃でしょう。それらしい服装もしています。


 ・・というかかえでさんのご友人の桃さんですね。前回奴隷役だった娘です。


 桃さんの顔を見て少しほっとします。ここ連続でゆうさん、かえでさん、桃さんといらっしゃいました。はっきり申し上げますがこの中でまともなのは桃さんだけです。


 ゆうさんはいわずもがな、かえでさんも男の趣味が若干おかしい。桃さんだけが、常識人なのです。


 可愛いらしい顔立ちに豊かな胸、ぽわぽわした雰囲気にゆったりしたしゃべり方。ちょっとうぶな感じもたまりません。眺めてるだけで癒やされます。


「あれ、桃ちゃんだ」

「かえでちゃん。また捕まってたの?」

「うん。今回は桃ちゃんが勇者なんだね」

「そうみたい。前回は奴隷だったんだよ・・」


 桃さんが苦虫を噛みつぶしたような顔をします。前回の勇者、ゆうさんを思い出してしまったのでしょう。


 あれはまあ、うん、小僧が悪い。フォローできん。


「桃ちゃん、とりあえずここから出してー」

「うん」

「この前はゆうくんなかなか開けてくれなかったからさ、あんまり外とかゆっくり見て回れなかったんだよね」


 ゆうくん、という言葉を聞いて桃さんの動きが止まります。


「かえでちゃん」

「うん?」

「あのね。・・ここ出してあげるかわりにお願いがあるんだけど。いいかなぁ?」

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