2.1 ゆう&桃:勇者の再来

 「勇者」さまです、と王宮の世話係に紹介された男は「ゆう」と名乗りました。あちらの世界で言う高校生といった年頃でしょう。それらしい服装もしています。・・ってあれ。この前の小僧じゃん。


「・・またお会いしましたね。勇者様」

「こんにちは」


 これはどういうことでしょう。新しく勇者が召喚される、と聞いてああやはりこの前の小僧は早々に力尽きたか、と心を痛めていたところです。


「ご無事でしたか」

「ええ、なんか夜には元の世界に戻ってて。」

「そうなんですか」

「それでまた召喚されたみたいです」

「なんとまあ・・」

「またかえでちゃんも来てたりします?」

「いえ。別の娘ですね」

「そうですか。とりあえずお邪魔します」

「どうぞ」


 お互いに微妙に気まずいですね。

 お通しした先には檻がふたつ。先ほど仕入れたかえでさんとは別の女性とうちの元料理人、ジャンがそれぞれ入っています。


 いつもどおりうおー、とかうがー、とか叫んでいたジャンですが、来たのは見覚えのあるへたれ勇者様。あれ、こういう場合どうすんの、みたいな目でこっちを見てきます。すまん、わしにも分からん。


「桃ちゃん!」

「おー、ゆうくんだぁ。」


 とりあえず見知った仲のようです。桃ちゃん? そういえば先日の彼女さんからその名前が出ていましたね。


「この奴隷ともお知り合いで?」

「この前一緒にここに来たかえでちゃんのお友達なんです」


 かえでさんと言うと勇者様の彼女さんですね。

 

「ゆうくん来るのおそいよー」

 

 彼女さんもそうですがほんと緊張感ないですね。

 

「やはりこちらの娘をお求めですか?」

「そうなんだけど・・ちょっとまって下さい、確認したいことがあります」


 ジャンがめんどくさそうにあくびをしています。気持ちは分かりますがおつとめはきちんと果たさないといけません。


「ご主人。この、召喚って2、3日してまた元の世界に戻って、またこちらに召喚されて、っていうのが普通なんですか」

「私も詳しくは存じ上げません。ただ、ここに同じ勇者様がいらっしゃったのは初めてのことです」

「普通は1回ってことですか。今まで召喚された勇者は今はどこでなにを?」


 ここは聞かれると痛いところです。召喚により、勝手に人の人生を狂わせているのは事実ですから。そして勇者様方の一番あり得る未来と言えばやはり道半ばにしてどこかで倒れ、といったところでしょう。

 

「ここを出た後のことまでは分かりかねます」


 言葉を濁します。


「僕が再び召喚されたのは例外ということですね。とすると今回の召喚が最後と考えたほうがいいのかな・・」


 勇者様の人生にかかわることです。ここは正直に答えなければなりません。慎重に言葉を選んで答えます。


「わたしの顔を見るのはこれっきりで済むかもしれませんな」


 もう元の世界に戻れることはないでしょう。


「もっとも、勇者様が大いに活躍してくだされば、また新しい奴隷をお求めいただける日もくると思います。」


 普通に考えれば、勇者様のこれからの人生はもうこの世界にしかないのです。

 

「分かりました。覚悟を決めるしかなさそうですね」


 勇者様が真剣な目で桃さんに向き直ります

 

「あのさ、桃ちゃん」

「うん」

「助けてあげるかわりにちょっとお願いをしてもいいかな」

「なにー」

「僕の彼女になってくれないかな」


 ぽわぽわとした雰囲気の桃さんもさすがに口を半開きにしたまま固まっています。ジャンもゴミを見るような目を隠そうともしません。


「いやいやいや。ゆうくんはかえでちゃんと付き合ってるよね?」

「そうだね。でも話聞いたでしょ? 多分僕たちはもうこの世界で生きていくしかないんだ」

「そうかもしれないねー」

「だったらかえでちゃんのいないこの世界で、僕は生きていくしかないんだ」

「まーねー」

「だったら彼女欲しいでしょ? もう僕には桃ちゃんしかいない!」


 桃さんがおでこに人差し指をあてて困った顔をします。桃さんの視線が外れたすきにすかさず勇者様が桃さんの胸をがん見します。

 

 かえでさんも綺麗な方でしたが桃さんはなんていうか、可愛い上に体型に恵まれていらっしゃいますね。気持ちは分かりますがそれでも一言。勇者様、最低です。


「ほら、私じゃなくてもさ、旅先で誰かいい人できるかもしれないよ?」

「できるわけないじゃん! 僕こんなだし!」


 負の自信満載の勇者様。一応自分がクズだという自覚ぐらいはあるようです。


「今、この場で桃ちゃんに断られたらこの世界で一生彼女なんてできないよ」

「えー」


 まあ桃さんも勇者様が買い取ってくれないと売れ残り奴隷として大変になる、という設定になっています。それよりはこのクズのほうがまだましだ、ということは理解していることでしょう。

 

 ただ選択肢のない桃さんにこの要求はどうなんですかね。だめなら助けてやらないよ、って言ってるのと同じだと思うんですが。奴隷の扱いとしては正しいと言えなくもないのでしょうか。


「うーん・・じゃあまあこの世界だけの話で、ってことならいい・・のかなぁ?」

「ほんとに! ありがとう桃ちゃん!」

「とりあえずここから出してー」

「もちろん。あ、でもその前にもうひとつだけ」

「なにー?」


 へたれのくせにこのゲスさがなんともいえない勇者様。ここでも本領発揮です。いや、その子彼女のお友達なんでしょ?

 

「・・このあとちょこっとえっちなことしてもいい?」


 勇者様サイテー。

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