1.2 ゆう&かえで:いにしえのメタファー

 ・・相手に選択肢がない状況でエロ要求とか人としてどうなんでしょう。わたしもジャンもドン引きです。


「いや、ほんと駄目だったらいいんだけどさ」


 顔を真っ赤にしてわたわたしながら勇者様が話を続けます。


「ほら、僕たちもう付き合い始めてずいぶんたつでしょ? でもいつもなんかはぐらかされてそういう流れにならないっていうか。だからほら、こういう機会にちゃんと話しとこうかと思って」


 彼女さんの目が鋭く光ります。

 

「・・うーん」

「だめかなぁ・・」

 

 なんでしょう、このセクハラしちゃいけないと気をつけるあまりに、色々と事前に確認しようとして逆にセクハラしまくっちゃってるおっさん、みたいな少年は。

 

 いや付き合ってんだろ。適当なこと言って適当なとこで押し倒せばいいだろ。めんどくせーなー、こいつら。いいからはやく彼女さん買い取ってやることやっちゃえよ・・です。少し乱暴な言葉遣いとなってしまいました。失礼。

 

「ゆうくんは分かってないよ」

 

 彼女さんのお説教タイムとなりそうです。まあそりゃそうでしょう。

 

「こんな世界にいきなり連れてこられて、不安で泣きそうだったんだ。そこに現れたゆうくんは白馬の王子様そのものなんだよ。ちょっとえっちなことどころかなんだって許しちゃうよ」

「え? じゃ、じゃあ」

「普通はね」

「?」

「私じゃなかったらね」

 

 勇者様も微妙ですが彼女さんのほうもちょっとおかしなかんじになってまいりました。

 

「あのね、私だってゆうくんが好きで付き合ってるの。それらしいことはやぶさかじゃないっていうか、むしろとっとと押し倒していろいろしたい気持ちもあるの。こんなことしちゃった、って桃ちゃんに報告したりしたりね。」

 

 桃ちゃんというのは彼女の気の置けない友人といったところなのでしょう。

 

「でもね、わたしはそれ以上にそのゆうくんのそのきょどりみがたまらなく好きなの」

「え、きょどってる?」

 

 自覚なかったようです。

 

「私にいろいろしたくてもできないし言えない。で、結局胸元とか脚とかちらちら見てもごもごしてる。そんなむっつりゆうくんを眺めるのが大好きなの」

「ええ・・」

「でもこんな状況だからね。ゆうくんが助けてくれないと私も困っちゃうしね」

「・・ごめん、やっぱりすぐ助けるよ」

「だからね、いいよ。お願い聞いてあげても」

「え」

「えっちなことでもいいよ」

「ほんと!」

「うん。でもちゃんとお願いしてくれないとやかな」

「分かった! かえでちゃん、えっちなことさせて!」

「違う違う」

「?」

「ゆうくんのなにを私のどこにどうしたいのか、はっきり具体的に言って?」

「・・・」

 

 彼女さんが微妙にSでした。ちょっと面白いので引き続き眺めます

 可哀想に気の弱そうな勇者様が真っ赤になってきょどっています。これもう、何も言えないの分かってていじめてるわけですね。

 

「ぼ、僕の・・」

 

 もじもじしていた勇者様でしたが、しばらくして覚悟を決めたような顔にかわります。お、いくのか? いったれいったれ。

 

「僕のちん・・じゃなくて・・その、手をかえでちゃんの・・胸にあてさせて下さい」

 

 へたれてんじゃねーよ! 違うだろ、それだけって・・もっとこう、あるだろ! 

 でなきゃ方向性とか考えろ。ここはキスとか純愛っぽいお願いする場面だろ! そうすりゃ自然とそういう流れになって・・あーもー!

 勇者様に心の中で毒づいている間に彼女さんが意外な行動に出ます。

 

「いいよ、はい」

 

 鉄格子ごしに、勇者様の腕を掴んだ彼女さんの手を自分の胸に押し当てました。

 

「え、あ、あの、あー」

 

 混乱してる勇者様ですが微妙に手がわきわきしてます。このへんは本能でしょうか。さすがむっつりゆうくん。

 

「あん♡」

 

 彼女さんがわざとらしく嬌声をあげます。

 

「あっと、ご、ごめん」

 

 あわてて手を離してしまう勇者様。


「へへへ。で、次は?」

 

 彼女さんも少し照れてはいますね。一応羞恥心はあるっぽいです。可愛いところあるじゃないですか。・・でも勇者様は多分気付いてないですね。


「え、次? あれ? いや、これでもういいっていうか」


 彼女さんがいじわるそうな顔をして勇者様の顔を下からのぞきこみます。


「ほんとに?」

「う、うん」


 もう完全に尻に敷かれていますね。先輩として、これではこの少年の行く末が案じられます。いや、人生の先輩として、って意味ですよ。決してかかあ天下のことではなく。いいんです、うちの嫁の話はほっといて下さい。


「勇者様」

「は、はい?」

 

 あれ、おじさんまだいたの、みたいな顔やめてほしいです。完全にふたりの世界にはいってましたね。入ってたのに入れようとする気配がありませんでしたね。いや、なんのこととかそういうのはどうでもいいのです。今ちょっとわたくし荒ぶっておりますので。


「それでいいんですか!」

「それでいい?」

「男として情けない! そんなことでは未来永劫、尻に敷かれたままですよ!」

「未来永劫だなんて・・///」


 そこじゃねーよ。照れるところではないです。彼女さんが愛おしそうに勇者様を眺めています。愛する男性・・ではなく、可愛い小型動物を眺める目です。チワワとかハムスターとか。

 

「いいからずばっと言って、やることやって下さい! うちの2階の部屋2人で使っていいですからっ!」

「え、あの・・え?」

 

 もうだめだこいつ。彼女さんの値札が書いてあった黒板をひっつかみ、文言を書き殴って勇者様に見せます。

 

「これ! 今この黒板に俺が書いた文章をその娘に言え!」

「ええ、でもこれ・・」

「いいからさっさと叫べ! なんでもするって言ってんだからやらせてもらえっ!」

 

 なんでもとまでは言ってなかった気もしますがこの際どうでもいいです。大事なのは勢い。さっきまでにやにやしてた彼女さんも黒板を見て動揺を見せ始め・・ません。ここまでしてもどうせなにもできやしない、と高をくくっているのでしょうか。

 

「俺のたくましい・・いや普通、っていうか僕、全然自信ないんですけど」

「そういうのいいから! とっとと全部読み上げろ!」

「・・あとなんか表現がちょっと古くさいかな、って」

「直接ちん○とかまん○とか書いてもおまえどうせ恥ずかしがって口に出せないだろ!」

 

しばし沈黙。

 

「・・なあ小僧。この娘とやりたくないのか」

 

 その言葉に勇者様の目に光が宿ります。

 顔がすっと締まり、先ほどまで床に小銭が落ちていないか捜し回るようにきょどっていた目がまっすぐ彼女さんに向きます。

    

「かえでちゃん」

「はい」

「俺の・・たくましい如意棒を君の蜜壺に入れたい」

 

 おお、言った! よくやったぞ小僧。全力で応援してやる。男になってきやがれ、ほんと彼女可愛いしうらやましいぜ! うちの嫁なんか・・あ、いやなんでもないです。決して不満なんてみじんもありません。

 

「いいよー」

 

 ・・いいんだ。本当に言うと思わなかったどうしよう、みたいに狼狽してくれたほうが気分よかったんですけど。まあもともと好き合ってるんだからこれで良いのでしょう。あとは2人で楽しくお幸せに。

 

「え?」

 

 予想外の反応ではあったのでしょう。勇者様が確認しだします。

 

「あの、ちょっとわかりにくかったかもしれないけど、にょ、如意棒っていうのはね」

「うん、分かってるよ」

 

 途端にまたきょどりだす勇者様。いやほんともうしっかりしてくれないかなぁ、この男。

 

「私は受け入れるしかないもん。ここで助けてもらえなかったら他の人に買われて・・ううん、それどころか娼館に引き渡されて・・」

 

 うなだれる彼女さん。

 ・・どこからどう見ても演技です。泣いてるんじゃなくて笑いをこらえてるだけだ、気付け小僧。

 

「ごめんね、大丈夫、ちゃんと助けるから!」

 

 ダメッポイ。

 

「でも・・」

「・・いいよ。さっき言ったことはなし。ただいつもやられっぱなしだったからちょっとかえでちゃんの困った顔が見たかっただけなんだ」

「ほんとに?」

「ああ」

 

 しおらしくうなだれているふりはここまでと判断したのか、笑いをこらえられなくなったのか。彼女さんがにやにやしだします。

 

「蜜壺なくて如意棒だいじょぶ?」

「あの、だからそれは言わなかったことにしてほしいかなって」

「たくましいんでしょ?」

「それはほら、お店の人が無理矢理言えって・・」

「私本当にゆうくんのこと大好き」

「え、あれ、えーとありがとう」

「これからもいっぱいきょどってね」

「・・・」

 

 ・・いいからさっさとふたりで出て行け。

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