5話 〜強者達〜

【5話】〜強者達〜


かなり大きな音がしたと思っていたが、気付いたのはどうやら俺とリラだけだったみたいだ。

俺達はすぐに音のした方へと向かった。

訓練場に着くと、そこにはボロボロになったダカルと、ダカルより一回り大きい男が立っていた。

「ダカル‥‥‥!大丈夫か?」

俺とリラは男を無視しダカルの元へ向かった。

しかし、俺の前方に男が立ちはだかった。

「お前らは、こいつのなんだ?」

男がそう言って俺達を見る。

いや、明らかな敵意を持って睨まれた。

「仲間だ‥‥‥旅のな。」

「友達です!」

俺とリラはそう答え男を睨み返す。

「そうか‥‥‥じゃあ俺達に関わるな。俺はこいつの兄だ‥‥‥。」

そう言ってダカルの背中を踏みつける。

ダカルは意識が無いのか、さっきから何も喋らない‥‥‥。

「関係ないな、俺の仲間だ‥‥‥足をどけろ。」

今すぐにでもブン殴りたい衝動を抑えそう忠告する。

こいつがどれ程の強さかは分からないが、少なくても無傷でダカルを倒せる力はある。

迂闊に手を出すのは危険だと感じた。

「あ?足をどけろだ?お前、俺を舐めてるだろ‥‥‥。」

そう言って男は足をどけた‥‥‥。

だが、そのまま俺達の方へと歩いて来た。

「リラ、後ろに下がってくれ。」

「はい!」

俺がそう言うとリラは素直に後ろに下がって行く。

俺は戦闘態勢に入り、いつでも龍に変身できるよう準備をする。

「お、やるんだな?かかってこいよ。」

男がそう言って立ち止まったとき、

「やめてくれ‥‥‥2人は関係ない!」

やっと起き上がったダカルが男にそう言った。

「俺は言ったぜ?関わるなと‥‥‥。それを無視して突っ掛かって来てるのはあいつらだ。まあ、喧嘩を売られた以上もう辞めねえけどな‥‥‥。」

男は再び俺達の方へ向き、俺を睨む。

「俺も辞めねえよ!」

俺はすぐに龍に変身し、全力で尻尾を男に向けて降った。

だが、片手で受け止められ、そのまま地面に叩きつけられる‥‥‥。

「ぐぁっ!」

今の一撃で十分に痛感した‥‥‥こいつはヤバい。

近くにリラとダカルがいたため抑えていたが、身の危険を感じで無意識に熱を放出してしまう。

「おいおい‥‥‥仲間なんじゃねえのか?」

しかし男は熱そうな素振りを一切見せず走ってくる。

俺が放出しているのは熱風だぞ!

リラとダカルの位置には45度くらいの熱が届いているだろう。

だが、その熱は俺に近づく程上がっていく。

触れるくらいまで近づいたときには80度くらいの熱を感じる筈だ。

しかし、男はお構いなしに殴り掛かっててきた。

「ぐはっ‥‥‥!」

熱を放出している最中は魂を使えないのだ。

生身の状態で大きな一撃を喰らい俺は動けなくなってしまった‥‥‥。

「アーク!」

後ろで見ていたリラが水の剣を生成し男に斬りかかる。

しかし、男が右手を突き出すと、衝撃波のようなものがリラに直撃した。

「ぐぁ!」

そのままリラは後ろの建物まで飛ばされ、起き上がらなくなった‥‥‥。

「くそがぁ‥‥‥!」

俺は顔だけを男の方へ向け、体内の炎全てを吐き出した。

「‥‥‥っ。流石に今のは少し効いたぜ。」

だが男は先程と変わらぬ様子で立っていた。

嘘だろ‥‥‥!

今のでも無理ならどうしようもない。

勝てると思っていたが、全く歯が立たなかった。

「お前はカナタの人間じゃねえな、だから躊躇はしねぇ。」

男は右手を俺の方へと向ける。

やめてくれ!‥‥‥と、そう叫びたいが声が出ない。

「じゃあな。」

終わった‥‥‥そう覚悟したとき、目の前に人影が現れ男に剣を振った。

「‥‥‥ミト隊長‥?」

なんとか声を出して前を見ると、男の拳とミト隊長の剣が交錯していた。

「俺の部下に何やってんだダイク!」

ミト隊長はそう叫び、男の腹を蹴りとばす。

「痛ってえな、お前の部下だと?」

「ああ、今日から俺の部隊に配属されたやつらだ。お前はあの場にいなかったから知らないのだろう。」

ミト隊長は剣先を男に向けながら威嚇する。

「それは悪かったな‥‥‥ここでお前と戦うなんてごめんだ。」

ダイクと呼ばれた男は両手を上げて降参し、

そのまま俺達の横を通り過ぎて建物の中へ入って行った。

「大丈夫か?」

ミト隊長がそう言って手を伸ばしてくれる。

「はい、ありがとうございます。それよりもリラとダカルが心配です。」

俺がそう言うとミト隊長はダカルの方へと向かった。

俺は後ろまで飛ばされたリラの元へと向かう。

「大丈夫かリラ!」

「はいっ!全然大丈夫!と言っても、さっきまでは意識ありませんでしたけど。」

リラはそう言って笑って答える。

俺を庇うような形で無理をさせてしまったリラには本当に申し訳ない。

「ダカルも大丈夫そうだ、3人は1度部屋に戻れ、俺はダイクと話がある。」

ミト隊長は俺達の元へダカルを連れてくると、ダイクの後を追った。

「本当にすまねぇ、事情は全部話す。ミト隊長が言う通り一度部屋に戻るか‥‥‥。」

ダカルがそう言い俺達は建物の中へ入った。


俺達4人用に用意された部屋の中へ入り、ダカルから事情を説明してもらう。

「俺は、このエリアでは有名なスタン一家の三男なんだ。」

「私スタン一家って聞いたことある!」

リラがそう言うが俺は全く知らない。

というか、俺は今までずっと村にいたので本当に何も知らないのだ。

「スタン一家は、強力な戦士を作り上げ、各組織や帝国に戦力として売るんだ‥‥‥。だが俺は、毎日毎日行われる厳しい訓練が嫌になり家を抜け出したんだ。」

自分の子供を売るのか!?

にわかに信じられないが、ダカルが言うのだから本当なのだろう。

「そして‥‥‥今日、たまたまカナタ帝国に売られた次男のダイクに見つかり、そのまま罰を喰らったんだ。」

なるほど‥‥‥ダイクの言っていた兄弟というのは本当だったのか。

1人逃げ出した弟に罰を与える‥‥‥確かにあり得る話だが、あれは流石にやり過ぎだろ。

「明日の朝にはこの国を出るつもりだが、次会っても何かされそうか?」

正直今もう1度戦っても絶対に勝てない‥‥‥それ程に強い相手だった。

「いや、もう俺達には絡んで来ないと思うが、俺はもう1度兄と話をしたいと思ってる。」

するとダカルがそんなことを言い出した。

「はあ?辞めとけって。問題の9割を拳で解決しそうな奴と話なんてできるかよ。」

「はあ?躊躇なく年下の女性に手をあげる奴と話なんてできないよ!」

同じように俺とリラはダカルを止めようとするが‥‥‥

「兄はそんな人じゃねえよ。アークがやられたのも、忠告を聞かなかったからだろ?リラなんて、剣持って突っ込んでくる奴に追い返す以外何すんだよ。」

確かにダカルの言う通りだ。

俺達は何も言えなくなってしまった。

「まあ安心しろ、明日の朝少し話すだけだ。

俺なりのけじめってやつだな。」

ダカルはそう言ってるが、やはり少し心配だ。

明日の朝こっそり様子を見に行くか‥‥‥。

「とりあえず今日は寝ましょう!もう疲れた!」

「そうだな、寝るとするか。」

「そういえばミルファは何してるんだろう。」


「さあまだまだ飲むわよ!夜はまだまだこれからだぁ!」

「おぉ!」

「よっ!ミルファ姉さん!」


朝になり目を覚ますと既に8時だった。

戦闘の疲れのせいか、随分長く眠ってしまっていたようだ。

そう思い部屋の中を見渡すと、ダカルの姿が無かった。

しまった!とそう思い急いで部屋から出る。

どこで話しているのかは分からないが、とりあえず昨日の訓練場へと向かった。

すると、建物の裏から男の人の話し声が聞こえてきた。

声をよく聞くとダカルとダイクの声だった。

「もう逃げません!仲間と共に力をつけて、いずれまた戻って来ます!」

「そうか‥‥‥なら俺から目標を決めてやろう。次また会うときまでにBレート以上まで上げろ。」

「分かりました、全力でやります!」

Bレート?なんの事か分からないので後で聞くとするか‥‥‥。

「おい、そこで隠れてるやつ出てこい。」

体がびくっと反応する。

何故気づかれた!?

考える間もなく俺は2人の前に姿を出す。

「アーク?何してんだよ!」

ダカルにそう怒られるが、今はそれどころじゃない‥‥‥。

俺はダイクを警戒しながらゆっくり歩を進める。

「もうやらねえから安心しろ。お前がこいつらのリーダーなんだろ?しっかりやれよ!」

思ってもいなかった言葉に体が固まる。

「ええ、俺も昨日自分の弱さを知ったので、改めて頑張ります。」

自然と敬語で話してしまうが無理はないだろう。

こいつは昨日、俺がボコボコにされた相手なのだから。

「そうだな‥‥‥クソ弱えからな。次会うときまでにBレート、お前にも目標付けてやるよ。」

「どうも。」

クソ腹立つがなんとか我慢した。

そして俺達はダイクと別れ、リラを連れて門の前まで行く。

そこにはカリンとミト隊長、そしてヒトナがいた。

「アーク!私も旅の許可が出たので一緒に行きます!」

「おお本当か!宜しくヒトナ!」

そう言って俺とヒトナが握手をすると、

「なんか知らない間に女できてるんだけど‥‥‥。」

「なんか知らねぇ間に女できてんな。」

外野がうるさいが今は放っておこう。

「皆本当にありがとう!」

するとカリンが俺達に向かって礼をする。

「ああ、本当に助かる。召集以外でもいつでも来てくれ。」

ミト隊長までもが頭を下げて礼をする。

「いやいや、俺達なんて戦力になりませんから!」

昨日の出来事でミト隊長には失望させてしまったかもしれない。

だからこそ、次は認めて貰うために実力を付けなければならない。

「でも、次会う時までには、戦力になれるよう頑張ります!」

俺がそう言うとミト隊長は初めて笑ってくれた。

「ヒトナも気をつけてな。」

「はい!隊長こそあんまり無茶はしないでね!」

ヒトナにそう言われた隊長が何故か目を逸らした。

俺達の知らない何かがあるのかもしれない。

それもまた後で聞くとしよう。

「じゃあ、行ってきますね。」

俺はそう言い3人を連れて外へ出た。

「今度こそ、本当の旅の始まりだな。」

「ですね!」

「私も頑張ります!」

「俺も目標ができたしな!」

そんな感じで俺達は新たな1歩を踏み出した。

「ちょっと待てやぁ!」

後ろから女の人の声が聞こえたが気のせいだろう。




《能力&キャラ紹介》

〈ヒトナ〉C一

触れた人、物の時間を戻す

〈ダイク〉A一

体のあらゆる所から衝撃波を飛ばす



















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る