第4話 夕暮れの城と街
興が乗って、夕暮れまで仕事をしてしまった。矢部は一足先に家に帰したし早く帰らねば、と私は急いで身支度をして居室の外へ出た。するとちょうど隣の居室から同僚の教授である柴山が出てきた。
「おやお帰りですか。」
「ええ、少し遅くなってしまいました。急いで帰らないと。」
「では、私が送りましょう。家はどこのあたりでしたっけ。」
「ありがとうございます。大体98-64あたりです。大通り沿いで大丈夫ですんで。」
柴山は隣に居室を構えており、治金を専門としている教授である。従者を二十人以上抱えており、研究室としてかなり大規模な方である。隣で、かつ年齢が比較的近いこともあり、私が研究室を構えて以来、色々と親切にしてくれている。
「着きましたよ。城の外に住むのは色々と不便でしょう。戻られてはいかがですか。」
真剣な目をしながら柴山は私を説得にかかる。送ってくれた時はいつもこのパターンである。親切で言ってくれているのであろうと思いながら、私は話題を変える。
「まあ、色々とありまして。柴山先生はこのままお帰りですか。」
柴山は説得をあきらめていないようだが、ため息をついてから
「いえ、もう少しだけ所要がありまして。引っ越しの件考えておいて下さいね。」
そう言って城の方へと戻っていった。
日はもうほとんど沈み、昼間は活気にあふれていた大通りも閑散としていて帰路を急ぐ人がまばらにいるのみだ。ふもとに伸びる街もひっそりとしていてほとんど真っ暗である。対照的に、城壁の向こうは夕暮れに合わせて青白い光が灯りだし、その神聖さに幾人かは壁にひざまずいて礼拝をしている。私は、大通りから脇道を下って自宅に帰った。
教団の関係者で城外に住む者は非常に少なく現在は私だけである。先にも述べた通り、教団は基本的に城外に無関心、というより排他的であり、教団員と城外市民との接触を嫌っている。したがって、私が城外に住むことを快く思っていないものが上にはかなりの人数おり、問題になっているらしい。柴山もそういった事情を知っていて、私を説得してくれているのだろう。
「ただいま帰りました。」
「おかえりなさい、先生。今日は遅かったですね。帰りは大丈夫でしたか。」
「いえ、柴山先生にお会いして送ってもらったので大丈夫でしたよ。」
矢部は、少し黙ってから
「それは、それは。ごはんの準備もできているので早く食べてしまってください。」
とそっけなく返してきた。しまった、地雷を踏んでしまったらしい。どこかで機嫌をとらないと駄目だなと思いながら、矢部の準備した晩ごはんを食べ始める。今日は、大通りの店で私が昨日買った鶏肉をソテーしたものがメインだ。焼き加減が絶妙でソースとよく合っている。
「矢部君の作る料理は、やはり絶品ですね。」
「それだけが取り柄ですからね。先生、ご機嫌とろうとしたって、そうはいきませんよ。」
私は、苦笑いをしながらソテーをもう一つ含んだ。むむむ。全てお見通しのようだ。これ以上、近い話題に触れるのはよくないな。と私は思い今日聞く予定であった試験の準備の進捗に関して聞くのを諦めた。こうなっては最終手段に出るしかないだろう。
「そういえば明日は学校も休みだし、城内に帰っていいですよ。代わりに島田君でも呼んでください。」
「よいのですか。早速、島田に連絡をつけておきます。先生、ありがとうございます。」
やれやれ。なんとか機嫌も直ったようだ。私もそろそろ下に降りたいと思っていたので都合がよいな、そう思いながら食事を終えて私は書斎へと向かった。
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