第2話 城の成り立ち

この城の歴史は公にはおよそ千年前に遡ると喧伝されている。しかし実際には、その五分の一程度の二百年余りであることは周知の事実であり城の成立は、隣国の貴族や王侯が記した日記に見て取れる。

―ある年、導師を名乗る男とそれに付き従う教団メンバー数十名が砂漠の広がる遥か東から当地を訪れ、その当時は何もなかったこの丘に居住を始めた。すぐに近隣の村々はこの教団を警戒して領主に訴え出て、領主も集団に立ち退きを求めて兵を出すことにした。導師は、ここはの地であるから退くわけにはいかないと述べると、その代わりにと領主の面前で手から金砂を生み出し献上したという。領主も金の献上に満足したのかとりあえず導師と教団の丘への居住を許し、その場では兵を引き居館に帰った。ところが、話を聞いた家臣達は奇怪な術を使う導師は異教の徒であり許すべきでなく、また金を生み出せるならば捕まえたうえでもっと絞り取ればよいと再三の注進を行った。注進を受けた領主は、翌日には心変わりして再度丘に兵を向けた。ところが、丘のふもとを流れる川までたどり着いた領主の兵達が見たのは前日には存在しなかった城が丘の上に立つ姿であった。導師たちは、領主が再度兵を向けることを見越して、一夜にして城を築いたのであった。―

これがよく知られている。この城が建てられた経緯である。その後の顛末は次の通りだ。


驚嘆した領主は、自分では手に負えないと国王に助けを求めた。国王もすぐに兵を送ったが城は強固で落とすことができない。異教徒の国を許すわけにはいかないという建前と首謀者が金を生み出せるとの噂もあいまって、最終的には周辺国が連合軍を組んで城を攻めた。数万とも呼ばれる連合軍に、多勢に無勢の導師側は大いに苦しんだようだ。城が堅牢であるといっても所詮は数十人、城外に攻め打って出ることもできない中で着々と攻城の準備を連合軍に整えられ、陥落まであと数日という状況下まで追い詰められた。

そんなある夜、城から数里離れた場所で連合軍本体が明日の攻勢のために夜営を張って休息していた。以下は従軍していた貴族の従者が残した記述による。

―皆が寝静まった深夜のことである。城のほうを眺めていると突如丘全体が光り輝きだしたのを私と数名の見張りが見つけた。寝ている者たちに知らせようとした直後にこの世のものとは思えぬ轟音が鳴り響き、火球が上空へと打ち上がった。あっけにとられている内に火球はわれらの上空まで飛んでそのまま無数の火矢に分かれて雨のように降り注いできた。私を含めて兵達は散り散りにたって逃げだした。奴ら異教徒は超常の力を使う―


結局連合軍は壊滅して、その後も数回の攻撃が城に加えられたが、城を攻略することはできず丘一帯は都市国家として半ば公認されるにいたった。

その後のこの国は御覧の通りである。黄金の噂を聞きつけた商人や、導師の「力」に魅入られた信者達が城を囲う形で街を立て、各国も導師との通商を目的として商館を立てたため、すぐに川まで飲み込んでこの都市国家のテリトリーは広がった。正確にはこの都市国家の範囲は城内のみであり、その周囲はもともとの国の領地である。しかし、国軍も城においそれと近づくことができず、当然、税を徴収することもできない。都市国家と導師も城の外に基本的に無関心であったため、税のかからない街は繁栄を始めた。都市の繁栄は、それ自体が人を惹きつけ正のフィードバックとなり指数的にこの街を大きくしていく。領主という指導者を欠く街は、混沌の様相を呈していたが、中央にそびえる城とその中にいる導師を仰ぐことで微妙な均衡を保ちながら成長し、今やその規模は大国の首都に並ぶ程になっている。

人によってはこの街を理想都市と呼ぶ。私もその理想の面を享受している側であるが、これには賛成できない。自由な街は、自由の対価として様々な暗いものをこの街にもたらすものだ。

私は、城内の素朴な風景と、城外に広がる大都市の風景を行き来しながらそのアンバランスさを楽しんでいるのかもしれないな。そう思いながら学校の教室の扉を開けて、入った。

「おはよう、諸君。今日はこの国の歴史について述べる。そもそもー

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