今宵二人は、レッドゾーンを超えて

綺嬋

R:死せる二人は、ナイトメアを残して

れい。あんたは何をやっても駄目ね』

『勉強も運動もおまけに家事もできやしねぇ。お前を育てた金を請求していいか?』

「ごめんなさい……もっと、頑張るから」

──あたしの意志は奪われた。



『バイトなんかして、俺の稼ぎが少ないって馬鹿にしているのか?』

『困っちゃうわねぇ。お金の使い方を覚えたって仕方ないから、私たちに渡しなさい』

「違うの……お父さんとお母さん、いつも大変そうだから……」

 ──あたしの自由は奪われた。



『免許? なんだ、男でもできたのか。許さんぞ』

『出ていかれると困るのよね。ちゃんと稼いでもらわないと』

「うん……ずっと家にいるよ。大丈夫だから」

 ──あたしの将来は奪われた。



『……ねぇ麗、あなた【超閾者】エクスライナーになったの? 本当? よかったわねぇ』

『父さんたちがいい所見つけてやるからな。絶対に誰にも言うんじゃないぞ』

「お父さん、お母さん。どうしたの……?」

 ──あたしの存在意義は奪われた。



『騙したのか!? 俺たちを!! ふざけるな!! 麗はお前たちにくれてやったんだ! 金を払え! 金を──っぐぁ』

『嫌よ! 私だけでも助け──』

 ──あたしの軌道レールは奪われた。


 いつになっても脳から整理されない記憶のハイライトは、その数を増していったが。



 最後に刻まれたのは、両親の叫び声と、心臓を銃で穿たれ息絶えた後の姿だった。

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