第12話
僕たちは町から遠く離れた小川に沿って歩いていた。後ろを振り返ると遠くから山々が僕たちを静かに眺めている。左手には米粒のように小さな光がぽつんと浮いているのが目に映る。夕食の時間なのだろう。一方右手には空が青紫色のカーテンで覆われており、かろうじて空と地面の境目を判断することができる。車の道路を蹴る音や人間の騒がしい声が聞こえてこないおかげで、水を打つ川のさざめきを楽しむことができた。ガラスのように透き通った川底は赤ちゃんのこぶしのような、小さくて丸い石で敷き詰めているのを見ることができる。彼女の灯したランプがたおやかに川の中で揺れていた。
「それで、あなたこれからどこで寝るの?」
彼女は歩きながら川の先を見つめている。
「美男子の家で雨風を凌ぐことにするよ」
「その人ってもしかして『生命』の魔法が使える人かしら。」
「どうしてわかるんだい」
「だって彼、変人で有名だもの」
「『変人』だなんて失礼だよ。彼は情熱的で、好奇心に満ちた人間だよ。」
「そこなのよ。私からすればあれほど目を輝かせる人間は不気味なのよ。」
彼女の言い分は決して間違いではなかった、僕だって彼のような人間には小説や偉人にまつわる記録の中でしか会うことはできない。やはり偉人と呼ばれる天才たちは彼のような好奇心の下で産声をあげるのだろうか。バカと天才は紙一重とはよくいったものである。よくおかしな真似をして怒れている子ども達を見ると、僕は彼らを弁護したい気持ちでいっぱいになる。「いいですか、お父さん。どうか子ども達を許してあげてください。僕は決してあなたの息子さんとは縁があるわけではありませんが、子どもの気持ちに関しては理解しているつもりです。あなたは子ども達を『馬鹿者!』と怒鳴りつけますが、彼らはほんの少しこの世の中に対して、疑問を持っただけなのですよ。僕のような凡人はそういった好奇心などはとうの昔に消失してしまいました。この世の中に疑問を抱くことなど決して今の僕にはありません。どうか、彼らの純粋たる好奇心を手放さないでください。」というように。―もっとも彼らの純粋たる好奇心といえども許されない事象もあるわけだが。青年のような天才たちもそういった好奇心の前には子どものようになるではないか。僕たちは大人になってはいるが、子どもには劣っているのかもしれない―そんなことを僕は彼女のランプを眺めながら考えていた。すると、彼女は首だけを後ろに回れ右して、こう付け加えた。
「それに魔法で世界を変えよう、なんて抜かしているのよ。もうこの世界は成長を止めてしまったのに。」
彼女は夜空をぼんやりと眺めていた。夜空に星は見えなかった。
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